『ばけばけ』ヘブン役で話題の俳優トミー・バストウが、日本で見いだした環境に左右されない仕事の極意



2025年後期のNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』が話題だ。

中でも注目を集めているのが、髙石あかりさん演じるヒロイン・トキの夫、ヘブン役に抜擢された、イギリス出身の俳優、トミー・バストウさんだ。

カメラに向かってポーズを取るトミー・バストウ(Tommy Bastow)さん

トミー・バストウ(Tommy Bastow)

俳優、ミュージシャン。1991年8月26日生まれ、イギリス出身。2007年に結成されたロックバンド・FranKoのリードボーカルとしても活動。映画『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』(08年)、ドラマ『THE CROSSING/未来からの漂流者』(18年)、ドラマ『SHOGUN 将軍』(24年)などに出演。24年11月、2025年度後期連続テレビ小説『ばけばけ』で、ヒロインの夫役に抜擢される


イギリスとアメリカを拠点に活動しながら、「いつか日本の作品に出演したい」と夢を抱き続けてきた彼。

念願の朝ドラ出演に「まるで夢のようだ」と笑顔を見せる一方で、当初は西洋と日本の演技スタイルの違いに戸惑ったと明かす。

言語も文化もまるで異なるフィールドに飛び込み、模索の末に見いだした「環境に左右されずにパフォーマンスを発揮する」ための秘訣とは──。

ホームステイ先で毎朝観ていた、夢の朝ドラ

映画好きの父の影響で、世界中の映画を観ながら育ったトミーさん。中でも日本の映画に惹かれたと話す。



トミーさん

日本映画の中でも、昔の映画が好きです。ペースがいいですよね。

ゆったりとストーリーが展開していくのがすごくいい。特に黒澤明監督の作品が好きで、子どもの頃からたくさんの黒澤作品を観ながら育ちました。

俳優を志すようになった彼は、2008年に公開されたアメリカ・イギリス・ドイツ合作のコメディー映画でスクリーンデビューを果たす。

その後、イギリス・アメリカを拠点に俳優として活動の幅を広げる中で、10年以上にわたり独学で日本語の勉強を重ねていったトミーさん。日本にホームステイをし、語学学校にも通った。

そんなトミーさんが日本の朝ドラの存在を知ったのは、3年前。日本の語学学校に通っていた頃に放送されていた『ちむどんどん』『舞いあがれ!』を観ていたという。



トミーさん

昨年も日本にホームステイをしていたのですが、ホストファミリーと一緒に朝ごはんを食べながら『ブギウギ』を観ていました。

イギリスには朝ドラのような文化がないので、「日本では、たくさんの人が朝ごはんを食べながらドラマを楽しむんだ」と知り、なんてすばらしい文化なんだろうと思いましたね。

だから今回、日本の作品の中でも朝ドラに出演できるなんて、本当に夢のようです。

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の場面写真




ハリウッドでも活躍するトミーさんは、2024年にエミー賞を受賞したドラマ『SHOGUN 将軍』で注目されていたことも記憶に新しい。

『SHOGUN 将軍』で共演した穂志もえかさんから、今回『ばけばけ』のオーディションの話を聞いて参加した彼は、1767人の応募者から満場一致で選ばれた。

オーディション後は、よりいっそう日本語の勉強に励んだという。



トミーさん

僕は、「自分は日本語がペラペラだ」とうぬぼれていたんです。しかし、『SHOGUN 将軍』の撮影現場で、みんなの話していることが全然分からなくて。

語学学校のレッスンの場では、簡単な会話をしていたに過ぎなかったんだと知り、それからは1日8時間くらいかけて猛勉強しました。

日本語を学んだことは、自身にとって大きな財産になったと、トミーさんは笑顔を見せる。



トミーさん

日本語を習得したことで、できる仕事の幅が広がったのは日本で活動したかった僕にとって、とてもうれしいことでした。

また、異文化を理解するための一番の近道は、言語を習得することです。私が最も大切だと思っていることの一つである異文化交流のきっかけを得られたのも、うれしかったですね。

