第38回東京国際映画祭(TIFF)と日本外国特派員協会(FCCJ)共催で映画『ホウセンカ』(10月10日公開)の日本外国特派員協会記者会見が10月9日、丸の内・公益社団法人 日本外国特派員協会にて開催され、木下麦監督、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三、東京国際映画祭「アニメーション」部門プログラミング・アドバイザーの藤津亮太が出席した。

【写真を見る】初長編作品となるアニメーション映画『ホウセンカ』(10月10日公開)の木下麦監督。ホウセンカのおもちゃを手にニッコリ【写真を見る】初長編作品となるアニメーション映画『ホウセンカ』(10月10日公開)の木下麦監督。ホウセンカのおもちゃを手にニッコリ

木下監督の初長編作品となる本作は、2021年のオリジナルテレビアニメ「オッドタクシー」で監督、キャラクターデザインを手がけた木下監督と、此元和津也(原作・脚本)が再タッグし、“大逆転”に人生を懸けたある男の愛の物語を描くアニメーション映画で、「アヌシー国際アニメーション映画祭 2025」にて長編コンペティション部門に正式出品された。

今年の東京国際映画祭アニメーション部門の注目ポイントは東南アジア作品の上映が多いことと話した市山は、「昨年に引き続き力強い作品を集めています」とアピール。昨年は中国作品が多く上映されたが、今年も引き続き中国作品が多く上映されることに加えて、カンボジア、タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、フィリピンなど、東南アジアの作品が多く集まった。市山はこの傾向について、決して意図したプログラミングを行った訳ではなく、東南アジアで映画への投資が個人投資家から企業へと変化したことが一因ではないかと予想。もう一つ注目すべきポイントとしては、史実、歴史上の人物に基づく作品が多いとか語った上で、「かつ、我々が認識している人物像とは違う一面を見せてくれるような作品が多いです」と見どころを紹介した。

東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三

映画祭で上映される『ホウセンカ』のセレクト理由について「ユニークな作品であること。さらに、日本のアニメーションが培ってきた方向性を継承していること」と話した藤津は、「日本のアニメーションはヤングアダルト寄りで、思春期の青少年が主人公になることが多いけれど、本作は、ヤクザものの老人が主人公を務めているという点もとてもユニークです」と指摘。さらに、藤津は高畑勲から始まった「日常生活を丁寧に描くことに注力する」という点も引き継いでおり、その系譜の上にある作品だと感じているとも話した。作品もユニークだが、「木下監督自身のキャリアもユニーク」と付け加えた藤津は、木下監督のキャリアがキャラクターデザインから始まったこと、アニメーション制作会社でのキャリアを積んでいないことなどもとてもユニークな点だと紹介していた。

東京国際映画祭「アニメーション」部門プログラミング・アドバイザーの藤津亮太東京国際映画祭「アニメーション」部門プログラミング・アドバイザーの藤津亮太

また、藤津は木下監督が本作の制作前にアニメーション制作会社でアニメーターとして働き、アニメーションの作り方を学んだことに触れ、「絵を動かすトレーニングをしたのではなく、スタジオで作っている、集団制作をしているアニメーションがどのような工程でどのような組み合わせで作られていくのかを学んだのだと思います」と話し、それが「『ホウセンカ』のレイアウトの丁寧な作り、長いワンショット、ワンカットに反映されて、繊細な映画を作ることに繋がったのだと思います」と作品の感想を交えて、制作プロセスを解説した。

藤津のコメントを受け、「丁寧に映像を作っていくことを念頭において作った作品です。出来上がって、丁寧とか美しい作品と言われるのをすごくうれしく感じています」とニッコリの木下監督は、影響を受けた作品や監督、作風を問われると、「藤津さんがおっしゃっていたように高畑勲監督はもちろん、宮崎駿監督などたくさんいます」と回答。実写からも影響を受けているとし、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、北野武らの名前を挙げ、「基本的に、人間を描く作品に興味があり、(そういう作品やそれらを作った監督の)影響を受けています。映画の根本的なものは人間の変化を描くことだと思っているので、重要視しています」と丁寧に説明した。

映画『ホウセンカ』(10月10日公開)で長編映画デビューを果たした木下麦監督映画『ホウセンカ』(10月10日公開)で長編映画デビューを果たした木下麦監督

「オリジナル作品を作らせてもらえるのはとても貴重な機会だと思って挑みました」と本作の企画立ち上げを振り返り、「基本的にはまだ、生まれてない作品を作りたいという思いがあります」と語った木下監督。「昨今のアニメーションは躍動的なものが多いなかで、それらは面白いのでもちろん否定はしないけれど、自分自身は静けや構図、ライティングで感情を伝えたり、物語を紡いでいけると思っています。それを表現したいと思って挑戦しました」と木下監督自身が作品を作る理由を明かしていた。

フォトセッションの様子フォトセッションの様子

開催が迫った東京国際映画祭について、市山は「来日ゲストにビッグネームが揃っています」とし、クロエ・ジャオ監督や、初監督作品を提げて来日するジュリエット・ビノシュやファン・ビンビンなどの名前を挙げた上で、「他にも引き続き交渉中なので、ぜひ、来日ゲストにも会いに来てください」と呼びかけた。藤津は上映以外にもアニメーション部門には見どころがあるとし、「3つのシンポジウムを予定しています。どれでも興味深いアプローチになると思うので注目してください」とアピール。木下監督は、会見中ずっとテーブルに置いてあったホウセンカのおもちゃに触れ、「話しかけると動くものです」と紹介。会見中は静かだったが「劇中ではたくさんしゃべります!」と紹介し笑いを誘ったところで、「非売品です。かなり高いので…」と作品の宣伝用に作られたものだと補足していた。第38回東京国際映画祭は10月27日(月)から11月5日(水)まで開催される。

取材・文/タナカシノブ

※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記

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