朝ドラ「ばけばけ」(NHK)がスタートし、半年間をかけて小泉八雲とセツ夫人をモデルにした物語を描く。ライターの田幸和歌子さんは「この10年で明治初期を描く朝ドラが増えているのは、制作者が現代とのリンクを感じているからではないか」という――。
撮影=阿部岳人
NHK連続テレビ小説「ばけばけ」記者会見、写真左から、吉沢亮、トミー・バストウ、髙石あかり、池脇千鶴、岡部たかし。2025年9月8日、東京都渋谷区のNHKにて
父は元松江藩士、祖父はラストサムライ
9月29日にスタートした連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルに、明治時代の松江を舞台として描かれる。怪談を愛する没落士族の娘・松野トキ(髙石あかり)と、ギリシャ生まれアイルランド育ちの英語教師・ヘブン(トミー・バストウ)の物語だ。
トキは、士族の家系に生まれ、怪談や昔話が大好きな少し変わった女の子。武士の時代が終わったことで父は事業を手がけるものの失敗し、トキは11歳から織子として働き、貧しい暮らしを強いられる。世の中が大きく変わる中、時代に取り残され居場所を失いつつあったトキは、松江にやってきた外国人英語教師と出会うことになる。
この朝ドラの序盤で最も印象的な設定の一つが、武士の世が終わった文明開化の世にもかかわらず、頑なにチョンマゲ姿を貫くヒロインの父親、松野司之介つかさのすけ(岡部たかし)の姿である。司之介の父である松野家の先代当主・勘右エ門かんうえもん(小日向文世)は、いまだに日本を開港させたペリーを恨んでいるという、さらに過激な「ラストサムライ」だ。
橋爪國臣プロデューサーが語る時代設定
NHK制作統括(プロデューサー)の橋爪國臣氏は、「松江藩士としては解雇されたのにチョンマゲ姿のままの父」という設定について、「今まで信じてきたものが急に変わり、混沌としていく時代」を表現する狙いがあると語る。
撮影=阿部岳人
NHKの橋爪國臣プロデューサー
制作陣の意図は、新しい価値観に適応できずに取り残された人々の姿を丁寧に描くこと。チョンマゲを落とせない父親は、変化への抵抗でも頑固さでもなく、自分のアイデンティティを失うことへの不安と恐れを体現している。江戸時代の価値観を引きずりながら明治という新時代を生きる――この時代の狭間に立つ人物像こそが、「ばけばけ」の核心にある。
提供=NHK
「ばけばけ」第1週より
近年、朝ドラにおいて江戸から明治への転換期を舞台とした作品が増加している。「あさが来た」(2015年)、「らんまん」(2023年)、そして今回の「ばけばけ」。次の朝ドラ、「風かぜ、薫かおる」も、物語の舞台は明治時代だ。