ピエール瀧

ピエール瀧

PROFILE: ピエール瀧/ミュージシャン、俳優

PROFILE: (ぴえーる・たき) 1967年、静岡県出身。89年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。YouTube番組「YOUR RECOMMENDATIONS」が好評配信中。著書に「ピエール瀧の23区23時」(産業編集センター)、「屁で空中ウクライナ」(太田出版)など。俳優としても「凶悪」や「日本で一番悪い奴ら」、「サンクチュアリ -聖域-」、「地面師たち」など、多くの作品に出演している。

孤独な死を迎えようとしている無期懲役囚の老人・阿久津は、独房の中で何者かに話しかけられる。彼に声を掛けたのは、人の言葉を話す不思議なホウセンカ。阿久津はホウセンカとの会話の中で、彼の人生について語り始める。それは一人の男がある目的のため、「大逆転」に人生をかけた愛の物語だった——。

ポップな絵柄からは想像もつかない緻密なストーリー展開と演出で話題を呼んだTVアニメ「オッドタクシー」。未だファンを増やし続けるその名作を世に送り出したクリエイタータッグ・木下麦(監督)&此元和津也(脚本)と、「映画大好きポンポさん」などを手掛けた制作スタジオ・CLAPがつくり上げるオリジナルアニメ映画「ホウセンカ」が10月10日に公開となる。主人公・阿久津の過去と現在を担い、W主演を務めるのは小林薫と戸塚純貴。本作の狂言回しを担い、タイトルにもなっているホウセンカの声は電気グルーヴのピエール瀧が担当する。それ以外にも阿久津のパートナーである永田那奈を満島ひかりと宮崎美子が演じるほか、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮(とろサーモン)、中山功太といったバラエティー豊かなキャストが集結。また音楽を担当するのはcero。独創的なアニメーションを、音でより鮮やかに演出する。

戸塚純貴が演じた若い頃の阿久津とピエール瀧が演じたホウセンカ

「地面師たち」や「新幹線大爆破」、「宝島」など、話題作に次々と出演するピエール瀧が声優に挑むのは約4年ぶり。おしゃべりな花という不可思議な役をどのように演じたのか、ピエールが気に入った本作の「何気なさ」、「大逆転」を感じたできごとなどについて語ってもらった。

“しゃべるホウセンカ”という役を演じて

ピエール瀧

ピエール瀧

——アニメ声優を担当されるのはNetflixシリーズ「スーパー・クルックス」のグラディエーター役以来、4年ぶりですよね。今回、「ホウセンカ」のどういう部分に魅力を感じオファーを引き受けたのでしょうか?

ピエール瀧(以下、ピエール):最初マネージャーに「瀧さん、しゃべるホウセンカの役で映画のオファーが来てます」って言われたんですよね。それを聞いて「何それ?」って。そのワードだけで面白いじゃないですか。その後、脚本をもらって読んだらすごくシンプルな物語じゃないですか。それで「これを2025年にアニメにするんだ。なんで?」って思ったんですよね(笑)。それはある意味ですごくチャレンジングにも感じたし、しゃべるホウセンカという役にも面白みを感じて引き受けました。

——“しゃべるホウセンカ”というこれまでにない役を演じるにあたり、監督とどのようなお話をされたんでしょうか?

ピエール:アフレコのときに監督とお会いして、脚本全体の打ち合わせをしたんです。その際にホウセンカのキャラクターは3つくらいパターンがありますが、どうしましょうという話をしました。1つ目は全てを達観した低い声の知の巨人パターン、2つ目はかわいらしく、よくしゃべる本当にいそうなキャラクターのパターン、3つ目は地球や人間のことがよく分かっておらず「人間同士で殺し合いすんの? へんな種族」とか言う宇宙人みたいなパターン。その3つをそれぞれ軽くやってみて、宇宙人みたいなやつでいきましょうとなりました。ホウセンカは目も口もないので、どうにもできるっちゃできる役だったんです。見た目にも感情が出る部分はないから、宇宙人っぽいドライな、かつ少しいたずらな感じが入ったキャラクターでもいけるなって。そう決まってからは、それを指標に進めていきました。

——確かににホウセンカは狂言回しのような立ち位置でありながら、「人間がどうなろうと知ったこっちゃない」というような浮世離れした存在でもあるので「宇宙人的」という表現がしっくりきました。ただ物語の展開とともに徐々に阿久津に対して愛着が湧いているようにも思えました。

