朝ドラ『あんぱん』公式Instagramより
NHKの連続テレビ小説「あんぱん」が先週、最終回を迎えた。ヒロイン・のぶ(今田美桜)の最初の夫・次郎を演じた俳優・中島歩(36)が、ここにきて急速に注目を集めている。
誠実で穏やかな夫を体現した一方で、近年は“クズ男”や“情けない男”といった対照的な役柄も演じ、その幅の広さに驚く声が絶えない。舞台俳優としての出発点から、美輪明宏の薫陶を受け、ドラマやCMで存在感を高めてきた中島。文豪・国木田独歩の血を引く“秘蔵っ子”がいま、大きな飛躍のときを迎えている。
「あんぱん」の次郎役が示した新境地
「あんぱん」で中島が演じた次郎は、ヒロインのぶの最初の夫であり、誠実で実直な人物として描かれた。朝ドラらしい“支える夫”の姿を体現したことで、視聴者の間に「次郎さんロス」という言葉まで生まれた。X(旧Twitter)上では「静かに寄り添う姿が胸を打った」「中島歩の演技に泣かされた」といった投稿が相次ぎ、主婦層を中心に強い共感を呼んだ。
中島はこれまでクセのある役どころが多かったが、正統派の夫役を与えられたことで、役者としての新境地を示したと言える。ドラマ評論家はこう分析する。
「中島さんは目立つ芝居をするタイプではない。だが誠実さや儚さを丁寧に表現する。『あんぱん』はまさに彼の存在感を最大限に活かした舞台でした」
ドラマ界で見せる“振り幅”の大きさ
「あんぱん」で真面目な夫を演じた一方、過去の出演作では真逆の役柄を担ってきた。2023年の『不適切にもほどがある!』(TBS)では、阿部サダヲ演じる体育教師の同僚役。吉田羊演じるサカエから“見た目はいいが中身は板東英二”と酷評される情けない男を演じ、視聴者の失笑を誘った。
さらに『海のはじまり』(フジテレビ)では目黒蓮の先輩役として落ち着きある人物像を示し、同年『愛の、がっこう。』ではヒロインを裏切る不倫男を好演。
SNSでは「最低なのに妙にリアル」「嫌悪感を覚えるほど演技が上手い」と話題になり、役者力の高さを裏付けた。このように“真面目”から“クズ”まで自在に振れる幅は、イケメン枠の俳優が多い中で、中島を唯一無二の存在に押し上げている。
CMで証明する“短時間で残す印象”
中島はドラマや映画だけでなく、CMでも印象的な存在感を放ってきた。長澤まさみと共演した「虫コナーズプレミアム」では軽妙な掛け合いを披露し、阿部寛と肩を並べた「芝浦マシーン」では熱血漢としての勢いを表現。さらに杉咲花と居酒屋を切り盛りする「サントリー翠」では、人情味ある笑顔が視聴者に強く焼き付いた。
CMは短い時間で印象を残すことが求められるが、中島はわずか数秒でキャラクターを立ち上げ、観る者に「あの人誰だろう」と思わせる力を持っている。こうした露出の積み重ねが、中島という名前を幅広い層に浸透させてきた。
文豪の血筋と“美輪明宏の秘蔵っ子”
中島歩のルーツも注目を集める要素だ。明治の文豪・国木田独歩の玄孫であり、本名の“歩”は独歩にちなむ。都立小石川高校から日本大学芸術学部文芸学科へと進学し、落語研究会に所属。文学や芸能への素養を早くから育んでいた。
2013年、美輪明宏が主演・演出を務めた舞台『黒蜥蜴』でオーディションに合格し俳優デビュー。美輪から「私の若い頃に似ている」と評されたが、現場では「棒読みじゃない!」「何もないのね、あなたは」と厳しく叱責されたという。本人は後年「毎日震えていた」と語っている。
だがその厳しさが役者としての基礎を築き、彼を一段階上の俳優へと押し上げた。
朝ドラ再登場と2025年の飛躍
中島が初めて朝ドラに登場したのは2014年の『花子とアン』。仲間由紀恵演じる蓮子と駆け落ちする帝大生役で、史実の“白蓮事件”を描き話題となった。11年ぶりに朝ドラに戻ってきた『あんぱん』では、ヒロインの正式な夫役を担い、俳優人生の新たな節目を迎えた。
そして来年は大きな飛躍の年だ。1月期のテレビ東京『俺たちバッドバーバーズ』で初主演を果たし、さらにNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では浅井長政を演じる。春には『不適切にもほどがある! スペシャル』(TBS)にも出演予定で、ドラマ界の“顔”のひとりとして確固たる地位を築こうとしている。
業界関係者は「町田啓太と競合する時期もあったが、いまや唯一無二のポジションを確立しつつある」と語る。2025年、中島歩という名前はさらに広く浸透するだろう。
プロフィール
中島 歩(なかじま・あゆむ)
1988年10月7日生まれ、宮城県出身。俳優。
身長:184cm
文豪・国木田独歩の玄孫。本名の“歩”は独歩に由来。都立小石川高校、日本大学芸術学部文芸学科卒。2013年、美輪明宏主演舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー。NHK朝ドラ『花子とアン』(2014年)、『あんぱん』(2025年)、映画『さよなら歌舞伎町』(2015年)、『偶然と想像』(2021年)などに出演。2025年はテレビ東京『俺たちバッドバーバーズ』で初主演、NHK大河『豊臣兄弟!』にも出演予定。