『ばけばけ』のヒロイン・松野トキを演じる髙石あかり(写真:VCG/アフロ)

 朝ドラことNHK連続テレビ小説の新作『ばけばけ』の放送開始から、約2週間が過ぎた。ここまでの出来映えは出色。従来の朝ドラとは一線を画していることから、新鮮でもある。

 テーマは身近でありながら奥深い。「家族愛」と「幸福とは何か」である。制作統括・橋爪國臣氏(39)らが考え抜いてドラマをつくっていることが伝わってくる。

時代についていけなかった武士とその家族、そこに重なる現代人の姿

 描かれているのは時代に取り残されてしまった人たち。明治初期の元武士とその家族である。制度や価値観の急変についていけず、辛酸を舐めている。観る側にとって縁遠い人たちの話ではない。評価主義時代やコンプライアンス時代などに戸惑う多くの現代人が投影されている。

 ヒロインは小泉セツをモデルとする松野トキ(髙石あかり)。鳥取県松江市の元武家・松野家の一人娘である。第10回だった1886(明19)年、元武士の山根銀二郎(寛一郎)と結婚したが、やがて離婚する。1891(明24)年に英語教師から新聞記者に転じたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)と再婚する。こちらのモデルは元東京帝国大学講師で随筆家の小泉八雲である。

 ヘブンと出会う前のトキ(少女期・福地美晴)は試練の連続だった。家が貧しかったためだ。ただし、お涙ちょうだいの苦労譚とは違う。笑いとペーソスに満ちた物語である。後味もいい。

 1876(明9)年ごろだった第1回、10歳に満たぬ小学生のトキは、父親・松野司之介(岡部たかし)による丑の刻参りに付き合わされる。母親のフミ(池脇千鶴)、祖父の勘右衛門(小日向文世)も一緒だ。

「一家揃って世を恨み、丑の刻参りをする」(司之介)

 司之介が恨んだのは武士の世を終わらせた薩長連合と新政府だ。1868(明元)年に明治期になっていたが、司之介も勘右衛門もずっと武士の世を懐かしむばかりだった。この時点ではマゲもしっかりあった。

 ほかの元武士たちは役人や商人に転じていったものの、司之介は仕事にも就かない。松野家の収入はフミの内職代だけ。生活はひどく困窮していた。

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