劇場版『チェンソーマン レゼ篇』ポスター(c)news1
【10月21日 KOREA WAVE】今年の秋夕連休、韓国映画界を驚かせたのは日本アニメの劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の大ヒットだった。公開前までは『ボス』や『No Other Choice』などの韓国映画2本が興行を二分すると見られていたが、結果はまるで違った。
『チェンソーマン レゼ篇』は連休期間(10月3〜12日)で観客111万人を動員。1位『ボス』(203万人)との差はあったものの、2位『No Other Choice』(123万人)とは僅差だった。そして連休終盤の11日以降、4日連続でデイリー1位をキープし、累計観客数は190万人を突破した。
名節(大型連休)では、家族で楽しめる「無難な映画」がヒットするという定説が崩れた。『チェンソーマン レゼ篇』は暴力描写が多く、マニア向けの世界観を持つ作品で、家族連れには最も遠いタイプだ。それでも200万人に迫る興行を記録したのは、「観客の趣味嗜好がかつてないほど明確になった」ことを示している。
映画業界関係者は「コロナ以降、韓国映画界を支えてきた旧来の“興行パターン”が次々と崩壊している。『チェンソーマン』の成功もその象徴」と語った。
「一般大衆という言葉はもう通用しない。あるのは“趣味”だけだ」。ある制作会社関係者は、今回の現象をそう表現した。観客は“見せられる映画”ではなく、“見たい映画”を選ぶ時代になった。
特にその傾向を示しているのがコロナ禍以降の日本アニメの台頭だ。2019年まで、日本アニメが韓国年間興行50位に入ったことはほぼなかった。しかし2021年以降、『鬼滅の刃 無限列車編』(222万人)、『スズメの戸締まり』(558万人)、『THE FIRST SLAM DUNK』(490万人)など、毎年複数の作品がランキング入りし、今や劇場の主力コンテンツの一つとなった。かつては「オタクだけの趣味」とされた日本アニメが、今では一般観客を動員する王道に変わったのだ。
観客のマニア化は、OTT(オンライン動画配信)サービスの拡大と深く関係している。Netflixなどの普及により、視聴者は世界中の膨大なコンテンツに触れるようになり、自分の好みを細かく把握し、それに沿って作品を選ぶようになった。
日本アニメもこの恩恵を受けた。以前は違法ダウンロードでしか見られなかった作品群が、今では各種OTTで合法的に鑑賞でき、誰でも容易にファンになれる環境が整った。『鬼滅の刃』『チェンソーマン』といったシリーズは、韓国国内のほぼ全てのOTTで配信中だ。
映画評論家のキム・ギョンス氏は「かつては“見方を知らない”人がファンになれなかった。しかし今はOTTがその入り口を開き、観客が自らの趣味を確認し、強力なファンダム(熱狂的支持層)を形成するまでに至った」と分析した。
それに比べ、韓国映画は依然としてコロナ前の「万人向け」作品に固執している。代表的な失敗例として挙げられるのが、今年夏公開の『全知的な読者の視点から』だ。
原作ウェブ小説は世界で累計20億ビューを記録するほどの人気作だったが、映画化の過程で原作の個性やマニアックな要素が削られ、結果として原作ファンにも一般観客にもそっぽを向かれた。最終的に損益分岐点600万人に対し、わずか6分の1の観客しか集められずに終わった。
制作関係者は「もし、もっとマニアックに作っていれば、一般観客の賛否を呼びつつも熱狂的ファンの支持で“日本アニメのような大ヒット”になったかもしれない」と述懐した。
専門家は、日本アニメの成功にはファンダムだけでなく圧倒的な完成度があると指摘する。韓国の投資配給関係者は「『THE FIRST SLAM DUNK』『鬼滅の刃』『チェンソーマン』などはいずれもアニメーションとして世界最高レベルの演出力を誇る。韓国映画界は、作品の質そのものでもっと勝負する必要がある」と語った。
かつての「大衆映画」時代はすでに終わり、今は観客一人ひとりの趣味の時代へと移り変わっている。その潮流に最も敏感に反応しているのが日本アニメであり、いまだその波に乗り切れていないのが韓国映画界なのかもしれない。【NEWSIS ソン・ジョンビン記者】
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