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セフォラとフレグランス部門がLVMHの第3四半期をけん引し、消費者の「小さなラグジュアリー」需要を反映した。

ディオールを中心とした新製品投入とストーリーテリング戦略が、美容カテゴリー全体の成長をあと押しした。

セフォラはイベント「セフォリア」などでブランド体験を強化し、北米・欧州・中東で堅調に拡大している。

LVMHの第3四半期決算では、セフォラ(Sephora)とフレグランス部門が売上をけん引した。顧客が「小さなラグジュアリー」を求めた結果である。

「セフォラはAmazonとはまったく異なる存在だ」と、LVMHの最高財務責任者セシル・カバニス氏は決算説明会で述べた。アナリストからAmazonがセフォラの競合になるかと問われた際の発言である。

「セフォラはブランドと出会う『目的地』だ。取り扱うブランドのうち2分の1はセフォラ限定であり、美のコンサルタントに直接会うことができる。だからこそ人々は『Amazonで買おう』ではなく、『セフォラへ行こう』というのだ」とカバニス氏は強調した。

この発言は、LVMHの第3四半期の業績を象徴している。グループのなかでも比較的静かな部門であるビューティとリテールが全体を支えたのだ。2025年最初の9カ月間のLVMHの総収益は580億ユーロ(約9兆8700億円)で、有機的には前年比2%減だったが、第3四半期では成長に回復。

香水・化粧品部門の売上は有機的に2%増加し、セフォラや高級トラベルリテーラーDFSを含むセレクティブリテーリング部門は7%増となった。これらの部門が、マクロ経済の停滞ムードを打ち破る消費者の熱気を証明した格好である。

新製品がけん引するビューティの勢い

カバニス氏と投資家向け広報責任者ロドルフ・オズン氏によると、ビューティ分野の売上は「瞬発的な話題」を生み出す新製品の投入によって支えられたという。ディオール(Dior)は「ルージュ・ディオール・オン・ステージ」や「バックステージ」、新作フレグランス「ミス・ディオール・ミステリユーズ」でリードした。

「第3四半期のディオールはメイクアップが好調で、革新的な商品展開が成功した。スキンケアもプレステージラインが成長をけん引した」とカバニス氏は述べた。さらに、ゲラン(Guerlain)、ジバンシィ・ビューティ(Givenchy Beauty)、メゾン・フランシス・クルジャン(Maison Francis Kurkdjian)も堅調な伸びを示した。

フレグランスブランド各社は、価格ではなく「ストーリーテリング」に依拠する戦略をとり、それが功を奏した。「カテゴリーを問わず、イノベーションを軸にしたメゾンが力強い成長を見せている」とオズン氏は述べた。

カバニス氏は、イノベーションがもっとも強く結びついているのは観光客ではなく地元の消費者だと指摘する。「成長の質はローカル顧客のなかにある」とし、中国本土での美容需要の回復や、米国・欧州での堅調なローカル販売を挙げた。一方で観光需要は、いまだパンデミック前の水準には戻っていない。

セフォラが見せた、突出した成績

今回の決算で際立ったのはセフォラである。セレクティブリテーリング部門の売上は、2025年最初の9カ月で126億ユーロ(約2兆1440億円)に達し、有機的に3%増加した。第3四半期単体では7%の成長を記録した。

特に北米がけん引役となり、店舗来客数と平均購入額の双方が大幅に上昇した。9月には、ヘイリー・ビーバー氏のブランド「ロード(Rhode)」が米国とカナダのセフォラ店舗およびオンラインで発売され、同社史上最大のブランドデビューとなった。オズン氏によれば「記録的な結果」であり、カバニス氏も「前例のない成功」と称えた。

またオズン氏は「セフォラの業績はアメリカ大陸、欧州、中東のすべての地域で堅調であり、有機的かつ横並びでの成長が見られた」と述べた。

体験型イベント「セフォリア」がブランド価値を高める

セフォラの成功を支えたのは、店舗販売だけではない。イベント「セフォリア(Sephoria)」シリーズも業績に貢献した。2025年は上海、パリ、ドバイで開催され、2026年初頭には米国版が予定されている。「セフォリアは、遊び心とローカル文化を取り入れたかたちで消費者が新しい商品を発見できる仕掛けだ」とオズン氏は語った。

好調な四半期となった一方で、カバニス氏とオズン氏は逆風にも言及した。為替の影響で報告上の数値は約5ポイント押し下げられ、マクロ経済環境も依然として不均衡である。それでもカバニス氏は勢いを強調した。「われわれが新しい取り組みやイノベーション、リテール変革を仕掛けるたびに、即座に顧客との絆と関心、そして熱狂が生まれる」と述べた。

LVMH全体のメッセージは「慎重な楽観主義」だった。第4四半期は比較対象が厳しくなるものの、2026年はより容易になる見込みだという。「マクロ環境は依然として非常に不安定だが、われわれは自信を持っている」とカバニス氏は締めくくった。

[原文:‘Sephora is everything Amazon is not’: LVMH’s beauty and retail brands are quietly outperforming]

Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:杉本結美)

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