多くの読者に愛されたまま、6月に完結を迎えた大今良時による漫画『不滅のあなたへ』。不死身の存在・フシがさまざまな人間たちと関わるなかで少しずつ感情を学んでいき、「命とは何か」といったテーマが数百年にわたる壮大なタイムスケールで描かれていく。
同作のアニメシリーズで、フシを生み出した謎の存在・観察者を演じるのは津田健次郎。目的も正体も謎に包まれた観察者の秘密が、10月から始まるSeason3「現世編」にていよいよ紐解かれていく。
作中の登場人物でありながら、同時に物語の外に立つ“ナレーター”的役割も果たす観察者。極めて特殊なキャラクターである観察者を、津田はどう演じたのか。役作りへの思いと、『不滅のあなたへ』の世界の謎について語る。
観察者との出会い
——『不滅のあなたへ』はすごく不思議な作品で、観察者はその中でも特に変わったキャラだと思います。津田さんが観察者を演じて得た“刺激”について教えてください。
津田健次郎(以下、津田):まず非常に個性の強いこの作品との出会い自体がすごく刺激的で、観察者のような役も初めての経験なのですごくいい出会いでした。長いこと関わらせていただいていますが、やはり第1話が強く印象に残っていて……川島零士くんとたった2人でのアフレコでした。もちろんその後もたくさん印象的なエピソードやキャラクターがたくさん出てきましたが、主人公だと思っていた子が死んでしまい、そこから物語がスタートする展開が非常に面白い。フシがまだフシになる前、ただの球だったところから始まるという、何とも言えない始まり方で、でもこの作品の全編に通底する「命とは何か」「この世界は何なのか」といった疑問はこの時点から始まっていて、今思い返しても非常に印象的ですね。
——フシがどんどん人間らしくなっていったように、川島さんの演技が感情豊かになっていくのを津田さんもいちばん近くで“観察”していたと思います。川島さんの演技はどのようにご覧になっていましたか?
津田:川島くんがこの作品に、そしてフシにものすごい情熱を傾けているのを第1話のときから感じていました。それがずっと変わらずに、衰えることなく、声優人生をかけてフシに取り組んでいて、そういう姿勢が彼の良さだなと思います。フシは最初は言葉を喋ることなく、途中から少しずつ片言で喋れるようになっていくというこの過程自体についても、本人がどうやってそれに取り組もうかすごく考えているのを感じていました。それからいろいろなキャラクターと出会い、フシ自身が成長していく過程と川島くんの成長がリンクしているのではないかなと思います。初めて演じたときはおいくつだったんですかね……。ずいぶん「しっかりしてるな」と思いました(笑)。僕が20代の頃なんて全然ダメダメだったので……、お芝居に関しても、人としても、すごくしっかりした子ですよね。
物語の外部に立つキャラ
——津田さんが近年演じられたキャラに『チ。 ―地球の運動について―』のノヴァクがいます。登場人物が目まぐるしく入れ替わる中で、ノヴァクは一貫した歴史を見続けていたという点で観察者との共通点を感じていたのですが、津田さん自身は2人を比べてどう感じますか?
津田:目の前で繰り広げられていく物事をどこか客観視している、あるいは“させられている”と言いますか……。そういう意味で共通点は感じます。観察者に関してはほとんど“登場人物”にはならないという関わり方の違いはありますが、いずれも作品の頭から最後までずっと関わらせていただけて、演者としてはすごく幸福なことだなと思います。僕は『火の鳥』の「鳳凰編」に登場する我王が昔からすごく好きで、彼も“登場人物”だったはずがだんだん物語をずっと客観視させられる立場になっていく面白いキャラクターでした。似たような立ち位置のキャラクターをやらせていただけてすごく嬉しかったですね。
——そういった物語のメタ視点に立つキャラクターは、いわゆる一般的な作中人物と比べて何か声の演じ方に違いはあるのでしょうか?
津田:まず大前提として“心が動かない”というのは共通していて……、感情移入をしないとか、他人に寄り添わないとか、人間らしさを排除していくかたちで役作りをしています。なるべく熱を込めず、抑揚もつけず、普段のお芝居とはまた逆の作業になるんです。第1話の冒頭からそうですが、アバンが観察者のナレーションから始まるので、フシがこの物語の“柱”だとすれば、観察者は“床”と言いますか……。しっかりと土台を作っているけどその床は動いてはならないといったイメージを持っていました。フシがどんどん躍動していく分、観察者は何も変わらないことが大事なのかなと。
——以前、三ツ矢雄二さんが津田さんの声について「一本調子に思える声の中にわずかな変化を加えるのがうまい」と評価していました(※)。ご自身としてはどう感じていますか?
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7月25日に放送された『あさイチ』プレミアムトーク(NHK総合)に、津田健次郎が出演した。
放送開始直後、「よかったにゃあ〜…
津田:昔からそういうところがあるんだと思います。たぶん、そういうやり方が好きなんでしょうね。もちろん躍動感のある役であれば分かりやすく抑揚をつけたりしますけれど、“動かないけど、わずかに動くものがある”というような感覚は好きですね。その中でも観察者に関してはやはり人間ではないので、揺らぎみたいなものもほぼない。そこがまた、他の作品のキャラクターとは圧倒的に違うところかなと思います。かといって、“ナレーター”でも“語り部”でもない……。うまく言えないんですが、本当に独特な立ち位置といいますか、序盤は“天の声”的な立ち位置だったのが「本編に出てくるんだ」「この人、フシと会話するんだ」みたいな驚きがあって、不思議な立ち位置のキャラクターですね。