掲載日

2025年10月5日

土砂降りの雨と交通渋滞の中、土曜日のパリ・ファッションウィークでは、壮大なアライア、不穏なメゾン・マルジェラ、徹底して馬術的なエルメス、そしてブードワールを主題としたヴィヴィアン・ウエストウッドという、極めて個性的な4本のショーが行われた。

アライア:壮大な演出、エネルギッシュなコレクション

これぞ見事なシナジー。クリエイティブ・ディレクターのピーテル・ミュリエは、アライアの最新ショーを同じリシュモン傘下の仲間であるカルティエ現代美術財団(Fondation Cartier)で開催し、その結果は純粋な美の饗宴となった。

コレクションを見るアライア - 2026年春夏 - ウィメンズ - フランス - パリアライア – 2026年春夏 – ウィメンズ – フランス – パリ – ©Launchmetrics/spotlight

ジャン・ヌーヴェル設計の同財団の1階で行われたショーでは、フロア全体がLEDパネルで構成され、スカッシュコート大の顔のクローズアップを含む壮麗な女性美のイメージの上をキャストが行進。鏡張りの天井が映像を反射させ、空間を写真で満たし、ドラマ性をいっそう高めた。

「イメージの繭を作りたかったんです」とミュリエは賞賛を浴びながら微笑んだ。

セクシーなエンパワーメントというメゾンのDNAを基調に、ベルギー人デザイナーはテクニカルファイバーやシルク、リブニットでスリークなカクテルドレスをカット。透明なブレストプレートを差し込み、斜めのフリンジを配したルックは非の打ちどころがなかった。

リザードスキンのストイックなクロークやチュニックも手がけ、ドレーピングの妙も存分に発揮。コットンとシルクジャージーのレイヤーとフォールドで構築したV字型スカートの数々は圧巻だった。肩線をずらしたブラックレザーのパーフェクト(ライダースジャケット)が大きなガウンへと変形するピースも見事で、創業者アズディンもきっと気に入ったに違いない。

コレクションを見るAlaia - 2026年春夏 - ウィメンズ - フランス - パリAlaia – 2026年春夏 – ウィメンズ – フランス – パリ – ©Launchmetrics/spotlight

「セクシーでありながら、常にとてもシンプルで正確に」と語るミュリエは、白いスウェットにソックス、古いジーンズにローファーという装いで、フィナーレではかつての上司ラフ・シモンズと大きなハグを交わした。

垂れ下がるフリンジのパンツを外科医のスモックと合わせるなど、リスクもたっぷり。彼のコットンコートはコンセプチュアルなフロックコート風で、前は短く、後ろは足首をかすめる丈。もっとも、裾を足首で突然結び留めるようなドレスや、モデルの腕を固定してしまったように見えるジャージーなど、ミュリエが考えすぎに陥った箇所もあった。必ずしも力強さを感じさせず、アライアらしさとも言い難い。

しかし、全体としては記憶に残るモードの瞬間だった。そして、かつては問題児だったリシュモンのファッション部門が、いまや卓越と収益の中核拠点となっていることを改めて示した。

メゾン・マルジェラ:沈黙する子羊、騒ぐ子どもたち

メゾン・マルジェラのクチュールデビューで、グレン・マーテンスはすべてのモデルの頭にマスクやフードをかぶせることにこだわった。今シーズン、同メゾンでのレディ・トゥ・ウェアのデビューとなったショーでは、各モデルの口に歯列矯正器具を装着し、歯が怒りをあらわに剥き出しになる「羊たちの沈黙」風の表情をつくった。

コレクションを見るMaison Margiela - 2026年春夏 - ウィメンズ - フランス - パリMaison Margiela – 2026年春夏 – ウィメンズ – フランス – パリ – ©Launchmetrics/spotlight

7月、覆面姿の米移民・税関執行局(ICE)の捜査官が、違法移民とされた人々を残酷に一斉摘発し始めたばかりのタイミングで、覆面のモデルを見るのは少なくとも不穏な気分にさせられた。今、言論の自由への苛烈な締め付けが進む中、出演者の口を強制的に開かせたように見える演出は、当惑するほど強引に感じられた。数ルックだけでも十分に意図は伝わったはずだ。

その不協和を和らげ、同時に際立たせてもいたのが、子どもたちによるオーケストラの生演奏。真っ白なステージで正装に身を包み、時に音を外しながら、ビゼーの『カルメン』、チャイコフスキーの『白鳥の湖』、プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』といった古典を奏でた。

ハンニバル・レクターさながらのキャスティングとの奇妙な取り合わせだった。それでもマーテンスは、とりわけテーラリングにおいて、時に見事といえるほど優れたコレクションを打ち出した。

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新鮮なコンセプトを展開し、見事な新作のタキシード・ウエストコートをはじめ、ウエストラインを落とした優秀なブレザーやダスターコートを巧みに仕立てた。

