【イントロダクション】
エナドリ飲んで狂暴化!軍事企業が開発した新商品“ゾルト”を飲んだ社員が、まるでゾンビの如く狂暴化し、残された社員は閉鎖されたビルから脱出を試みる。
主演に『キング・オブ・エジプト』(2016)、『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』(2017)のブレントン・スウェイツ。共演に『ドント・ブリーズ』(2016)のジェーン・レヴィ。
監督はリン・オーディング。脚本にイアン・ショア、ピーター・ギャンブル。
【ストーリー】
アメリカ、テキサス州ラボックに本社を構える「アモテック社」は、マシンガンから地雷まで様々な兵器開発を手掛ける大手軍事企業。
経理部で働くデズモンド(ブレントン・スウェイツ)は、遅刻の常習犯で勤務中に密かにゲーム開発を行う怠け者。上司のナスバウム(ザカリー・リーヴァイ)からは厄介者扱いされ、企業合併による報告書を仕上げないとクビを切られかねない状況。学生時代からの友人であり、密かに想いを寄せるサマンサ(ジェーン・レヴィ)を失望させまいとしつつ、同僚のレントワース(カート・フラー)と隠れてドラッグを決める始末。
ある日、デズモンドは社長のガント(グレッグ・ヘンリー)の主催する社内セミナーに同僚のムラト(カラン・ソーニ)らと参加するが、報告書を仕上げる決心をして早々にセミナーを抜け出し帰宅する。一方、セミナー会場では自社で開発した兵士用の新製品“ゾルト(Zolt)”が配られていた。帰宅したデズモンドはルームメイトらの誘いを断り切れずに酒を煽って遊び明かし、疲れて眠ってしまう。
翌朝、寝坊したデズモンドはスペルや文法が間違いだらけの報告書を印刷して出社する。社内の様子がおかしい事に気付かず、ナスバウムの呼び出しに応じて報告書を提出するが、彼のオフィスには彼によって殺害された同僚の遺体が転がっていた。事態が飲み込めず混乱するデズモンドは、出来の悪い報告書によって怒りのボルテージが上がり、狂暴化するナスバウムから逃げ出す。部署の他の人間も既にナスバウムと同じく狂暴化しており、部署全体が彼を追跡する。
デズモンドは社員がゾルトを飲んだ事で狂暴化した事を察し、サマンサの無事を確認すべく彼女のオフィスへ向かう。サマンサは既にゾルトを口にしていたが、幸い一缶の半分程しか飲んでいなかった。しかし、些細な怒りでも狂暴化し襲い掛かってくる事には変わりなく、デズモンドはやむなくサマンサを拘束する。
逃げ場を求めて社内を彷徨うデズモンドは、倉庫に隠れていたムラトと出会う。彼はゾルトを飲んでおらず、狂暴化せずに済んでいたのだ。
3人は建物から脱出を試みるが、デズモンドの仕業によって社内の防護プログラムが作動し、防護壁で窓が覆われ、かえって出られなくなってしまう。
脱出の手段を模索する中で、デズモンド達は人事部に居たレントワースを救出し、4人で唯一防護壁を解除出来る社長のガントに会うべく、危険な営業課を突破して上層階を目指す事になる。
【感想】
エナジードリンクが感染源となる異色のゾンビ映画、ゾンビ映画の亜種と言った印象。
その内容から、放題はオーストリアの大人気エナジードリンク「レッドブル(Red Bull)」を捩ったものであると思われる。因みに原題は“Office Uprising(事務所動乱)”。
本作を一言で表現するなら、“中途半端にお金を掛けたB級映画”と言ったところだろうか。
主演俳優やヒロイン役には、当時の若手注目株が起用されているし、アクションもクライマックスのアダムが操縦するロボット等には安っぽさを感じさせつつも、アクションの組み立て方には創意工夫が見え、「安っぽく見え過ぎない」という次元に留まっている。特に、中盤の見せ場である営業部を通り抜ける際の敵味方入り乱れての乱闘アクションは、昨今の一級エンターテインメント作品と比較しても引けを取らない。