ピエール:ホウセンカはキャラクター的に「突き放しすぎないよう、かわいくなりすぎないよう、感情が入りすぎないように……」というようにどこからも一定の距離を置いた存在という風に演じました。そこに阿久津への愛着を見出したように感じたならそれで正解だと思いますし、その逆の感じ方もアリだと思います。受け取る人の人生経験だったり、今置かれている状況によっても見え方が変わるお話だと思うので。

——ホウセンカの花言葉の一つに「心を開く」というのがあるんですよ。それもあって心を開いたのかなと思ったり。

ピエール:そうなんですか? そうやって観終わったあとに花言葉を調べたり、「そもそもホウセンカがなんでしゃべってんの?」というような構造的なものだったりを一緒に観た人とディスカッションするのも面白いですよね。とはいえ演じた側としてはそれらを全て分かった上でやっているわけではないんです。だから「こういう見方もあるんだよ」と観た人に教えてもらうのも楽しそうだなと、今の花言葉の話を聞いて思いました。

声優の仕事について

ピエール瀧

ピエール瀧

——声優でも役ごとにかなり声のトーンや発生を変えていますよね。「スーパー・クルックス」のグラディエーターは渋い声を出していた一方、本作はとても明るく軽妙で本作全体のトーンを底上げしているようにも感じました。

ピエール:阿久津や那奈に寄り添ってはいけないし、かといってホウセンカや植物に寄り添うのであればしゃべらないはずだから違うだろうし、いろんなことを考えると軽妙でありつつも感情を出さないようにしていました。ホウセンカは辛辣なことを言っているように見えますが、実は普通のことしか言ってないんですよね。人はパッと思いついても言い方を考えたり、状況によって角を丸めたりするけれど、それが一切ないだけで。別にディスっているわけではないし、正直に言っているだけだったりもする。かと思えばチベット仏教のお坊さんが言いそうな達観した台詞を言ったり、量子物理学のような話もしますよね。すごく高次元な存在のようであり、幻のようでもある。そういうキャラクターを表現するには重くないよう軽妙に、プラスチックの皿に乗せて出すようなイメージが一番良いのかなと思って声のトーンは意識しましたね。

——俳優の仕事もかなりやられていますが、声優とは演技のアプローチを変えているのでしょうか?

ピエール:どちらも作品に馴染むようにとは思っていますね。作品によって監督が求めるものがあるでしょうし、なるべく「瀧が演じている、瀧が声を出している」ではなくその人物が実際にいて動いているように見えるという風に演じたいので。その中で俳優であれば、扮装して鏡の前に立てば自分でも「こういう人か。この感じならこう言うだろう」とかって考えられるし、その人がやりそうな仕草とか捨て台詞とかアドリブを足してキャラクターの深度を深めることができると思います。

一方で、アニメーションはそこがもう決まっているので、俳優のように自分で入れられる部分がなかなかない。入れる余白があっても入れすぎて「瀧がやってんな」と思われるのもよくないですし。そういう自由度がない分、声優の方がスリリングですね。プレスコ収録のときにOKと言われたけど完成したものを観たらこういう風にすればよかった…となる可能性だってあるし、修正がしにくいし。ただ実際には存在しないキャラクター、今回であれば目鼻口もないホウセンカのようなキャラクターを演じられるのは面白いですよ。実写だと僕はグラディエーター役を演じられないじゃないですか。マッチョなヒーロー役を演じてくださいってオファーを受けても「何言ってんの?(笑)」って。でもそれがアニメだとできる。いろいろ制限があってスリリングではあるんですが、違う回路を使う仕事として声優も俳優もどちらも面白いですよ。

小林薫との共演

小林薫が演じた老いた阿久津とホウセンカ

——仕上がった作品を初めて観たときの感想はいかがでしたか?

ピエール:「あ、こうなんだ」でしたね(笑)。小林薫さんと2人でブースに入って、2日間かけて録ったんですが、そのときの映像は動かないコンテだったり、ホウセンカがどう動くかの矢印とタイムコードが書かれた線画だったりしたんです。おそらく声を先に録って、その声の息遣いや間をアニメーションに反映させるというプレスコのつくり方だったし、僕らのシーンだけ抜いてやっているので、他の人のお芝居も見ていないんですよ。だから全部の画が完成して、背景も入って、他の演者さんの声も入って完成したらこうなんだって完成品を観たときに思いましたね。

——小林さんと役やその関係性について話し合うことはあったんですか?

