本インタビューが始まる前の撮影中、山田裕貴が佐藤二朗にふと尋ねた。映画『爆弾』で佐藤が演じた“スズキタゴサク”と名乗る男は、好きな役・やりたい役だったのか、と。佐藤は「これまでやってきた中でも、すごくやりたい役だったねえ」と即答した。その後、山田もインタビューで自身が演じた類家について、「僕とめっちゃ似ている」「一生忘れないだろう」とし、ほとばしる役への思いが口を突いて出た。今の日本映画界をけん引する二人が異口同音に特別な役だとする本作、その期待がうかがいしれる。
永井聡監督のもと、山田&佐藤と同じように高いエネルギーで集まった俳優・スタッフら、多くの要素がもたらした奇跡的なケミストリーの集合体である『爆弾』。スリルと興奮、サスペンスと感動、剥き出しになる人間の思いが入り混じり、大きなうねりをあげる。
劇中では、警視庁捜査一課・強行犯捜査係の刑事と謎の中年男として対峙し続けた両者。「とにかく面白い作品!」と胸を張る二人に、懸けた思いを単独インタビューした。
“スズキタゴサク”は
「何者かはわからない」
――『爆弾』で山田さんが演じた刑事の類家について。ご自身で考えたセリフかと思うようなシーンがいくつかあり、原作と照らし合わせましたがそのままだったので、とても驚きました。
山田:そうなんです。僕、(類家と)似ているんです。『爆弾』の岡田(翔太)プロデューサーとは、『東京リベンジャーズ』でもご一緒させていただいたんですけど、原作を知る前に岡田Pから「本当の山田くんは、類家だよね」と。そこから始まりました。
原作を読んで、世の中ではどうしようもできない問題が起きてしまうけれど、だからこそ類家が思う「刑事は人を助けようとする仕事だけど、全員は助けられない」と。現実をちゃんと受け止めた上で、今目の前にあるこれからの悪に対してはなんとか止めることができるという考えに「そうだよな」と共感しました。

――共感しながら、役を深めていったんですね。
山田:あくまでも僕の想像ですけど…類家は「ヒーローになりたいんだ」というところから、刑事になることを決めたと思うんです。子供の頃から頭が良すぎたことで人と話が合わず、そのまま成長して警察に入った。そこでも「なんでそんな動きをしてるの? 何やってんの、この警察の組織は」と思ったのかな、と。味方がいなくてもいいから、自分が振りかざす正義に対しては、純粋にまっすぐ自分の能力を使える場所で働こうとして、おそらく刑事という職業をまっとうしていると思うんです。
経緯や人生の歩み方は全然違ったかもしれないけれど、歪めてしまった世界が1回ぶっ壊れればいいのにと思ってしまうタゴちゃん(スズキタゴサク)の、その気持ちは分からなくもないと。そういった人が警察の中にいて踏みとどまって、どうにかうまい飯を食うことだけで「それでやってけるじゃん」と思っている。僕は類家をそう受け止めていました。

――佐藤さんは、そんな類家に迫るスズキタゴサクを演じました。スクリーンからも非常に圧を感じましたが、どのように向き合っていらしたんですか?
佐藤:答えにならないかもしれないけど、僕もいまだにね、スズキタゴサクが何者かはわからないんですよ。この作品は人間の善悪や命の重さを描いていて、すごく社会派な側面もあるけど、パキッとした答えは何一つ出ないんですよね。ちょっとグレーとでもいうか「こういうのを突きつけられる覚悟はあるか」と観た後、お客さんに十字架を背負わすような感覚もあって。何も考えないで白黒ついていて、笑って元気になって劇場を後にするという作品も芸能の力の一つだし、こうした答えがはっきり出ないところもエンタメの力の一つだと、僕は思っていて。
山田:そうですよね。
佐藤:繰り返し言っちゃうんですけど、僕自身もスズキタゴサクが謎の中年で、いまだに何者かよくわからないんです。ただ、ものすごく面白い作品だとは思っています。
