ミステリーランキング2冠を達成した呉勝浩による同名小説を映画化した『爆弾』が、10月31日(金)よりスクリーンに登場する。「スズキタゴサク」と名乗る謎の中年男が発した爆破予告を皮切りに、東京を丸ごと恐怖に陥れる連続爆破事件が巻き起こる様子を描く本作。刑事たちvsタゴサクの攻防戦と、迫力あふれる爆破シーンが交錯し、驚愕のラストまでひと時も目の離せない映画として完成している。そこでMOVIE WALKER PRESSは、冒頭から観客の視線を釘付けにする、秋葉原爆破事件の撮影現場に潜入。約300人のエキストラが参加し、爆発によって車や人が吹っ飛ぶ壮絶なシーンを生み出した熱い一夜に密着した。

大自然に囲まれた施設に秋葉原を完全再現

呉勝浩の小説を、『キャラクター』(21)や『帝一の國』(17)などで知られる永井聡監督が映画化した本作。酔った勢いで暴行を働き警察に連行された「スズキタゴサク」と名乗る男(佐藤二朗)が、「霊感で事件を予知できます」「これから3回、次は1時間後に爆発します」と爆破予告をお見舞い。タゴサクは刑事たちの問いかけをのらりくらりとかわしつつ、次第に爆弾に関する“クイズ”を出し始める。得体の知れない怪物に真正面から勝負を挑む警視庁捜査一課の類家(山田裕貴)ら刑事たちは、謎を解き爆発を止めることができるのか。そしてタゴサクは一体、何者なのか…。取調室を舞台とした名優たちの演技合戦と共に、東京中を駆け巡る爆弾探しや爆破シーンといったスリリングなアクションもふんだんに味わえる1本となっている。

映画冒頭、取調室でタゴサクは「刑事さんの役に立ちます。昔から、霊感だけは自信がありまして。十時ぴったり、秋葉原のほうできっとなにかありますよ」と唐突に話し始める。酔っ払いのたわごとだと刑事の等々力(染谷将太)や伊勢(寛一郎)が呆れ果てるなか、本当に秋葉原で爆発が起きてしまう。

警視庁捜査一課の類家(山田裕貴)と「スズキタゴサク」を名乗る謎の男(佐藤二朗)の対決も見もの…警視庁捜査一課の類家(山田裕貴)と「スズキタゴサク」を名乗る謎の男(佐藤二朗)の対決も見もの…[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会

いわばすべての始まりとなる、一つ目の爆弾が火を吹く秋葉原のシーンは、2025年2月に千葉県にあるロングウッドステーションで撮影が行われた。同施設は、あらゆる状況を撮影できるロケ地としても人気のスポット。原作では廃ビルだったところ、実写版では映画的なインパクトを加えるために秋葉原のシンボルでもあるラジオ会館が爆破されるという設定となり、この日は屋外スペースにラジオ会館周辺の様子が鮮やかに再現された。クレーンゲームが並ぶゲームセンターや電子部品を揃えた店、カラフルなネオンサイン。そしてコンカフェ嬢やサラリーマン、キャリーケースを転がした若者や外国からの観光客など、集まった老若男女のエキストラも秋葉原の活気を伝える衣装に身を包んでいる。

秋葉原の街を再現!轟音が響き渡り、爆破で車や人が吹っ飛ぶという衝撃的なシーンが撮影された秋葉原の街を再現!轟音が響き渡り、爆破で車や人が吹っ飛ぶという衝撃的なシーンが撮影された[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会

大自然に囲まれたロングウッドステーションは、夜が深まるごとに寒さも強まっていく。劇中で描かれるのは10月の出来事であるため、リハーサルではコートやマフラー、手袋をしていたエキストラも、本番ではそれらを脱いで夜通し行われた撮影にトライ。足踏みをして「いくぞー!」「おー!」とみんなで声を掛け合うなど、寒さと戦いながら一体感を高めていたのも印象的だ。

