ファッション映画は観客のインスピレーション源になるだけでなく、時代の写し鏡でもある。ファッションと映画ほど相性のいい組み合わせはない。ドレスの繊細な動きを監督の巧みな技術で捉えた映像や、デザイナーの長年にわたる業界への貢献を描いた名作……ファッションは、映画史に残る印象的なシーンを数多く生み出してきた。
ファッション業界という謎に包まれた世界への好奇心を満たすため、あるいはファッション史における重要な瞬間の裏側を知るため、華やかな装いで夢の世界に浸るためでもいいだろう。今回は、今観るべき歴史を代表するファッション映画12本を紹介する。
1. 『パリの恋人』(1957年)
Courtesy of Everett Collection
ハリウッド黄金期の華やかさを愛する人、ミュージカルに目がない人、そしてパリへの憧れを抱き続けている人にとって、『パリの恋人』ほどよろこびに満ちた作品はないだろう。オードリー・ヘプバーンが演じるのは、ニューヨークの小さな書店で働く控えめな店員ジョー・ストックトン。彼女の夢は哲学を学ぶためにパリへ行くこと。ところが、ひょんなことから著名なファッション写真家ディック・エイヴリー(フレッド・アステア)に見出され、ミューズとしてパリへ渡ることに。ジョージ&アイラ・ガーシュウィンの楽曲、エディス・ヘッドとユベール・ド・ジバンシィによる豪華な衣装、そしてパリの美しいロケーションが詰め込まれた本作は、オートクチュールの魅力を称える完璧な1本だ。
印象的なシーン
ランウェイでのピンクのショートケープ、ラストシーンでのドロップウエストのバトーネック・ウェディングドレスなど、エディス・ヘッド&ジバンシィが手がけた衣装はどれも息をのむ美しさだ。ジャズクラブのシーンでヘプバーンが着る黒のタートルネック、カプリパンツ、バレエフラットの組み合わせは、1950年代を象徴するスタイルとして時代を表象している。
ファッショントリビア
編集長マギー・プレスコット(ケイ・トンプソン)のキャラクターは、実在のファッションアイコン、ダイアナ・ヴリーランドをモデルにしているそう。また、フレッド・アステア演じる写真家は、伝説的なフォトグラファー リチャード・アヴェドンから着想を得ている。
2. 『欲望』(1966年)
Vanessa Redgrave and David Hemmings in Blow-Up.Courtesy of Everett Collection