『正体』(24)で第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人と、名キャメラマンの木村大作が初タッグを組んだ、舘ひろし主演映画『港のひかり』が11月14日(金)に公開される。このたび、石川県輪島市での貴重な撮影秘話が到着した。

北陸の港町を舞台にした完全オリジナル脚本で描く本作で、主人公の元ヤクザの“おじさん”こと三浦を演じるのは7年ぶりの単独主演となった舘。歌舞伎界の新星として注目を集める尾上眞秀が盲目の少年、幸太を、成長した青年の幸太を人気と実力を兼ね備えた眞栄田郷敦がそれぞれ演じる。本作は、そんなおじさんと幸太との年の差を超えた、十数年の友情を描く感動エンタメ大作となっている。

2023年10月〜12月に能登半島や富山県にて、全編フィルムでの撮影が行われた本作。この場所で撮影が行われることになったのは、キャメラマン木村の参加が決定したことがきっかけだったそう。配給会社、東映のプロデューサーは「企画のテーマや物語を受け取った木村さんの頭のなかには、冬の日本海、そして立山連峰が浮かんだのだと思います」と振り返る。

木村大作キャメラマンが切り取った美しい能登の海木村大作キャメラマンが切り取った美しい能登の海[c]2025「港のひかり」製作委員会

ロケ地決定後は本作へのイメージも膨らんだといい、「我々も、日本映画界を代表するキャメラマンが“撮りたいと思ったもの”についてまったく異論はありませんでした。また、ロケハンを重ね、木村さんと話し合うなかで、藤井監督が描きたい作品の解像度が上がっていったのを感じました」と当時の様子を明かしている。

「輪島市の大沢漁港での撮影からスタートしました。温かさともの寂しさが交じり合ったような風が吹く湾内、ひとたび堤防の外に出ると日本海らしい冷たさや荒々しさを感じる。まさしく『三浦が最期に生きる場所として選んだのはここしかない』と納得できる雰囲気と風景がそこにはありました」と同プロデューサーは語る。

そんな本作では、クランクアップ直後に発生した能登半島地震の影響により海が隆起してしまい、入船することが難しくなってしまった大沢漁港や、焼失してしまった輪島の観光名所、朝市通りなど、美しい輪島の情景のなかで様々な重要シーンの撮影を敢行した。

『港のひかり』は11月14日(金)より公開『港のひかり』は11月14日(金)より公開[c]2025「港のひかり」製作委員会

同プロデューサーが「すべてのシーンが美しく、劇場の大スクリーンで見ていただきたいという前提ではありますが」と前置きしながらも、特に注目してほしいシーンとして挙げたのは、幸太がいじめっ子と闘う雨のシーンと、輪島の朝市で三浦と幸太が歩く2つのシーンだ。雨のシーンでは、あえて幸太の表情を見えにくいように撮影を行ったという。その理由について東映のプロデューサーは、「表情を捉えれば人物の気持ちがわかりますので、お客さんは鑑賞しやすいです。しかし、雨のなかの幸太をあえてルーズに捉えることで、彼の佇まいから、恐怖、覚悟、成長、あらゆる要素を心で感じられる日本映画らしい美しい描写になりました」と明かし、「いい意味で、令和にはなかなか見られない映像作品が生まれたと思います」と手応えをにじませる。

【写真を見る】美しい能登の海を背景に、舘ひろし演じる“おじさん”と、尾上眞秀演じる幸太が語り合う【写真を見る】美しい能登の海を背景に、舘ひろし演じる“おじさん”と、尾上眞秀演じる幸太が語り合う[c]2025「港のひかり」製作委員会

そしてもう1つ注目のシーンとして挙げた朝市での場面は、三浦と幸太の微笑ましくもどこか切ない、2人の美しい時間が切り取られたワンシーンだ。プロデューサーは、「(朝市でのシーンは)雑踏のなかで、三浦と幸太のかけがえのない空間が確かに映し出されています。地元の方々にもエキストラで参加いただき、輪島の皆さんと作り上げたシーンだと心の底から感じておりました」と感謝の想いを吐露し、本作を心待ちにする映画ファンに向け次のようにコメントを残している。「撮影を終えて数日後、震災によって朝市は焼けてしまいました。胸が痛む出来事でした。それでも、フィルムのなかには、皆さんと作り上げた朝市の温かな風景が、確かに残っています。それは、物語以上に心に響く、かけがえのない一場面です。ぜひ、多くの方に映画館でご覧いただきたいと思っております」。

10月18日(土)には石川県輪島市にて、「ジャパンプレミアin輪島 ~能登に元気を!~」と銘打った本作初となるイベントが開催予定。主演の舘や眞栄田、尾上ら超豪華7名のキャストと藤井監督が駆けつけ、舞台挨拶とイベント、そして大型スクリーンでの野外上映会も開催される予定だ。イベントの様子は各メディアでも紹介される予定のため、引き続き本作の続報に期待していただきたい。

文/山崎伸子

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