撮影されたのは、友だちとワイワイと歩く人、ビラ配りをするコンカフェ嬢など、人々が思い思いに街を行き交うなか、突然に轟音が響き渡り、爆破によって車や人が吹っ飛ぶというシーン。火薬を扱った爆破演出で、生々しいシーンを作り上げている。永井監督がとにかくこだわっていたのは、“リアリティ”。事前に専門機関に協力を仰ぎ、作中規模の爆発が起きた場合、周辺にはどのような影響があり、どのような反応があるのか、詳しく検証や議論が行われたという。アクション部の俳優がワイヤーで引っ張り上げられながら空中を吹っ飛ぶ演技を見せているほか、エキストラは数人単位でチームになり、爆発地点から近い人は倒れ込み、腰を抜かす人や、遠いところにいた場合はなにが起きたか気づかない人もいるはず、思わず動画撮影する人もいるだろうと細やかな演出が加えられ、ぐんぐん豊かなシーンへと進化していく。映画の隅々まで説得力を持たせるには、エキストラ一人ひとりの熱演が欠かせないと実感する瞬間だ。

衝撃の爆破シーンに、原作者の呉勝浩も「完璧!」と絶賛

本番では「アクション!」の合図をきっかけにエキストラが動き始め、「5、4、3、2、1」とカウントダウンに従ってドーン!と爆発が発生。その爆音は、本気で驚くほど迫力に満ちたもの。突風が吹き、黒煙と火薬の匂いが立ち込めるなか、爆破に使用されたセメントの破片も飛び散ってくる。エキストラもリハーサルから積み上げた演技に生の反応をプラスし、「キャー!」と悲鳴をあげながらセンセーショナルなシーンを見事に生み出していた。また駐車されていた車が吹っ飛んで柱にぶつかる一コマを撮り上げるために、爆風とワイヤーを使ってゴロン、ゴロン!と車をひっくり返らせる場面もあり、これにはスタッフが「いま、揺れたね…!」と地響きを体感するほどの力強さがあった。倒れ込んだり、咳き込んだり、支え合ったりと、それぞれに驚愕や恐怖を体現する熱演を見せたエキストラ。永井監督から「OK!」の声が上がると誰からともなく拍手が湧き起こり、煙だらけになった汚れをお互いに叩き合いながら笑顔を見せる人も。極寒のなか、全員が一致団結して前に進んだ姿には胸が熱くなるものがあった。

【写真を見る】坂東龍汰、驚愕!爆破シーンの迫力に「カッコいいリアクションを取ろうと思っていたんですが、無理でした」【写真を見る】坂東龍汰、驚愕!爆破シーンの迫力に「カッコいいリアクションを取ろうと思っていたんですが、無理でした」[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会

原作者の呉は、秋葉原爆破事件のシーンについて「本当にちゃんとやってくれているんだなとうれしくなりました。つかみは完璧!と思いながら、映画を観ていました」と興奮しきり。秋葉原だけでなく、交番勤務の倖田(伊藤沙莉)と矢吹(坂東龍汰)のコンビが外回り中に遭遇する爆破シーンも「すごかった。これならばクライマックスの爆発が安っぽくなるわけがないと思った」(呉)と喜んでいたが、このシーンでは坂東が「ドーン!という音と熱がブワッと来て!生まれたての子鹿みたいなリアクションをしてしまいました。カッコいいリアクションを取ろうと思っていたんですが、無理でした」と芯からびっくりしてしまったと苦笑い。「でもそれがリアルだなと思って。CGではない爆発。その熱気が画面からも伝わると思います。体を張って撮りました」と自信をのぞかせていた。

沼袋交番勤務の巡査長の矢吹(坂東龍太)と巡査の倖田(伊藤沙莉)も捜査にあたるが…沼袋交番勤務の巡査長の矢吹(坂東龍太)と巡査の倖田(伊藤沙莉)も捜査にあたるが…[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会

類家とタゴサクという強烈なキャラクターが登場する本作だが、彼らのやり取りから見えてくるのは、現代社会に潜む悪意や怒り。そして、それぞれに握りしめる正義や希望。どれも綺麗事ではない人間の本音や心情が浮かび上がるからこそ、壮絶な場面もマイルドにするのではなく「痛みは痛みとしてしっかりと描きたかった」と永井監督。爆破シーンにもその情熱がこめられ、ダイナミックでありつつ生々しい表現が追求された。7.1ch方式で制作され、「Dolby Atmosで観てもらうと、爆発した破片が顔の横を飛んでいくような感覚を味わえるはず」(永井監督)と音にも工夫が凝らされているというから、ぜひスクリーンで体感してほしい。

取材・文/成田おり枝

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