9月10日、アメリカの保守系活動家のチャーリー・カーク氏が、大学での講演中に銃撃されて死亡した。カーク氏は、トランプ大統領を支持していた。国際ジャーナリストの矢部武さんは「トランプ政権はカーク氏を揶揄・批判する人たちを罰する動きを強めている。だが、実際にテレビ番組が放送休止になったり解雇されたりと、あまりにも行き過ぎている」という――。


ウォルトディズニースタジオの敷地にある建物にディズニーABCのロゴ

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トランプ政権の圧力で、トーク番組が無期限休止に

トランプ大統領の復権に大きく貢献したとされる保守系活動家チャーリー・カーク氏が9月10日、ユタ州のユタバレー大学での講演中に銃撃され、死亡した。トランプ政権はこの事件を受け、カーク氏の死を悼むと同時に同氏の死を揶揄したり、そのメッセージを批判したりする人たちを罰する動きを強めている。


2025年9月10日、ユタ州にあるユタバレー大学で開催されたイベントで銃撃され死亡した保守派コメンテーター、チャーリー・カーク氏と写真に写るドナルド・トランプ米大統領。カーク氏は、トランプ米大統領の熱烈な支持者だった

写真提供=EPN/ニューズコム/共同通信イメージズ

ユタ州にあるユタバレー大学で開催されたイベントで銃撃され死亡した保守派コメンテーター、チャーリー・カーク氏と写真に写るドナルド・トランプ米大統領。カーク氏は、トランプ米大統領の熱烈な支持者だった



スティーブン・ミラー大統領次席補佐官は、「カーク氏の死を揶揄する者はテロリストだ。取り締まりの対象となる」と述べ、「トランプ政権下では、法執行当局がそのような発言をする者を見つけ出し、破産させ、権力を取り上げ、法律に違反すれば自由を奪われることになる」と警告した(PBSニュースアワー、2025年9月15日)。


つまり、政府の気に入らない「不適切」な発言をした者は罰せられるということだが、すでに「粛清」は始まっている。政権内外のさまざまな組織で、カーク氏を批判した著名人や政府職員、メディア関係者などが解雇や停職処分となり、憲法修正第1条で保障された言論の自由をめぐる論争に火をつけている。


このようななか、この議論をさらにヒートアップさせるような出来事が起きた。9月17日、ABCテレビの人気トーク番組がカーク氏暗殺に関する「不適切」な発言が原因でトランプ政権から圧力を受け、無期限休止に追い込まれたのである(ABCニュース、2025年9月18日)。


大統領は“放送免許の剥奪”もほのめかした

20年以上続いた長寿番組「ジミー・キンメル・ライブ」の司会者ジミー・キンメル氏は15日、カーク氏殺害事件の容疑者に関し、発信されたメッセージを取り上げ、トランプ氏やその支持者らを痛烈に批判した。


「この週末、MAGAの人々は容疑者が自分たちの仲間ではないとして距離を置き、この事件に便乗して政治的な得点稼ぎをしようと躍起になっていました」と。


するとその翌日、トランプ大統領から任命された連邦通信委員会(FCC)のカー委員長が保守系の番組でキンメル氏を批判し、「同氏は容疑者のイデオロギーを誤って伝えている。ABCの系列局は番組の放送を中止すべきだ」「系列局が措置を講じなければ、今後、FCCが行動を起こすでしょう」と述べた(同ABCニュース)。


その数時間後、ABCと親会社のウォルト・ディズニー社(ディズニー)は番組の無期限休止を発表したが、これに対し、一部からは「政治的な圧力に屈した」と怒りの声が上がった。


この時、イギリス訪問からの帰途にあったトランプ大統領は専用機内で、「放送免許の剥奪」をほのめかし、「問題の放送局は私について悪い評判や報道しか放送しない。彼らから免許を剥奪すべきかもしれない。その判断はFCCの委員長に任せる」と述べた(同ABCニュース)。


しかし、FCCにはトランプ大統領が不快に思うという理由だけで放送免許を剥奪したり、放送局に対して出演者の降板を強制したりする権限はない。それはまさにFCCの権限乱用であり、言論の自由の侵害である。


ジョー・バイデン大統領は2022年6月8日、ロサンゼルスのエル・キャピタン劇場にて「ジミー・キンメル・ライブ!」への出演収録を行った
ジョー・バイデン大統領は2022年6月8日、ロサンゼルスのエル・キャピタン劇場にて「ジミー・キンメル・ライブ!」への出演収録を行った(写真=The White House/EOP/Wikimedia Commons)


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