アカデミー賞ノミネート作品『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15)のマイケル・キートンが、監督、主演、製作の3役を担った最新作『殺し屋のプロット』が12月5日(金)より公開となる。本作は、記憶を失う病に侵された老ヒットマンが人生最期の完全犯罪に挑む極上のLAネオ・ノワール。本作の公開に先立ち、注目のネオ・ノワール5選をお届けする。

【写真を見る】名優アル・パチーノが『殺し屋のプロット』で圧倒的な存在感で魅せる!【写真を見る】名優アル・パチーノが『殺し屋のプロット』で圧倒的な存在感で魅せる![c]2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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『殺し屋のプロット』は、「バットマン」シリーズでも知られるキートンにとってキャリアの集大成とも言える1作となった。共演にはアル・パチーノ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジェームズ・マースデン、ヨアンナ・クーリクら豪華キャストが集結。孤独な殺し屋の“終幕”を描き出す本作は、古典的なフィルム・ノワールのエッセンスを現代に継承する作品として、米Variety誌でも「デヴィッド・フィンチャー監督『ザ・キラー』(23)を凌駕するLAネオ・ノワール」と絶賛された注目作だ。

殺し屋ジョン・ノックス(マイケル・キートン)の疎遠になっている息子マイルズ役にジェームズ・マースデン殺し屋ジョン・ノックス(マイケル・キートン)の疎遠になっている息子マイルズ役にジェームズ・マースデン[c]2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

そもそもフィルム・ノワールとは1940年代から50年代にかけて、スタジオシステム全盛のハリウッドで流行した一大ジャンルだ。60年代に入ると、『アルファヴィル』(65)や『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(67)など、フィルム・ノワールの伝統を踏襲しながら、ジャンルの横断など新たな試みに挑む作品が登場しはじめ、それらは「ネオ・ノワール」と呼ばれるようになった。その後も「フレンチ・ノワール」や「韓国ノワール」といったサブジャンルが誕生するなど、今日まで時代性や地域性を反映した様々なネオ・ノワールが作られている。

ノックスを追うイカリ刑事役にスージー・ナカムラノックスを追うイカリ刑事役にスージー・ナカムラ[c]2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

そこで今回は、最新作『殺し屋のプロット』の公開を記念して、おすすめの新旧ネオ・ノワール5作をご紹介。近年も新進気鋭の監督が新たなエッセンスを加えたり、巨匠がオマージュを捧げるなどフィルム・ノワールは、いまなお映画人から愛されるジャンルであり、新たな傑作が次々に誕生している。『殺し屋のプロット』を観る前に、ぜひこのジャンルをおさらいしておきたい。

“ハードボイルド小説”の元祖、探偵フィリップ・マーロウが現代に甦る『探偵マーロウ』

村上春樹に多大な影響を与えたハードボイルド小説「長いお別れ(ロング・グッドバイ)」の、本家公認の続編「黒い瞳のブロンド」を映画化した『探偵マーロウ』(22)。ある日、ブロンドの美女が、ロサンゼルスで探偵業を営むフィリップ・マーロウを訪ねてくる。「失踪した愛人を探してほしい」という依頼を受けたマーロウは、愛人が働いていたハリウッドに潜入するが、捜査を進めるなかで次第に“ハリウッドの闇”に飲み込まれていく。

主人公のマーロウは、アメリカの作家レイモンド・チャンドラーが創り出した、“ハードボイルド”の代名詞的キャラクター。これまでハンフリー・ボガードやロバート・ミッチャムといったハリウッドの名優たちが演じ、『三つ数えろ』(46)、『湖中の女』(47)、『ブロンドの殺人者』(44)などの傑作フィルム・ノワールの主人公となってきたキャラクターを、出演100作目となったリーアム・ニーソンが演じた。

圧倒的な映像センスで映画ファンを魅了し続ける巨匠のネオ・ノワール『ザ・キラー』

『セブン』(95)、『ファイト・クラブ』(99)の名匠デヴィッド・フィンチャーが前作『Mank マンク』(20)に引き続き、Netflixオリジナル映画として手掛けた作品。自らに厳格なルールを課す冷酷な殺し屋が、ある任務でニアミスを犯し、殺しの仕事を失敗してしまう。そのことがきっかけで雇い主から狙われ、恋人が暴行を受けたことで、復讐を決意。世界中をまたにかけた追跡劇が繰り広げられる。

