SDGsという言葉が広く知られるようになった今、その理念を行動に移す著名人たちが増えています。未来のための大切なことを、日々の活動や作品を通して伝え続けている人たち。そのまなざしに、目を向けました。

命懸けの環境保護活動を映画を介して世界へ(c)Delikado LLC

フィリピン南西部のパラワン島。手つかずの大自然と生態系が保たれ、“最後の秘境”とも目されるこの島には、バカンスを目的に国外から多くの観光客が訪れている。そんな華やかなイメージとは裏腹に、政治腐敗が蔓延し、経済発展のためと銘打った違法伐採や違法漁業が横行している実情も。

ドキュメンタリー映画『デリカド』は、この島を取り巻く喫緊で根深い問題を背景に、環境破壊を食い止めようとする環境警備隊、パラワンNGOネットワーク(以下、PNNI)の戦いを追った作品だ。監督のカール・マルクーナスさんは、AFP通信で環境問題などを取材してきたジャーナリスト。マニラ赴任時にこの地の深刻な事態を知った。

「2011年にエコツーリズムの記事を書くため、パラワン島での取材の準備をしていました。現地の環境活動家とコンタクトを取っていたんですが、取材の数日前に彼は射殺されてしまったんです。その経緯を究明したいと赴いたのが最初でした」

水面下で何が起こっているかを解明すべく、現地の活動家たちと接触したカールさん。彼らは匿名を条件に取材を引き受けた。

「政治家や実業家らを黒幕に、環境活動家の殺害事件が後を絶たない現状がある。ゆえに名を明かすのは危険なんですよね。そうした中で彼らがパラワン島における環境活動に関して一様に言及するのが、PNNIを率いる環境弁護士のボビー・チャンのことでした。それで、彼に会いにいきました」

(c)Delikado LLC

PNNIの活動は、違法伐採の現場に突撃し“私人逮捕”するアプローチ。活動拠点の入り口には、押収したチェーンソーが勲章のようにうずたかく積まれている。

「活動家たちの多くが表立った言動を避けざるを得ない中で、ボビーはチェーンソーを積み上げて活動を“公にする”のが大事だと語ったんです。妨害工作に屈せず、行動していく意志を示すことに意義があるのだと。その強い信念に胸を打たれました」

この時の一連の取材を、AFP通信の記事にまとめたカールさん。しかしこの背後にはより大きなストーリーがあり、もっと深く広く世に伝える重要性を痛感したそう。

「構造的に推進される環境破壊や活動家たちの殺害は、フィリピン国内だけではなく世界に共通する問題。映画にすることで、さまざまな人が立ち上がることを後押しできるのではないかと。自分の時間や労力を注ぎ込む価値があることだと思いました」

記事を専門とするジャーナリストゆえ、映画制作は未経験。撮影や編集技術もいちから学びながら着手していった。チェーンソーの押収現場にも同行。違法伐採者に返り討ちにあう危険性とは常に隣り合わせだ。

「タタやキャップというリーダーが現場を仕切っていて、互いに言葉もスムーズには通じない中で、当初は彼らに遅れを取らないよう必死についていきました。ですが共に野宿をし、時間を過ごす中で、活動の辛さや誰からも後押しされない徒労感を吐露してくれた。彼らを心から尊敬したし、彼らも映画にするという私の活動に賛同してくれて、互いに絆を深めていきました」

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