ラペルのないデニムジャケットや、ドローストリングを露出させたひねりの利いたクールなジーンズはいずれも秀逸で、使い込んだローハイド(生皮)での同様の提案も良かった。また、銀色のガファーテープを模した仕上げのスリップドレスは、いかにもマルジェラらしい瞬間だった。

グレンは、7月のクチュールデビューのアイデアを“ディクライン(展開)”し、16世紀の花柄を用いた美しいプリントを、官能的でパンチの効いたドレスやカクテルドレスに落とし込んだ。

とはいえ、このショーで最も記憶に残ったのは、やはりモデルたちの口元だ。

エルメス:徹底して馬術的

今シーズン、ナデージュ・ヴァニ=シビュルスキーほどブランドのDNAに忠実だったデザイナーはいないでしょう。

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エルメスではしばしば馬を最初の顧客と称し、このショーでも各ルックに馬のモチーフが息づいていた。会場は共和国親衛隊の乗馬センター内部。気品あふれる演出の下で進行した。

主な素材は、馬用ブランケット由来の最高級のマトラッセやキルティングレザーで、魅惑的なトップスやコルセット、見事なラップスカートに用いられた。

これほどボディコンシャスなエルメスはめったにない。黒とベージュのワックスドレザーのシースドレスに乗馬ブーツを合わせ、モデルたちは妖艶に歩を進めた。ゲストは木製のブロックに腰掛け、キャストが貝殻を散りばめたランウェイを駆け抜けるのを見守った。

コレクションを見るエルメス - 2026年春夏 - ウィメンズ - フランス - パリエルメス – 2026年春夏 – ウィメンズ – フランス – パリ – ©Launchmetrics/spotlight

ナデージュはカマルグの鞍からインスピレーションを得て、プロヴァンス風のモチーフが多くのルックに波及した。ときにやや文字通りすぎ、土着的に映る場面もあった。

パンチの効いた一連のボレロや都会的なハッキングジャケットは、すべてシルバーのスチール製留め具、ホースビット、ミニあぶみ、レザーの手綱で仕上げられている。厳格なシルエットと露出する肌が相まって、官能的であり、同時に“レーシング”のムードも漂うショーだった。率直に言って、ホットパンツとエルメスが同じ文章になるとは思ってもみなかった。

ナデージュはエルメスで素晴らしい作品を生み出してきた才能あるデザイナー。しかし、今シーズンはクールであろうとしすぎているように見えた。

ヴィヴィアン・ウエストウッド:ブードワールで美しく

フランスでヴィヴィアン・ウエストウッドほど愛されているイギリスのファッションハウスはないでしょう。大衆に愛され、あらゆるデザイナーから敬意を払われ、土曜日の午後には壮大なショーで称えられた。

パリでのヴィヴィアン・ウエストウッド2026年春夏コレクションパリでのヴィヴィアン・ウエストウッド2026年春夏コレクション – Courtesy

コレクションは、フランスの聖域、フランス学士院の内部で発表された。

ヴィヴィアン逝去後、メゾンを率いてきたのは、彼女の後継者であり前夫でもあるアンドレアス・クロンターラー。そして今回のコレクションは、彼にとってこれまでで最高の出来となった。『ブードワール』と題されたこのコレクションは、ランジェリー、パジャマ、寛ぎ、官能、そしていたずらっぽさを見事に融合させた。

リッチなイタリア製ジャカードとダマスク、そしてカーテン素材をミックスしたコレクションは、しばしば色彩の爆発を見せた。歴史主義とヒップさを完璧にミックスさせた見事なガウンも数多く登場した。

男女混合のショーでは、男たちがマイクロなウェアに、レオパード、タイダイ、タータンといったコントラストの効いたシルクトップの“シャード(欠片)”を重ねて闊歩。あるディスコ・ドラグーンは、チェックのスリーピース・スーツでパンツはミニショーツ、足元はパンチング加工の海賊ブーツという出で立ちで登場した。

パリで開催されたヴィヴィアン・ウエストウッドの2026年春夏コレクションパリで開催されたヴィヴィアン・ウエストウッドの2026年春夏コレクション – Courtesy

男性も女性も、アンドレアス自身が最後に着て登場したものと同様の、しなやかなシルクのダブルブレストスーツを纏った。

フロントロウにはパリスとニッキー・ヒルトンが座り、アンドレアスは最高にクールなフィナーレを披露。ハイディ・クルムは、ヴィクトリアズ・シークレット時代を皮肉って登場し、クリスタルをちりばめた白いレオタードにガーター、タフタの雲をまとった王政復古期風のファム・ファタールとして圧巻の存在感を放った。

クロンターラーはクルムと一緒にお辞儀をして大喝采を浴び、約1.5メートルのひまわりの花束を手に、出演者たちを率いてアンスティチュ・ド・フランスの階段でポーズを取り、万雷の拍手に包まれた。

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