劇場公開は限定的だったものの、ベネツィア国際映画祭に出品されるなど高く評価された。フィルム・ノワールに典型的な、内省的でモノローグの多い孤独な男を、『SHAME -シェイム-』(11)、『ブラックバッグ』(25)のマイケル・ファスベンダーが見事に演じ、暗く陰鬱な世界観は、『Mank マンク』や『フェラーリ』(23)で知られる気鋭の撮影監督エリック・メッサーシュミットによって緻密に表現された。

フィルム・ノワール×クィア・ロマンス!A24が放つ過剰な愛の物語『愛はステロイド』

舞台は1989年、ニューメキシコ州の田舎町。父親が所有するトレーニングジムで働くルーはラスベガスでの成功を夢見るボディビルダーのジャッキーと出会い、恋に落ちる。ルーはジャッキーを応援するため、ステロイドをあげるが、次第にジャッキーの様子がおかしくなっていく。さらに、ルー自身も複雑な家族の問題を抱えており、2人は思いも寄らない事件へと引きずり込まれる。

監督は『セイント・モード/狂信』(19)で鮮烈なデビューを果たしたローズ・グラス。人気俳優クリステン・スチュワートが主人公のルーを演じ、『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』(25)でキーパーソンを演じたケイティ・オブライアンがジャッキーを演じる。退廃的なフィルム・ノワールと官能的なクィア・ロマンスが同居する、新感覚のネオ・ノワールは8月に日本で劇場公開され、現在も一部地域で公開中だ。

現代を舞台にした暴力と悲劇のネオ・ノワール『サターン・ボウリング』

警察官のギヨームは、父が遺したボウリング場“サターン・ボウリング”の管理権を、社会の周辺で生きてきた腹違いの弟アルマンに譲る。しかし、彼らが父から受け継いだのはボウリング場だけではなかった。やがて兄弟の周囲で若い女性をターゲットにした連続殺人事件が起こり始める。ギヨームは事件を追うなかで、底知れぬ暴力の螺旋へと足を踏み入れていく。

パトリシア・マズィ監督はフランスの映画誌カイエ・デュ・シネマで2022年のTOP10第6位に選ばれるなど、高い評価を受けた。ニコラス・レイ、パク・チャヌク、大島渚などにオマージュを捧げ、古典的なフィルム・ノワールの方法を踏襲しながら、“有害な男性性”の継承という現代社会の闇をあぶり出したネオ・ノワール。現在、ユーロスペースほかにて公開中。

ノワール×アクション×サバイバル!ジャンルを超えたクライムスリラー『ナイトコール』

鍵屋の青年マディは、ある晩、謎めいた女性クレールからアパートの1室を開けてほしいと頼まれる。マディが部屋の鍵を開けると、クレールは1つのバッグを持ち去る。しかし、その部屋の持ち主は冷酷なマフィア・ヤニックで、ヤニックに捕まったマディは朝までにクレールとバッグを見つけるべく、ブリュッセルの街を奔走することになる。

監督はベルギーの新星ミヒール・ブランシャール。長編デビュー作となった本作で、ベルギーのアカデミー賞といわれるマグリット賞で作品賞を含む10部門に輝いた。監督だけでなく、ジョナサン・フェルトレ、ナターシャ・クリエフ、ジョナ・ブロケなど、キャストも注目の若手俳優たちが出演。さらに特別出演として、フランスの人気俳優ロマン・デュリスがヤニック役を演じている。現在、新宿武蔵野館ほか全国公開中。

病に侵された老ヒットマンが挑む、人生最期の完全犯罪『殺し屋のプロット』

元将校&元学者という異色の経歴を持つ殺し屋ノックス(キートン)は、ある日、急速に記憶を失う病だと診断され、引退を決意することに。しかし、その矢先、疎遠だった息子のマイルズがノックスの元を訪れる。突然の来訪に驚くノックスだったが、マイルズはひょんなことから殺人を犯してしまい、助けを求めに来たのだった。病が進行し記憶が失われていくなか、愛する息子のために、ノックスは人生最期の完全犯罪に挑む。

『殺し屋のプロット』は12月5日(金)より公開『殺し屋のプロット』は12月5日(金)より公開[c]2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

80年代からハリウッドを牽引してきたキートンが、満を持して古典的ハリウッド映画の一大ジャンル、フィルム・ノワールにオマージュを捧げてみせた『殺し屋のプロット』。共演にハリウッドの生きる伝説にして、犯罪映画のカリスマ、パチーノも参加している。犯罪映画であると同時に、家族の物語でもある本作。緻密かつスリリングな犯罪と、1人の男の“人生の締めくくり方”が交錯する緊迫のLAネオ・ノワールの傑作が誕生した。『殺し屋のプロット』は12月5日(金)より公開となる。

文/山崎伸子

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