カメラに向かってポーズを取るトミー・バストウ(Tommy Bastow)さん




「自分の演技は日本人の目にどう映るのか」募っていった不安

日本語を学び、準備を重ねて『ばけばけ』の撮影に臨んだものの、クランクイン前は不安も募った。



トミーさん

日本の映画やドラマをたくさん観る中で、「西洋とは少し演技のスタイルが違うな」と感じていて。自分が西洋でやってきた演じ方だと、日本の視聴者に違和感を与えてしまうかもしれないと思ったんです。

日本語や日本の文化を理解し切れていなかったからこその不安だったと思います。

トミーさんは、そんな不安な気持ちをプロデューサーや監督に打ち明けた。

すると、彼らから返ってきたのは、「このドラマは他のドラマとは違う。他の作品や日本のスタイルは気にしなくていい。ありのままに演じていい」という答えだった。



トミーさん

この言葉を聞いて、「自分のスタイルでやってみよう」と気持ちを振り切ることができましたね。

また、日本に住み、言語を学び、文化への理解が深まれば深まるほど「自分の心配は思い過ごしだったかもしれない」と思えるようにもなりました。

カメラに向かってポーズを取るトミー・バストウ(Tommy Bastow)さん




作品を楽しむ視聴者がどんな文化や感性を持っているのか。それを理解しきれていないからこそ生まれる漠然とした不安を払拭するためには、自ら歩み寄り、理解を深めるしかない。

俳優にとって“お客さま”である視聴者の言語や文化を知るために、並々ならぬ努力を重ねてきたトミーさん。その地道な努力こそが、新しい環境に挑む彼に自信を与えたのだろう。



トミーさん

撮影がスタートすると、もう一つうれしい気付きがありました。言語や文化は違っても、やるべきことは同じなんだと。

俳優同士がお互いの話に耳を傾け、誠実に応える。そんなコミュニケーションさえ取れれば、心を通わせた芝居をすることができる。他のことは何も気にしなくていい。

『ばけばけ』の撮影を通して、そんなことに気付くことができました。

言語や文化の違いがあっても、やるべきことは同じ。

トミーさんの気付きは、「新しいフィールドで環境の違いに戸惑ったとしても、仕事の本質は何ら変わらない」ということを私たちに教えてくれる。

西洋で芝居していたからって、僕は何のメリットももたらしてはいない

日本人しかいない現場に、海外経験が豊富なトミーさんが参加することで現場にプラスの価値も発揮されただろう。

しかしこれに対してトミーさんは、首を横に振る。



トミーさん

フィールドがどこであろうと芝居は芝居。日本も西洋も本質は同じです。西洋で芝居をしていたからって、僕は何のメリットももたらしていないと思います(笑)

そう謙遜するトミーさんだが、「人としてのユニークさ(個性)は武器になる」と続ける。



トミーさん

国籍や属性などは関係なく、みんながユニークな存在。だから、周囲の人との違いを含めて、ありのままの自分を出すことを怖がらなくていい。

他の人のまねをする必要もないし、ユニークであることを大切にできるといいですよね。

カメラに向かってポーズを取るトミー・バストウ(Tommy Bastow)さん




自分のユニークさは何なのか。しっかり自分と向き合い、自分への理解を深める。そしてそれを思い切り表現していく。そんなことも、環境に左右されずにパフォーマンスを発揮する上では大切だと話すトミーさん。

今後については、日本での活躍の幅をもっと広げていきたいと笑顔を見せる。



トミーさん

日本でもっともっと仕事をしたいと思っています。舞台にもチャレンジしてみたいですね。

“顧客”を知るための最大限の努力をした上で、仕事の本質に目を向ける。そうやって活躍のフィールドを広げ続けてきた俳優、トミー・バストウさん。

彼の姿を日本の作品で目にする機会は、これからますます増えていくだろう。

カメラに向かってポーズを取るトミー・バストウ(Tommy Bastow)さん




取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

作品情報

連続テレビ小説『ばけばけ』【毎週月曜~土曜】 NHK総合 午前8時~8時15分 ※土曜は一週間の振り返り ほか

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』のキービジュアルポスター




小泉セツ&八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻がモデルの物語。明治の松江。怪談を愛する夫婦の何気ない日常を描きます。

【作】ふじきみつ彦
【音楽】牛尾憲輔
【主題歌】ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【キャスト】髙石あかり、トミー・バストウ / 吉沢亮 ほか
【放送予定】2025年9月29日(月)放送開始 (全25週125回)

公式サイト 公式X 公式Instagram

©NHK

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