1970年の「よど号事件」を題材にしたNetflix韓国映画『グッドニュース』。ソル・ギョングらが魅せる痛烈な風刺と笑いに満ちた政治コメディを徹底レビュー。

 

「よど号ハイジャック事件」をモチーフに、1970年代の日韓関係と国家の欺瞞をブラックユーモアで描くNetflix韓国映画『グッドニュース』。

日本の旅客機が赤軍派の過激派にハイジャックされ、平壌への着陸を要求される事態が発生。事態を知ったKCIA(中央情報部)は、正体不明の政治フィクサーを投入し、機体をソウルに誘導すべく、空港を偽装する奇抜な作戦を展開する。

 

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監督を務めたのは『名もなき野良犬の輪舞』(2017)、『キングメーカー 大統領を作った男』(2021)、『キル・ボクスン』(2023)などのピョン・ソンヒョン。

ピョン・ソンヒョンの全監督作品に出演しているソル・ギョングが政治フィクサー「アムゲ」を演じているほか、ホン・ギョン、リュ・スンボム、チョン・ドヨン、山田孝之、椎名桔平、笠松将、山本奈衣瑠ら日韓豪華キャストが共演。

 

史実の再現に留まらず、韓国と日本、そして北朝鮮をめぐる政治構造や人間模様を“笑い”で描き、緊張とユーモアが絶妙に融合したスリリングな展開が魅力の風刺劇だ。

 

韓国映画『グッドニュース』は2025年10月17日よりNetflixにて配信中。

目次

 

Netflix韓国映画『グッドニュース』あらすじ

(C)Netflix

1970年(昭和45年)3月、日本航空351便が突如ハイジャックされた。9人の赤軍派メンバーが乗客と乗員合わせて131人を人質に取り、北朝鮮・平壌への飛行を要求する。

 

パイロットは「燃料が足りない」と犯人たちに信じさせ、福岡の板付空港に立ち寄ることに成功する。乗客の中に病人が出たために一部の乗客が解放されるが、犯人たちは爆弾を所持しており、余計な手出しをすると残りの乗客ともども自爆すると伝えて来た。

 

 日本空軍がパイロットに手渡したのは航空路に関する情報が全くない地図帳に載っているような朝鮮半島の地図だけだった、日本政府としては平壌に行かれても困るし行かなくても困る立場にあり、それは苦肉の策だった。 この状況を知ったアメリカは、旅客機が韓国上空を侵犯するため、韓国に事態を伝える。韓国側は日本政府に恩を売るため、一世一代の奇策に出る。

 

 KCIA(中央情報部)の長官パク・サンヒョンは、政治フィクサー「アムゲ」を使って、極秘作戦を計画。 地上から旅客機をダブルハイジャックし、平壌と偽ってソウルの金浦空港へ誘導するというのだ。

 

若き空軍中尉ソ・ゴミョンはこの作戦の管制を任され、嘘と真実のはざまに巻き込まれていく。

 

Nerflix韓国映画『グッドニュース』レビューと解説

(C)Netflix

韓国映画『グッドニュース』は実際に起きた「日本航空351便ハイジャック事件=よど号事件」を下敷きに、観客を1970年代という激動の時代に連れていく。

 

ピョン・ソンヒョン監督は、ほぼ史実通りにプロットを進めながら、史実の重さを軽やかに裏切る語り口でブラックコメディとして描き、時に第4の壁を破り、登場人物が観客に直接語りかけるなど、映画的メタ構造を駆使しながら、韓日両国の政治家や政治構造を徹底的に風刺している。

 

ソル・ギョング演じる政治フィクサー「アムゲ」(韓国語で「誰かさん」の意)の掴み所のない人物像がなんとも魅力的だ。彼は「必要なのは創造力と、それを信じる意志」と語るが、その通り、必要とあればどんな真実も創り出すことができる。

彼自身は複雑な身の上にありKCIA(中央情報部)の長官パク・サンヒョン(リュ・スンボム)にいいように使われている。終盤、大統領夫人役のチョン・ドヨンが空軍中尉ソ・ゴミョンに扮するホン・ギョンを励ますため駆け寄るシーンでは、アムゲはあわてて移動して画面から姿を消す。彼は決して表に現れてはいけない男なのだ。 ソル・ギョングはこのユニークで謎めいた人物をそのキャラクターと同様に、佇まいから台詞回しまで全て計算し尽くして演じている。

 

「表」と「裏」と言う言葉は映画の冒頭から「真実は時に月の裏側に存在する かといって表側がウソなわけではない」というトルーマン・シェイディなる人物の言葉が引用されるように本作の重要なキーワードとなっている。

「裏で何がおきようとも人は目に見えるものを信じそれが真実となりニュースになる」というのは、上記の言葉を受けたホン・ギョン扮するソ・ゴミョンの言葉だ。

 

ソ・ゴミョンは本作における数少ない道徳的なキャラクターだ。彼の誠実さは、官僚主義と政治的打算に満ちた世界での小さな光とも言えるが、そんな彼も、承認要求や名誉欲がないわけではない。時折、皆から賞賛される自身の姿や、インタビューを受ける姿を妄想し、人間的な側面をのぞかせているが、それが却って私たちに好感を抱かせるのは、ホン・ギョンの演技のなせる技だろう。

 

金浦空港を北朝鮮の風景に変えるという嘘のような作戦がコミカルに描かれる。実際はどのような方法を取ったのか不明だが、本作ではアムゲが映画会社から北朝鮮の国旗や軍服、民族衣装を調達して来る過程が描かれている。文字通り映画のような楽しさで、もしかしてピョン監督はこのシーンが撮りたくて本作を製作したのではと思えるくらいだ。

1970年代を再現した繊細で洗練されたプロダクションデザインが、このリアルと創造力を織り交ぜた展開をさらに引き立てている。また、旅客機は、1970年当時のボーイング機をアメリカから購入して使用したという。

 

本作が最も痛烈なのは、国家や権力者たちの“責任のなすり合い”を描く時だ。

どの国も、どの立場の人間も、自らの保身に走り、うまく行けば自分の手柄だが、失敗すれば他人のせいだ。そんな中で、本当に仕事をしているのはいつも姿が見えない裏の人間なのだ。

 

映画のラスト、アムゲは今回の活躍の褒美として、正式の名前をもらう。彼はこの一連の出来事でもっとも貧乏くじを引かされた人の名を選ぶ。それは人間として真面目に生きながら表に出ることを許されなかった該当人へのささやかな賛辞であり、真面目に対処した者ほど脇に追いやられ功績はすべて上司のものになるという不条理な社会への痛切な批判である。

 

『グッドニュース』はブラックコメディとして、歴史劇として、そして現代社会への鏡としても、必見の一本といえるだろう。

 

Netflix映画『グッドニュース』作品情報

(C)Netflix

2025年製作/136分/韓国/原題:굿뉴스(英題:Good News)/配信:Netflix

監督:ピョン・ソンヒョン 脚本:ピョン・ソンヒョン、イ・ジンソン 撮影:チョ・ヒョンレ 

出演:ソル・ギョング、ホン・ギョン、リュ・スンボム、山田孝之、椎名桔平、キム・ソンオ、笠松将、山本奈衣瑠、柊木陽太、チョン・ドヨン、ユン・ギョンホ、パク・ヨンギュ、チェ・ドクムン、佐野史郎、永山瑛太、西村正彦、キム・ジョンス、パク・ヘス、キム・ジフン、

 

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