「映画界の魔術師」と称されるアカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロの最新作Netflix映画『フランケンシュタイン』がついに11月7日(金)より世界独占配信。それに先立って、10月24日からは一部劇場にて公開がスタートした。9月にはジャパンプレミアが開催され、アカデミー賞作品賞ほか4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)公開時以来7年ぶりにデル・トロ監督が来日。PRESS HORRORでは、このタイミングでのインタビューの機会に恵まれた。

インタビュアーを務めたのは、「日本ホラー映画大賞」の第2回と第3回で連続入選を果たし、大の特撮ファンでもある新進気鋭のクリエイター、小泉雄也。『パシフィック・リム』(13)をはじめとする作品に心打たれ、敬愛する監督としてギレルモ・デル・トロの名を真っ先に挙げる彼が、『フランケンシュタイン』について、そして創作の根底にある想いについて、話を訊いた。

少年時代の守護聖人たち

長編監督作『クロノス』(92)で華々しくデビューしたあと、『パンズ・ラビリンス』(06)、『パシフィック・リム』(13)、『シェイプ・オブ・ウォーター』などでの成功を経て、最もアーティスティックでかつクリエイティブ、ホラー映画、モンスター映画を語るうえで欠かせない映画作家となったデル・トロ監督。

そんなデル・トロ監督が少年時代に取り憑かれたように繰り返し描いていた3種類のモンスターが、『大アマゾンの半魚人』(54)の半魚人・ギルマン、『オペラ座の怪人』(1925)でロン・チェイニーが演じたファントム、そして「フランケンシュタイン」の怪物だった。メアリー・シェリーの原作小説「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」を、監督は11歳の頃に読んだという。

メアリー・シェリーの名作「フランケンシュタイン」がアカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロの世界観でよみがえるメアリー・シェリーの名作「フランケンシュタイン」がアカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロの世界観でよみがえるNetflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

「私が子どもの頃は、家族が望むような活発な少年ではありませんでした。彼らが思う幸せな子どもというのは外に出て活発にサッカーなどをしたり大胆なことをするような子どもでしたが、私は部屋で本を読み、憂鬱で落ち込んだりして、7歳なのに70歳のようでした。今は60歳なのに6歳児のようだけど(笑)」

これまでの監督の作品に登場したモンスターたちは外見的に醜く、異形、そしてどこか不完全だ。しかし、憂鬱な幼少期を過ごしたデルトロ監督にとって“異形のモンスター”は嘘をつかない正直な存在であり、“真実”だった。

【写真を見る】天才科学者ヴィクター・フランケンシュタインが生み出した“怪物”の存在により、「真のモンスターとはなにか」を問う壮大なドラマ【写真を見る】天才科学者ヴィクター・フランケンシュタインが生み出した“怪物”の存在により、「真のモンスターとはなにか」を問う壮大なドラマNetflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

「人間はいい人なのか、悪い人なのか、なにを考えてるのかわからない。でもモンスターは違う。モンスターは存在そのものから何者なのか、なにをする生き物なのかはすぐにわかる。例えば、ゴジラは建物を壊さないように急に横歩きとかはしないですから。彼らは嘘をつかないから魅力的なのです。一見、不完全に見えるものですが、私はそのモンスターと共に歩み、その旅路を遂げたことによって、赦すことや受け入れること、モンスターを通してありのままでいいんだということを学びました」

40年にわたる構想!長年の夢が実を結んだ『フランケンシュタイン』主演を務めるのはゴールデングローブ賞受賞俳優のオスカー・アイザック主演を務めるのはゴールデングローブ賞受賞俳優のオスカー・アイザックNetflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

デル・トロ版『フランケンシュタイン』は、実に40年以上の構想を経て完成した。自らの“守護聖人”だと語る「フランケンシュタインの怪物」は、何度も映画化され、多くの人々の認知を得ているが、この原作を完全に捉えられているものはまだないと監督は語る。本当は1時間以上語りたいと笑う監督が言うには、彼が掲げた「円(サークル)」のモチーフは、作品のすべてを貫いているという。

「映画の始まりから終わりまで、物語は円を描いています。光、太陽、窓、メデューサの頭、すべてが円形なんです。鏡は怪物とビクターが映し出されると、まるで二人が一つのものとしても投影されているように見えるし、研究所の床にある大きな穴も丸い円形。それは“痛み”や“苦悩”が父から子へ世代を越えて受け継がれていくことの象徴でもある。“赦し”を得ない限り、その円は閉じないということを表現しています」

