日本における影絵作家の第一人者・藤城清治の展覧会『藤城清治101歳展 生きている喜びをともに』が、商業施設「グランフロント大阪」(大阪市北区)で開催中。大阪での開催は8年ぶりとなり、藤城が100歳以降に制作した展覧会初公開の最新作も鑑賞できる。
■ 大阪を描いた大パノラマがお出迎え
『藤城清治101歳展 生きている喜びをともに』内覧会に出席した影絵作家・藤城清治氏(10月21日・大阪市内)
動物やこびとたち、雄大な自然が細やかに切り出され、光と影が織りなすメルヘンの世界へ誘われる藤城清治の世界。戦後の物資不足のなか、自然の美しさに目を向けた藤城は、「人がいて、光と影があれば影絵はできる」と創作に没頭。雑誌『暮しの手帖』への連載を契機にカラー作品の新境地を開き、「楽しさ」「喜び」が込められた世界観で人々を魅了してきた。
101歳の誕生日に公開された『藤城清治101 アビーと共に生きる』は、明るい未来へ向かっていく希望が描かれていると解説した影絵作家・藤城清治氏(10月21日・大阪市内)
本展は16歳の時に描かれた油絵から最新作の影絵まで展示され、彼の歩みとともに、時代の変遷を追体験できる内容。まず入口で出迎える、横6m✕縦3mの大作『日本一大阪人パノラマ』は、大阪城や通天閣、道頓堀の看板など、大阪の名所が盛りだくさん。東京出身の藤城から見た大阪の賑やかな魅力が表現され、ビル群の数え切れないほどの窓1枚1枚にも、手を抜かない気迫が感じられる。
大阪の祭りを描いた『天神祭 今昔』(C)Fujishiro Seiji Museum
会場内には、ユーモアあふれる孫悟空の顔が印象的な『西遊記』など物語の挿絵シリーズをはじめ、1952年に結成された人形と影絵の劇団・木馬座で大人気となったオリジナルキャラクター・ケロヨンのコーナーといった往年のファンにうれしい展示も。作品下部に水槽がある展示ではより影絵の魅力が発揮され、ファンタジーな森の世界『風の中の白いピアノ』は鏡の中と水面へ果てしなく作品が続くような夢空間が広がる。
下の水面と横の鏡で果てしなく続くように見える『風の中の白いピアノ』
100歳以降に手がけた新作も多数展示されている(C)Fujishiro Seiji Museum
■ 戦争体験者として「平和」への願い
(手前)『悲しくも美しい平和への遺産』など戦争がテーマの作品も(C)Fujishiro Seiji Museum
日本各地の美風景作品も印象的だが、80歳以降は明るい面だけでなく、戦争や震災にまつわる作品も制作。広島の原爆ドームや、特攻隊で亡くなった親友を想って描いた桜並木の滑走路がモチーフの作品は、カラフルな千羽鶴や虹、こびとも描かれ、平和への願いが伝わってくるよう。東日本大震災後に、現地で防護服を着てデッサンした『福島 原発ススキの里』は原発そばの川で産卵のために遡上する鮭に、未来へ向かう人の姿を重ねた力作だ。
作品下に水を使った展示の『金閣寺』『銀閣寺』(中央)など幻想的な空間が広がる(C)Fujishiro Seiji Museum
日々、飽くなき創作意欲で新作を生み出し、本展には100歳以降の作品も多数展示。内覧会に訪れた藤城は101歳の誕生日に公開された影絵『藤城清治101 アビーと共に生きる』を解説し、音楽を奏でるこびと、浮遊する愛猫たちに囲まれた階段で、未来への希望を表現したそう。本展メインビジュアルにも愛猫を描き「動物は言葉が通じないからこそ、気持ちを考えるようになり、この地球で同じ命をもって一緒に生きている」と、あたたかな眼差しを向けた。
本展のための描き下ろし『ミラクルアビーとミラクルボーイ』
本展は「グランフロント大阪」 北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて、2026年1月4日まで開催(12月31日・1月1日は休館)。時間は10時~17時(入館は閉館30分前まで)。料金は一般2000円ほか。併設カフェ「CAFE Lab.」ではこびとや猫など、作品にちなんだ柄が浮かぶ「『影絵』カプチーノ」(5種・各990円)が限定販売される。
グッズ売場では、アクリルキーホルダーなどの雑貨、文具などを販売
会場の併設カフェ「CAFE Lab.」ではこびとや猫など、作品にちなんだ5種の柄の「『影絵』カプチーノ」(各990円)を販売
取材・文・写真/塩屋薫
