「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

グレン・マーティンス(Glenn Martins)による「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」が2026年春夏シーズン、初のプレタポルテ・コレクションを発表した。グレン初の「メゾン マルジェラ」のプレタポルテは、オートクチュールに相当する年に1度の“アーティザナル”コレクションに傾倒してプレタポルテの印象、特にファッションショーで発表する“デフィレ”ラインの印象が薄れていたブランドにとって、その存在を改めて印象付けるものとなった。店頭やECで販売する商品からも、このムードを感じとることはジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代に比べて容易になるだろう。リアリティのあるスタイルに傾倒し、「ディーゼル(DIESEL)」で結果を出し続けているグレンらしく、「メゾン マルジェラ」のプレタポルテにおける再定義が始まる予感を抱かせた。

BGMはオーケストラ。だが楽器を演奏するのは、子どもたちだ。ブカブカのタキシードに身を包んだ子どもたちは、「ツァラトゥストラはかく語りき」などを一生懸命に演奏するが、やはり音楽はぎこちなく、揃ってはいない。そんな音楽に合わせてウォーキングするモデルたちは、「メゾン マルジェラ」と言えば誰もが思い浮かべる4本ステッチのマウスピースを装着して現れた。統一感をもたらすことで、あえて個の印象を消し去っていく。「メゾン マルジェラ」らしい“匿名性”のグレン流の解釈だ。

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

ブカブカのタキシードに代表されるアンバランス、子どもたちによる音楽のズレ、そしてマウスピースの4本ステッチーー。グレンは、こうした「メゾン マルジェラ」を印象・特徴づけるアイデンティティを新たな手法で表現し、ガリアーノによる歴史的かつ耽美的な「メゾン マルジェラ」の世界に浸かっていた私たちの記憶を呼び起こした。

こうした演出の中で現れた洋服は、ガリアーノによる「メゾン マルジェラ」やグレンによる“アーティザナル”コレクションと比べれば驚くほどにシンプルだが、上述のいびつなサイズ感やズレ、そして4本ステッチのディテールなどのおかげで、「そうだ、これが『マルジェラ』だった」と素直に共感できる特徴を備えている。トップスは長くしたり前後反対に着てみたり、ボトムスはサルエルに仕上げたりで表現する歪んだシルエット、ニットに型押しした紙の上のペイントがひび割れたスタンドカラーのブルゾンやヴィンテージ加工のレザー&デニムで表現した痕跡、チュールを被せて、「メゾン マルジェラ」のスタッフが着用する白衣を思わせたジャケットなどで表現する再構築、モスリンからスーツ地に至るまでの切りっぱなしや随所に貼り付けたテープなどのディテール……。ジャケットには、白衣の紐があしらわれている。ジョン・ガリアーノが自身の世界に「メゾン マルジェラ」を引き込んだとするなら、グレン・マーティンスは自らその世界に飛び込み、自分が“らしい”と感じる特徴をキュレートし直している印象だ。

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

「メゾン マルジェラ」2026年春夏コレクションから

ビジネスの才を感じさせるのは、アクセサリーだ。長方形のタグに施す4本ステッチを彷彿とさせる、4隅にホチキスのようなメタル装飾を敷き詰めたスクエアバッグは代表例。“タビ”ブーツはプレキシガラスのヒールあしらったPVC素材が新しそうだ。靴下をたわませて履けば、「メゾン マルジェラ」らしいムードが楽しめる。またグレンが得意とするデニム、ペイントした花の模様をプリントしたドレスなどは、コマーシャルなアイテムとして店頭に並ぶのだろう。

「メゾン マルジェラ」を擁するOTBのウバルド・ミネッリ(Ubaldo Minelli)最高経営責任者(CEO)はグレンの「メゾン マルジェラ」のトップ就任に際して、「気心の知れたデザイナーにブランドを任せたいと考えた」と話していた。ブランドの再定義と、リアルに売れそうな“デフィレ”ラインの再構築というビジネス面におけるミッションをグレンは達成していくだろう。

Leave A Reply