己の欲望に駆られたヴィクターは、研究室に籠もり新たな生命を生み出すための挑戦に乗り出す己の欲望に駆られたヴィクターは、研究室に籠もり新たな生命を生み出すための挑戦に乗り出すNetflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

ヴィクターの物語を伝えることは彼の記憶を辿ることであり、そのために“色”、“アングル”の使い方に特に緻密なこだわりを注いでいた。

「序盤は母親との強い結びつき、そして鮮血を表現するために赤を、青年に成長すると青・白・金だけを使っています。そして終盤にはまた青を使っています。それぞれが彼の記憶を語る色として機能しているんです。カメラの動きも、幼少期は(スタンリー・キューブリック監督の)『バリー・リンドン』のように広角の画で捉え、青年期は色彩が増えてカメラは縦横無尽に動く。さらに、怪物が現れてからは、視点を変えておとぎ話のように、まるで子どもが森に誘われるように、初めて目にした世界を見せるような違う動きにしています」

監督は画面の一つ一つのディテールに意味を刻んでいった過程を説明してくれた。怪物の頭部のデザインは19世紀の骨相学を参考に作り上げ、そして衣装はほとんどの布地を一から機で織るなど、細部にまで意図とこだわりが詰め込まれている。

ギレルモ・デル・トロ監督が描き出す、荘厳で残酷な美の世界ギレルモ・デル・トロ監督が描き出す、荘厳で残酷な美の世界Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

「エリザベスの衣装は“自然”を象徴させたかったので、鉱物や蝶の羽、それからレントゲンの骨格のような意匠を自作しました。ヴィクターのジャケットは循環器系や解剖図のようなものをモチーフに。本当に細部にまで、もうキリがないほどこだわりましたよ。語り始めたら何時間あっても足りないほどです(笑)」

痛みなしには、物語は語れない

デル・トロ作品に登場する美しき異形のモンスターたちは常に痛みや苦悩、そして死に直面させられる。『シェイプ・オブ・ウォーター』の彼をはじめ、今回の『フランケンシュタイン』の怪物など、愛すべきモンスターたちが境地に立たされることを自身はどう思っているのか、その理由を尋ねると、監督は少し間を置いてから語り始めた。

第90回アカデミー賞では作品賞など4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)第90回アカデミー賞では作品賞など4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)[c]Everett Collection/AFLO

「物語を描くうえで、痛みがなければ半分の真実しか語れません。アメリカの映画でいうと、暴力を“善”と“悪”に分けて片方の側面から描くことが大半なんですね。『ブレイド2』で自分も似たようなことをやった経験がありますが…(苦笑)。それはいわば、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが振り付けとして踊っているようなものです」

「ただ、私が興味があるのは、ジェームズ・ボンドが悪役を撃ったとしたら、ボンドではなくて撃たれた人がどう死んでいくのか。彼が妻に電話して、『ちょっとボンドに撃たれたんだけど…』とか言いながら(笑)、その後どうなるのかを追いたいんです。モンスターに関しても同じ。私が見たい『フランケンシュタイン』の物語は、初めて森に入って見たことのない世界を目にする怪物や、葉が水面を流れる様子を見つめている怪物の情景なんです。同じ物語でもカメラを動かして見る側面を変えることでほかとはまったく違う物語を描くことができます」

デル・トロ監督の『フランケンシュタイン』の核心もまさにそこにあるという。創造主と被造物、父と子、赦す者と赦される者。その円環を断ち切ることができるのは、痛みを受け入れる瞬間だけであり、そこでようやく物語が生まれるのだ。

『パシフィック・リム』(13)ではKAIJUの生態も丁寧に描いた『パシフィック・リム』(13)ではKAIJUの生態も丁寧に描いた[c]Everett Collection/AFLO

「『パシフィック・リム』でもオオタチから子どもが生まれるという、戦っているシーンとはまったく異なる怪獣の生態を見せました。『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』では、ゼペットおじさんがピノキオの言うことに耳を傾けて、初めて自分は悪い父親だったんだと受け入れることができました。つまり、相容れない者同士でも別の側面を見せることでお互いを理解できるかもしれない。ヴィクターと怪物の関係もそうですが、お互いの不完全さを赦し合うことができる物語が、私にとってはいい物語なんです」

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