
ビジネス書中心のメインの平台に展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。ビジネス書の売れゆきは順調だ。休業期間を経て再オープンして半年余りがたち、周辺の企業からのまとまった注文も戻りつつあるという。そんな中、書店員が注目するのは、他人への共感を一切持たない「サイコパス」の考え方や行動様式を解説し、そうした存在から自身や組織を守る方法を説いた翻訳書だった。
共感能力の欠落が招く事態とは
その本はデイヴィッド・ギレスピー『サイコパスから見た世界』(栗木さつき訳、東洋経済新報社)。副題には〈「共感能力が欠落した人」がこうして職場を地獄にする〉とあり、何やらおどろおどろしい雰囲気が漂う。著者のギレスピー氏は本書の略歴によれば、オーストラリア在住で、企業の顧問弁護士や起業家、投資家として活動してきた人で、作家としても活躍しているという。
著者によれば、「少なくとも20人に1人の割合でサイコパスがいる」という。言葉からは殺人鬼や凶悪犯を連想するが、「共感能力が欠落した人」という定義に沿えば、サイコパスは本当に身近にいるのだ。
共感能力が欠落すると、どんな行動を取るのか。本書の前半では、その特徴を神経科学や心理学の知見を紹介しながら、詳しく見ていく。初代米連邦捜査局(FBI)長官のフーヴァーからトランプ米大統領、アップル創業者のスティーブ・ジョブズら、サイコパスの特徴を示す古今東西の有名人のエピソードにも触れていく。
フーヴァーは他人を信用するという行為そのものを信用していなかったという。それゆえ、あらゆる有力者の情報を収集してファイルにまとめ、このファイルを用いて圧力をかけた。共感能力のなさが相手を支配したり、自分の利益にしか関心がなかったりといった行動に結びつく。トップになればもちろん、そうでない場合も組織にもたらす悪影響は甚大になる。
架空のストーリーが示す「サイコパスが見た世界」
そうした特性を紹介した後で描かれる架空のストーリーが空恐ろしい。好業績を上げていた弁護士事務所がサイコパスの新入社員の入社から歯車が狂っていく。その過程を共同経営者、標的にされた先輩社員、傍観者に徹した同期入社の同僚、サイコパス本人それぞれの視点から4章にわたって描いていく。
このストーリーから導き出される教訓は、「サイコパスは別に壮大な戦略を立てたうえで計画を実行しているわけではない」「いつでもウソをつく」「この一線を越えてはならないという感覚がない」「印象操作の達人である」の4つだ。
では対処法は? 関わらないことがすべてだ。関わってしまったことが分かったら一刻も早く脱出せよ、と本書は説く。組織としてサイコパスの影響をはねのけるには「常に誠実に行動せよ」という原理をゆるがせにしないことだという。
「心理学のコーナーからビジネス書コーナーに移したところ、手に取っていく人が増えた」と店長の瓜生春子さんは話す。出社勤務への回帰が広がる中で、職場の人間関係の問題点が多くの職場で顕在化し始めているのかもしれない。
1位に高校中退起業家の人生哲学
それでは、先週のランキングを見ていこう。
(1)成長以外、全て死中野優作著(幻冬舎)(2)世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか宮脇さき著(KADOKAWA)(3)ビジネスパーソンに必要な3つの力山本哲郎著(BOW&PARTNERS)(4)会社四季報業界地図 2026年版東洋経済新報社編(東洋経済新報社)(5)キャリアに迷ったら一人で悩むな柴田郁夫著(日刊現代)
(紀伊国屋書店大手町ビル店、2025年9月22~28日)
1位は、高校中退から土木作業員、ビッグモーター勤務を経て中古車通販で独立起業した40代の社長による自己啓発書。心と行動を刺激する50の哲学を披露する。2位は、20代で純資産4億円をつくった著者による投資法指南の本だ。3位には、本欄5月の記事〈ビジネスパーソンに必要な3つの力とは やらされ感とは無縁で人生を生きる方法論〉で紹介した2024年4月刊の本が入った。
4位は定番の業界研究ムックの最新版、5位はベテランのキャリアコンサルタントによる紙上キャリア相談の本。今回紹介した『サイコパスから見た世界』は8位だった。
(水柿武志)
