記事のポイント

TikTok Shopはライブコマースを通じて美容業界の販売手法を刷新し、ブランドとクリエイター双方の成長を促している。

メイクだけでなく香水やスキンケアなど、従来オンライン販売が難しかったカテゴリーも成功を収めている。

ライブ配信は店舗販売にも波及効果をもたらし、発見型コマースとしてブランドのマーケティング戦略に組み込まれている。

TikTok Shopは、2023年末の米国ローンチ直後から、ビューティ分野のショッピング体験を一変させた。ブランド各社は同プラットフォームで新たな戦略を試み、TikTokユーザーに新商品の先行アクセスを与えたり、24時間連続のライブショッピングイベントを実施したりしている。

2024年には、TikTok上で合計800万時間以上のライブショッピングセッションが開催された。いまやライブショッピングは、マーケティング戦略の標準的要素になっている。たとえばフレグランスブランドのフルール(Phlur)は、週2回の定期ライブを配信している。TikTokでは、通常のライブ配信を「レギュラーライブ」、より長時間でクリエイターが司会する大規模配信を「メガライブ」と呼んで区別している。

新たな「QVC世代」の台頭

ライブショッピングの隆盛により、テレビ通販番組の司会者に似たスキルをもつ新しいタイプのクリエイターが登場した。彼らは長時間にわたりライブ販売を専門的に行う存在だ。

一部では、TikTok Shopはメイクアップのように即効的な変化が見える商品だけが成功すると考えられてきたが、実際にはビューティのあらゆるカテゴリで成果が出ている。フレグランスブランドのフルールは、2024年初頭からライブ販売に注力している。

「常に最先端でありたいという姿勢が我々のDNAだ。デジタル面でも同じだ。すでにTikTok Shopで成功しており、ライブ販売が次の進化だと理解していたので、いち早くテストをはじめた」とCMOのエリカ・ダニバン氏は語る。

TikTok Shopの本質は「ディスカバリーコマース」にあると、TikTok Shopのビューティ部門GMであるアジェイ・サルペカル氏は述べる。「取引の大半はショート動画だが、ライブの割合が着実に増えている」とも話す。

その収益性は驚異的だ。2024年9月、英国のコスメブランドP.ルイーズ(P.Louise)は、ホリデーコレクションをTikTokライブで先行販売し、わずか14時間で270万ドル(約4億1000万円)を売り上げ、記録を更新した。平均購入額は80ドル(約1万2000円)だった。

また、POVビューティ(POV Beauty)は、TikTok Shop参入初日の2024年7月に、12分間で1万2000ドル(約180万円)を売り上げた。創業者で人気クリエイターのミカエラ・ノゲイラ氏(TikTokフォロワー数1700万人超)への信頼が、購買意欲をあと押しした格好だ。

ブランド主導か、クリエイター主導か——ふたつのライブ形式

ライブ配信の形式には主に2種類ある。ブランド担当者が司会を務める「セラーライブ」と、専門のクリエイターが司会する「クリエイターライブ」だとサルペカル氏は説明する。

「ほとんどのブランドは両方を並行して実施している。ブランド自身の語りのチャンネルも必要だし、特にZ世代は自分と重ね合わせられるクリエイターを信頼する傾向が強い。だからこそ、ライブ販売が得意なクリエイターの力を借りるのは理にかなっている」と話す。

意外にも、TikTok上でもっとも急成長しているビューティカテゴリは「フレグランス」である。「香りを売るというのは物語を語ることに近い」とサルペカル氏は述べる。スキンケアブランドでも同様に成功事例が増えている。

「フレグランスをオンラインで買うというのは比較的新しい現象だ。以前は『香りを試さずに買う』ことは難しかったが、ライブショッピングによってブランドと顧客が直接やり取りし、質問もできるようになった」とダニバン氏は語る。

視聴者は、香りのノート(構成)やレイヤリングのコツを質問することが多いという。「まるで高級ブティックのカウンターのような体験が、ライブで再現されている」という。

ボディケアで知られるブランド、ゴーピュア(GoPure)もTikTokで成果を上げている。同社はクリエイターに対して、発売前に4週間製品を試す機会を提供する。対象商品は「タイトン&リフト・ネッククリーム」や「タイトン&スムース・ベリークリーム」など。