デズモンドがガントのオフィスでショットガンを撃つ際、複数の敵を同時に倒す手立てとして、金魚鉢の中に大量に詰め込まれていた装填用の弾を撃ち、扇状に取り囲む6人の敵を一層する演出も面白かった。
また、ゾンビ映画の亜種としてのアイデアが素晴らしく、エナジードリンクでゾンビ化するというのは下らなくも斬新である。開発したのが軍事企業であり、目的も戦地に居る兵士の気分向上というのもフィクション的な説得力はある。結果、大量摂取した者は前頭葉が肥大化して狂暴性を発揮し、治療不可の状態に陥る。
そして、それはあくまで期限内に仕上げる為に本来予定されていた成分とは異なる成分が配合されて出来た副産物というのも良い。
とはいえ、最低限のコミュニケーション能力は有しており、恐らく摂取した者は「最も時間を掛けていた事」の目的遂行に従事するようになるのだろう。だからこそ、兵士ではなく社畜である「アモテック社」の社員達は、狂暴な仕事マシーンに変身したのだろう。バブル期の栄養ドリンク『リゲイン』のキャッチフレーズである「24時間戦えますか」を思い出した。
全編下ネタや暴言といった下品な台詞のオンパレードだが、その中でも印象的な台詞がチラホラ。
中でも社長のビルの「軍事企業で暴力はよくない」という台詞は最高。
「地雷もクラスター爆弾も、放射線弾だって被害を考慮して作ってない。そんなこと恐れるくらいなら、サンフランシスコで平和ソングを歌い花を育てろ」というのは、企業のトップとしてあるまじき台詞だが、清々しさを感じさせる突き抜け具合だった。
主演のブレントン・スウェイツは、他作品でも何処か頼りなさげな雰囲気のキャラクターを演じているが、本作では不真面目さの中にもサマンサへの想いだけは確かな青年役というのを好演していた。クライマックスで多種多様な銃を乱射する姿は見ていて楽しい。
また、『ゾンビランド』(2009)の“生き残る為の32のルール”を意識したと思われる、“会社での生き残り方”も面白い。
1、手には常にクリップボード(忙しそうに見えるから)。
2、困った時は専門用語
3、無益な発言で期待されずに済む
4、上階へ行くほど社員の人格が低下する
5、発注に関する実権は自分が握る
(5B、クソ野郎を苦しめる方法があるなら、経理の秘めた力を示せ。書類紛失だ)
6、ストレス軽減の為、呼吸法を練習(クスリをキメる)
7、自分のケツは自分で拭け
ヒロイン役のジェーン・レヴィは、何処かエマ・ストーンを感じさせる雰囲気で、ヒロインとしての存在感を放っている。ヒロインが中盤までテープでぐるぐる巻きにされ、縛り付けられた状態で社内を冒険するというのは、B級作品である本作ならではだろう。
そんな本作において、最も魅力的だったのが、ラスボスとなるナスバウム役のザカリー・リーヴァイだろう。彼の狂気染みた演技が、作品を最後まで引っ張って行ってくれている。ロボットアームを装着して襲い掛かってくる姿の間抜けさもご愛嬌。そんなロボットが有機物を燃料変換出来る設定は面白かった。
意外な役所には、キャッチフレーズを考える宣伝課のボブ役に『アンジェントルメン』(2024)のアラン・リッチマンが起用されていた事だろう。ナスバウムと対立したばかりに、ゾルトの空き缶で出来た手裏剣で首を刎ねられてアッサリ退場してしまうのは惜しかった。
ゾンビ映画とはいえ、あくまで亜種だからだろうか。ラストで全てのゾンビを排除し、救援も駆け付けて、めでたしめでたしという分かりやすいハッピーエンドなのは珍しい。
どうでも良いのだが、序盤でデズモンドがルームメイトのボンクラ達と一緒にやる遊びが、雑にキャラクターに扮してショッピングカートで行う『マリオカート』なのが如何にもB級という感じで嫌いじゃない。
【総評】
コンパクトな尺で描かれる異色のゾンビ映画は、そのアイデアの素晴らしさと凝った演出によって、B級ジャンル映画ながらもジャンルファンに一見の価値を提供している。
皆さんもエナジードリンクの飲み過ぎには気を付けましょう。