ピエール:そこは「じゃあ、やりますか」という感じで小林さんがパッと一発声を入れてくれて。それを聞いて「すごっ」ってなったくらいで、2人でどうこうすると話し合ったことはないです。画もないし、どう仕上がるかも分からないから僕も小林さんも手探りだったし、手探りのものをあまりディスカッションしても仕方ないじゃないですか。なので小林さんも僕も自分たちの持ち場を粛々とやっていたような気がします。

——作品資料にある小林さんのコメントに「収録の後、すぐに切り替えられなかった。ピエールさんも感じるものがあったのか、その日赤坂から渋谷まで歩いて帰ったそうだ」と記されていました。

ピエール:つい先ほど小林さんとお話したんですが、収録の後、小林さんは脳というか感情がとても疲れた感覚があって、家で放心状態になっていたそうなんです。それで他の人に聞いたら「ピエール瀧も歩いて帰った」って言うから、僕も感情の高まりを抑え、クールダウンするために歩いて帰ったと思ったと仰っていて。ただ実際のところそうではなくて、単純に仕事や友人と食事した後に歩いて帰るのを趣味にしているんですよ。だからその日も「今日は赤坂か。赤坂ならこの間あのルートや青山通りは通ったし、裏の路地を通って遊びながら帰ったら楽しそうだ。よし、そうしよう」と思って帰っただけなんです(笑)。僕は現場で「今日は以上とさせていただきます。お疲れ様でした」と言われた瞬間にきっちりと切り替わっているので。小林さんの仰ってることの方がきれいにまとまるのは分かるんですが、実際全然そんなことはないので(笑)。

映画「ホウセンカ」の好きなシーン

ピエール瀧

ピエール瀧

——演じる上で木下監督からはどのようなディレクションがあったんでしょうか?

ピエール:基本的には僕と小林さんに任せてくれました。ただ僕らはブースの中にいて外の声は聞こえないので、外で「イマイチだなぁ」とか言ってたかもしれませんが(笑)。一つ印象的なのが、劇中である組織にあることをお願いするシーンがあるんです。僕の台詞じゃないんですが、そのやり取りの中で「台詞がこれだと良くないんじゃないか、感情的に違うんじゃないか」と思う部分があって。違和感があることを監督に話したら持ち帰ってくれて、その次のときに台詞を直してくれたんです。だから演者の意見に対しても耳を傾けて、真摯に対応してくれる人だなと思いました。

——花であるホウセンカをピエールさんが演じることに意外な面白みを感じたのですが、監督がなぜピエールさんにその役を委ねたのかは聞きましたか?

ピエール:ホウセンカの役に無責任感が欲しくてオファーしてくれたのかなとは勝手に思ってますし、「こういうものが求められているのでは」と頭の中で考えたりはしますが、他の作品含め監督にオファー理由を聞くことはないですね。それを直で聞くのはキモいじゃないですか。レストラン行ったら、シェフが「お客さまはどうしてこの店を選ばれたんですか?」と聞いてくるみたいで(笑)。

——作品を観ていて、ピエールさんがとりわけ好きだった部分を教えてください。

ピエール:具体的なシーンではないんですが、この映画はなんでもないような描写をすごくたくさん入れているんですよ。夕方のお散歩だったり、空き地の画だったり、橋脚だけで未完成の高速道路だったり、何気ないものが途中一瞬だけ挟まっている。それがなんでもないようでいて、同時に意味があるようにも見える。阿久津と那奈がラーメン屋に行ったり、空き地の前で話していたりもそう。ホウセンカも、それほどみんなが好きだったり良いというような花じゃないという意味でなんでもないような存在だし。この映画はそういう何気ないシーンに、遠くで聞こえる工事の音や、通り過ぎる原付バイクの音だったりという街や空間の環境音をすごく上手に入れているんです。割とデフォルメされていて、決して書き込まれているわけじゃない素朴なキャラクターが送る何気ない日々の営みを、なんでもない背景や場所や環境音で演出している。面白いのはその背景や音で、この2人がどんなところでどういう暮らしをしているのかをすぐ説明できること。そういう些細な音や映像、シーンが積み重ねられていくうちに、きっとみんな気づかぬままこの世界に引き込まれていくんじゃないかなと。そういう何気なさの積み重ねがこの映画の好きな部分ではありますね。

——確かに音は本作における重要な要素でしたね。環境音もそうですが、花火とともにオープニングを鮮やかに彩るceroの音楽や、キャラクターたちが歌うベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」だったり。

ピエール:阿久津が「スタンド・バイ・ミー」を知ってるのは意外じゃないですか?「お前の性格とその感じで『スタンド・バイ・ミー』を認識してんの?映画で⁉︎」って思ったり(笑)。それはともかく、ceroが劇版をやるというのはすごく引きがありますよね。何ていうか…柔らかくもあるし、少し歪なところもあったりで良いなと思いました。

——1987年から始まる物語ですが、その時代と聞いて思い出すことはありますか?