「スキンケアは結果が出るまで時間がかかるが、我々は戦略的に動いている。TikTok上に5万人以上のアフィリエイトネットワークを構築し、発売前に製品を提供する。4週間後には効果が見えはじめ、驚くようなビフォーアフターをライブで披露できるようになる。これこそが成功の要因だ」とマーケティング担当上級副社長のベサニー・クレリン氏は語る。販売成果に応じたコミッションがクリエイターへのインセンティブになっている。

1回のライブで10万ドル超え。数字で見る成果

ゴーピュアは2025年に入ってからすでにTikTokライブを483時間実施している。

人気製品「スカルプト&トーン・アームクリーム」を発売した際には、8時間のライブで10万ドル(約1500万円)を超える売上を記録した。2025年のライブ配信によるインプレッション数は6400万回に達し、ライブ経由の売上は100万ドル(約1億5000万円)を突破した。

ナチュリウム(Naturium)のデジタル担当副社長キャサリン・ロンゲスト氏も、スキンケアをTikTokで販売する際には視覚的インパクトが重要だと語る。「私たちにはボディオイルのような視覚的に効果が見える製品がある。塗った瞬間にツヤが出るのでライブ映えする。ただ、クレンザーのような製品がTikTok Shopで爆発的に売れるかというと、そうでもないだろう」と述べる。

ナチュリウムはライブ配信への参入が比較的新しいが、すでに成果を上げている。現時点では、ケリー・クルーガー・ブルックス氏(TikTokフォロワー数23万6000人)やアリアン・マン氏(同23万1000人)などのクリエイターと連携してライブコンテンツを制作している。

ブルックス氏がブランドの代理で配信した「エイジ・バックワーズ・インサイド・アウト」では、2500万インプレッション、10万件以上のコメント、1270万人のユニーク視聴者を記録した。また「アリアンのバースデー・スーパーライブ」では、79万6000インプレッション、35万6000人のユニーク視聴者、8000件のコメントを獲得している。

ロンゲスト氏は、こうしたライブ専門クリエイターのスキルについて「TikTok Shopのクリエイターは、インスタグラムで美しいフィードをつくるタイプではない。彼らは現代版のQVCホストであり、上手くやる人は本当に驚くほど成功している」と評する。

彼らのアプローチは従来とはまったく異なる。たとえば、あるクリエイターが朝起きてTikTokを開き、あるリップグロスが好調に売れているのを見つけた場合、ブランドにサンプルを依頼するのではなく、自らターゲット(Target)に出向いて商品を購入し、そのままライブ配信をはじめるという。販売ごとに得られるコミッションは通常10〜15%だが、一部は25〜35%で契約を結ぶケースもあるという。

小売との関係性──「参加しない」という選択肢はない

ブランドにとって最大の課題のひとつは、TikTok Shopでの存在感を高めつつ、小売パートナーとの関係を損なわないようにすることだ。「無視はできない。TikTokは米国のビューティ小売業界トップ10に入っている」とロンゲスト氏は指摘する。ニールセンIQの調査によると、TikTok Shopは全米で8位にランクインしているという。「バランスを取るのは非常にデリケートだが、参加しないという選択肢はない」と彼女は強調する。

サルペカル氏もTikTok Shopは小売を補完する存在だと語る。「TikTokユーザーの5人中4人は、TikTok Shopで新しいブランドを発見したと答えている。また、同じ割合が、すでに知っていたブランドの新製品をTikTok Shopで見つけたと述べている。つまりブランドは、TikTok Shopをマーケティング戦略の一部として活用し、発見を促す力を認識している」。

「TikTok上での発見が、実店舗やオンライン、そしてD2Cチャネルに好影響をもたらす『ハロー効果』を生む。クリエイターとの協業によってディスカバリーコマースを推進することは、結果的に店舗への来店を促進する。これはよく知られた現象であり、我々はブランドにそれを推奨している」と締めくくった。

[原文:Glossy Pop Newsletter: TikTok Live Shopping is proving lucrative for beauty brands across categories]

Sara Spruch-Feiner(翻訳・編集:杉本結美)

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