こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。最近学生の頃のメールアドレスを復活することができて、過去の自分の作品などが発掘されてとてもうれしいです。というわけで今日は、こちらの質問に過去のわたしが答えていこうと思います。
Q.私は最近、サブスクで様々な作品を見て色んな考えを得ることに豊かさを感じています。そこで、きゃのんさんの人生に最も影響を与えている物(映画、ドラマ、漫画、音楽、言葉など)はなんですか。
A.わたしも最近、ちゃんとインプットしようと思って、本を買ってみたりアマプラやネットフリックスで映画を見漁ったりしているところです。奇遇ですね。いい作品あったら教えてください。わたしは気に入ると同じ作品ばかり見てしまうのですが、その中でもわたしにとって大きな影響をもらった本が綿矢りささんの「夢を与える」という小説です。今日は過去に書いた読書感想文みたいなものを載せようと思います。よくこんな長く読書感想文書けていたなと、過去の自分を尊敬します。面白い小説なのでよかったら読んでみてください。


「夢を与える」を読んで
この作品は自分が高校生の頃に図書室で借りて一度読んだことがある本で、その時掴まれた心が今でもヒリヒリと残っていた。しかし、歳を少し重ねてから改めて読んでみると全く違うダメージを受け、苦しむ羽目になってしまった。この作品はドラマ化もされていて、春休みの間に一気に見てはそれもまたものすごく疲弊してしまった。それでも私はこの作品が好きで、狂った登場人物に共感してしまうのであった。
まず「夢を与える」というタイトルからは何を想像されるだろう。希望であったり、この作品にも出てくるが限られた人しか使うことのできない言葉だ。私もいつか、夢を与えられる人間になりたいと思っていたが、読み終える頃にはその夢は最初からなかったことになった。この言葉は主人公を、読者を苦しめることになる。
大体のあらすじは、幼い頃からチャイルドモデルとして活躍し、オファーされたCMで徐々に知名度を上げていた夕子はある出来事から爆発的にブレイクするが、仕事に次ぐ仕事で精神的にも肉体的にも擦り切れていく。順調に仕事をこなしていくが、忍び寄る影が夕子を捉えてしまい、栄光のうちにいた時はあんなにちやほやされていたのに転落したら波を引くように誰もいなくなる。最後には全てを失ってしまうという作品だ。
ある出来事というのは、共演者であったアケミが亡くなってショックを受けた夕子が葬式で悲しみ、よろめく姿をメディアに押さえられたことがきっかけだった。いつもテレビで見る明るいイメージの夕子とのコントラストが印象的で、それを機に夕子は信じられないほどのスピードで売れていく。他人の死で成功する様はなんとも残酷で、そんなことを望んでいなかった夕子もだんだんと狂っていくのが見ていられなかった。
第三者の視点から描かれていて、登場する人物全員に感情移入できてしまう。そして、この作品に出てくる人物たちは程よく全員が狂っているのであたかもそれが普通のように感じてしまうのも面白く読んでいて苦しくなる部分だった。綿矢りさ自身も初めての三人称の作品ということで、一人称のときは自分が主人公になりきるようにして書いたが、今回は三人称だから主人公も含めてそれぞれに対して距離を置き、「きっと、こういう人なんだ」と想像する感じで書いたと言っていた。それ故の文章の冷たさがより引き立たされているのだ。
夕子という主人公の裏には、ステージママで夕子に対しても父親に対しても物凄い執着心を持っている母親、他の女のために家を借りている父親、マネージャーやメイクさんやスタイリストなど、夕子のために、夕子の持ってくる仕事のために、夕子の稼ぐお金のために、生きている人たちが山のようにいた。しかし、夕子が恋に落ちたのは何の変哲もない二つ上の男の子であった。テレビで見かけた無名のダンサーに心引かれ、所在を聞き出し通うようになって、いつしかそのダンサーの男の子の正晃と付き合うようになる。真面目さは頑固さに変わり、国民的なアイドルの色恋沙汰だと週刊誌やワイドショーで評判になっても気にせず諦めず、説得されても聞かず正晃と付き合い続けた夕子は絶頂から転げ落ち、堕落していく。正晃は夕子を裏切ったのだ。自分との性行為の動画をネット上にばらまいた。それでも夕子は最後まで正晃を信じていたかったのが、何も知らず歳を重ねてしまった夕子の純愛だった。
最近話題にもなっている『誹謗中傷』が夕子を襲うシーンでは、息が出来なくなるほど苦しくなった。見なければいいものだと言われるのはどうしても納得がいかない。書く人が悪いのに、見たこちら側が悪になるのは意味がわからないし、書かれる側の人間が悪いと言われるのも泣き寝入りするしかなくなってしまう。2007年に刊行された本作だが、今の時代を生きている人たちに、読んで理解してもらいたい部分がたくさんあった。 最後の方に、「夢を与えるとは、他人の夢であり続けることなのだ。だから夢を与える側は夢を見てはいけない。恋をして夢を見た私は初めて自分の人生をむさぼり、テレビの向こう側の人たちと12年間繋ぎ続けてきた信頼の手を離してしまった。一度離したその手は、もう二度と戻ってこないだろう。」「私は他の女の子たちよりも早く老けるだろう」と夕子が言うシーンが印象的だった。
私は小説や映画を観ると、ものすごく影響を受けエネルギーを使ってしまう性格だ。自己投影してはその中の誰かになったような気になって悲しんだり、嬉しくなったりする。小説の存在は恐ろしいもので、時間を忘れてその世界に没頭できてしまう。授業中にこっそり読んでは、廊下を見回りしていた先生に何度か取り上げられたこともあった。それでも読みたいと思ったその時に一気に読まないと何となく気が済まなくてそわそわしてしまう。あまり多くの小説を読んできたわけじゃないが、エネルギーを使い、無理やり世界を広げるのは嫌いじゃない。もっとたくさんの小説を読んで、自分の中に新しい自分を見つけてその人にまた新しい小説を書かせたい。
大学に入るまで一切小説を書くことがなかった私だが、入学してから書かざるを得ない状況になって書いた小説はとても楽しかった。自分だけど自分じゃない、全く自分じゃない、誰のことでも書いていい小説というものに自由を感じた。書いたことがないから書けるわけがないと思っていたが、いざ挑戦してみると案外出来たりした。こうして小説という存在はまた私を救ってくれた。


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キャ・ノン
「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する11人組アイドルグループGANG PARADEのメンバー。また、「KiSSをあなたにお届けchu!♡」をキャッチコピーに活動するWACK初の王道5人組アイドルグループ『KiSS KiSS』のメンバーの一人でもある。ライブ好きで、苦手なことや、できないことは出来るようになればいいというタフでロックな精神の持ち主。2024年5月31日より自分自身のライブレポートなどを綴った『アイドルリアル備忘録』をSTREAMにて連載中。




