炎上……それは、インターネットやSNSで、特定の人物、企業、投稿内容に対し、批判コメントが殺到し、多くの人に拡散され、収拾がつかなくなった状態を言う。時には捏造や、認識の齟齬で事実が歪められていても、SNSが暴走したら止まらない。やがて虚構が事実に「なってしまう」。映画『俺ではない炎上』は、事実無根の炎上により、殺人犯にされてしまうエリートサラリーマンを描いたスリリングなエンタメ作品だ。本作の主人公同様、「SNSを全くやっていない」という俳優・阿部寛さんにお話を伺った。
「リツイート、ってなんですか?」
――最新主演作『俺ではない炎上』で、事実無根の炎上で殺人犯に仕立てられ、警察や私人逮捕を狙う動画配信者などから逃げ続ける山縣泰介を演じます。この主人公も、演じる阿部さんも「SNSを全くやらない」という共通点があります。
「やらない理由はただ時代に乗り遅れているというだけで、そこに深い意味はないんですよ。ちょっと面倒臭いかな、という程度で。だから今回の主人公と似ているんですよね。『俺ではない炎上』の台本を最初に読んだ時はわからないことだらけでした。“リツイート(他のユーザーの投稿を自分のフォロワーに共有すること)”や“リプ(他人の投稿への返信)?”がどうして大ごとになっているのかわからなかった。
主人公の山縣泰介を演じる阿部寛さん。©︎2025「俺ではない炎上」製作委員会 ©︎浅倉秋成/双葉社
他にも“ハッシュタグ(検索用のタグ)”、“メンション(他のユーザーをタグ付けする機能)”、“DM(直接メッセージを送ること)”など、SNS用語の理解から始まった役作りでした。
とはいえ、LINEやChatGPTなどは使っていますよ。技術はどんどん進化している。いずれ映画以上に予測できないことが実社会で起きるのかもしれないと危惧しています。
そんな中、『俺ではない炎上』のお話をいただいたんです。SNSで勝手に犯人に仕立て上げられ、拡散され、日本中のどこにも逃げ場のない主人公の山縣泰介を演じました。ほぼパニック状態の逃亡劇で、現代社会の怖さを表現したサスペンスです。最近は強くて優秀な人物を演じることが多かったので、久しぶりに人間味のある役でした」(阿部寛さん、以下同)
©︎2025「俺ではない炎上」製作委員会 ©︎浅倉秋成/双葉社
――阿部さんが演じる「追われる男」はシリアスでありながら、どこか滑稽。大手企業の部長から、逃亡する殺人犯になっていくうちに、表情も行動も変わっていき、観客も「本当に殺したんじゃないか」と思ってしまう瞬間も。スリリングな展開でありながら、ほんの少しの愛嬌が空気を緩めており作品に引き込まれます。
「主人公は常に自分が正しいと思っている自己中心的な完璧主義の男で、古いタイプの人間です。そんな彼が犯罪の濡れ衣を着せられ、現代のSNS上の正義の成敗合戦に巻き込まる。その中で、彼が選択していく方向が常に間違っていくんです。確かに人間はパニックになると、後から考えるとあり得ないことをしていることがあるんですよね。主人公が本気で逃げれば逃げるほど面白い、そんなところもこの映画の見どころでしょうか」
――物語の終盤には、衣装をまとわずほぼ裸で撮影されたシーンもあり、阿部さんの肉体美に息を呑みます。
「逃げ続ける男の意志と強さが表れているシーンなんですが、格好がなぜか裸ですからね(笑)。撮影の日は真冬で寒くてきつかったですよ」