圧巻のノンストップ・アクション、全編これ震えっぱなし。ベルギー発でブリュッセルの一夜の出来事を上出来脚本で描き切る。ハリウッドからリメイクだってありそうな絶好調の勢いが爽快。英題も邦題も「ナイトコール」なんて少々安っぽい、「夜の鍵穴」なんてよけいに厭らしいか、「命がけ鍵屋」なんて面白そう。

 巻頭、犬が吠える中、鍵が壊され悪党が侵入か、と思わせ鍵のレスキュー業者を手際よく紹介、ペトラ・クラークの曲をされげなく挿入する手際の良さ。続いてのナイトコールは若い女が鍵を無くしてアパートメントに入れないと、着いてみても依頼人は見当たらず、近くのコンビニで軽食をレンチンしている間に依頼人のアップを映し出す、要するに本作のカギを握る女を観客に知らしめる、流石の導入部に舌を巻く。思わず口ずさむペトラ・クラークがまた伏線で。難なく鍵を開けたら・・・の起承転結の起に一気に乗せられる。それにしても鍵明けに€250って高くない?44,000円ですよ!

 お気楽バイトが一気に命がけって急展開に、ご本人のみならず観客まであれよあれよのスリリング。悪党二人の会話に、ちょいと誌的な表現かましただけで、「お前ゲイ?」とヤジられる不寛容に驚く。悪党のボスに名優ロマン・デュリスが扮し、知的で優しそうな雰囲気を逆手にとった残虐ぶりも驚かされる。二転三転の状況転換も手際よく、主人公マディも隠れたつもりでも限界突破の無茶ぶりで窮地の連続。

 背景に移民反対に抗議するデモ隊を取り入れ、彼等の苦境を浮き彫りにする。「どん底に落とされたら這い上がるのみ」のセリフがこれまた粋で、複数回繰り返されるモチーフに昇華する。とにかく練りこんだ作劇には圧倒の連続です。主演の若手俳優ジョナサン・フェルトレは見るからに人が良さげで、「ゲット・アウト」2017年のダニエル・カルーヤのようで、巻き込まれ災難役に相応しい。

 やっと真犯人も見つかって、やれやれと放免されたものの。もやもやが晴れず、張本人の女からは「ごめん」の一言をもらい、むくむくと湧き上がる正義感の描写がクライマックスで。ブリュッセルの夜のカーチェイスが娯楽映画のルーティーン通りで見せ場もばっちり。どんなラストを用意すればよろしいのか? ハッピーエンド寄りも白々しくなるのか、悲劇一辺倒でも遣る瀬無い、で再びブラック・リブズ・マターの状況に救われるとは、天晴れな一作でした。アムステルダム行きの始発列車が「6分遅れ」と表示されるもドラマの流れに活かせず惜しい。

 夜明けの白みがかった街中で車のクラッシュ撮影が素晴らしい。どうやら這い上がる事が出来たようで、一安心。

Leave A Reply