ピエール:僕が高校を卒業して、東京に越してきたのが1986年なんです。初めて新しい土地にやってきて、ハイツみたいな住居に姉と一緒に住み始めたのが当時の状況。そこで「これが新しい俺の家か」って荷物の箱をビリっと開ける感じとか、ダイヤル式の電子レンジとか、こたつでくつろぐ時間とかは自分も体験したことでした。そういう80年代に新しい土地で暮らし始めたという過去があることもあり、阿久津や那奈が新しい家で暮らし始める姿には感じるものがありましたね。

俳優をする上で心掛けていること

ピエール瀧

ピエール瀧

——ピエールさんが俳優の仕事をする上で心掛けていることを教えてもらえますか?

ピエール:電気グルーヴをやる時とは違って…ということですよね? でも実際、音楽と俳優をやるときの差って実はそんなになくって。芝居の仕事は俳優をするというよりかは、物語や集団の一個を任されて、自分の中で工夫をしてちゃんとそう見えるようにするという感覚なんです。作品の一部をきちんとするということなので、あまり音楽から俳優へとモードを切り替えて、俳優のときはこういうことを気をつけて……ということはあまりない。強いていうなら「できないものはちゃんと断る」ということですかね。この役は僕がやらない方が良いなと思うときはあるので「これは違う人がやった方が良くないですか?」ということはしっかり言うようにしています。

——自分が出演した作品を見返すことはあるんですか?

ピエール:恐ろしい話、観ないものもたまにあったりして(笑)。こちらは脚本の字面からスタートしているので、その先にある景色がこう表現されているんだとか、いろんな人の台詞が合わさったらこんな感じに仕上がるんだという確認的な意味で観ることはもちろんあるし、それもひとつの楽しみではあります。ただ本作含め、映像作品ってあくまで監督とプロデューサーの作品だと思うので、僕はいわば盛り付けの皿のひとつを担当するような役割。漬物のときもあるし、メインのひとつをやることもある。そういう感覚なので、現場で「OK、終了です」と言われて花束をもらった時点でほぼ完結しているんですよね。そこから先はお客さんがどう観るかだと思うので、そういう意味で観ないときもあります。

——本作のキーワードに「大逆転」という言葉がありますね。登場人物たちがいかにして大逆転をするのかというのが本作の面白い部分でもありますが、ピエールさんが「大逆転」と感じたできごとを最後に教えてもらえますか?

ピエール:「これをして人生が逆転した」ということは別にないですね。ただちょっとしたできごとだと、自分がやっているピエール学園という草野球チームで大逆転しました。今年のリーグ戦の開幕戦だったんですが、最終回までに6点差をつけられて負けていたんですよ。そして最終回でツーアウトを取られて絶体絶命。ただそこから8四球を選びきって、最後6点差を逆転して勝ったんですよ。すごくないですか?最終回6点差ツーアウトランナーなしから8四球からの逆転って(笑)。最近の大逆転といえばそれですね。

PHOTOS:REIKO TOYAMA(LESEN)
STYLING:SO MATSUKAWA
HAIR & MAKEUP:SUGO(LUCKHAIR)

映画「ホウセンカ」

映画「ホウセンカ」ポスタービジュアル

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

映画「ホウセンカ」場面カット

◾️映画「ホウセンカ」
10月10日から新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:⼩林 薫 ⼾塚純貴
満島ひかり 宮崎美⼦
花江夏樹 安元洋貴 ⻫藤壮⾺ 村⽥秀亮(とろサーモン) 中⼭功太
ピエール瀧
監督・キャラクターデザイン:⽊下⻨
原作・脚本:此元和津也
企画・制作:CLAP
⾳楽:cero / 髙城晶平 荒内佑 橋本翼
演出:⽊下⻨ 原⽥奈奈
コンセプトアート:ミチノク峠
編集:後⽥良樹
制作プロデューサー:伊藤絹恵 松尾亮⼀郎
配給:ポニーキャニオン
製作:ホウセンカ製作委員会
©此元和津也/ホウセンカ製作委員会
https://anime-housenka.com/

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