「20代の頃は、仕事に明確な『正解』を求めて、がむしゃらに突き進んでいました」
若くして人気俳優となった岡田将生さん。明確なゴールが見えない焦りの中で、一人もがいていた過去をそう振り返る。しかし35歳を迎えた今、「仕事は答えがないからこそ、面白いんだと分かった」と朗らかに笑う。
そんな彼が最新作・映画『アフター・ザ・クエイク』で演じたのは、妻から「空気みたい」と評される“からっぽ”な男・小村。答えのない世界を漂うような役柄は、まるで彼の変化そのものを映し出しているようだった。
がむしゃらに「正解」を探し続けた日々から、彼はどうやって抜け出したのか。遠回りのように見えた道のりの先で見つけた、確かな仕事の楽しみ方に迫る。
岡田 将生さん
1989年生まれ、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な出演作は、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』(21)、『1秒先の彼』(23)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23)、『ゴールド・ボーイ』(24)、『ラストマイル』(24)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)、『ゆきてかへらぬ』(25)などがある。また、テレビ朝日「ちょっとだけエスパー」が10月21日より放送開始。11月21日に細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』が公開。初出演となる韓国製作ドラマDisney+オリジナル韓国ドラマ「殺し屋たちの店」シーズン2の配信を控える。
「正解」を探して満足できなかった20代
岡田さん
未だに人前に立つのも、誰かに注目されるのも苦手。それなのに、何でこんな仕事しているんだろうってよく思います(笑)
Woman typeの過去のインタビューでは、自身のことをそう語っていた岡田さん。華やかな世界の中心にいながらも、常に自身に問いを立て続けてきた。特に20代は、その答えが見つからずに苦しんだ時期だったという。
岡田さん
20代の頃は、仕事の「正解」は一つしかないと信じて、がむしゃらに突き進んでいました。すごく直線的な仕事の仕方だったと思います。
確かな手応えが欲しくて、どこか自分で満足できていない瞬間も、すごくありました。
スキルも実績もまだ発展途上。多くの20代がそうであるように、彼もまた、目に見える「正解」を求めて焦っていた。中でも、岡田さんを追い詰めたのが「普通」の役を演じることの難しさだった。
岡田さん
エキセントリックな役の方がまだ輪郭がはっきりしていて作りやすい。でも、「普通」には決まったかたちがないから、本当に難しくて。
どの現場でもしょっちゅう壁にぶつかっていました。今でも、常に壁にぶつかってはいるんですけどね。
自分自身、ちゃんとできているのか。その不安を口にすれば、共演者やスタッフに失礼になってしまう。だから、誰にも言わない。そうやって一人、出口の見えないトンネルの中でもがいていた。
転機は“答えのない”現場にあった
スタイリスト/大石裕介 ヘアメイク/礒野亜加梨 衣装/シャツ….MANAVE ネックレス×2本….PLUIE パンツ….Porter Classic サンダル….Paraboot
そんな彼に転機が訪れたのは、30代になってからのこと。35歳を迎えた今は、答えがないことに焦るのではなく、その「分からなさ」自体を楽しめるようになった。その変化を確信に変えたのが、最新作『アフター・ザ・クエイク』の現場だった。
岡田さん
原作が村上春樹さんの作品ということもあり、この世界には本当に「答え」がないんです。現場で「皆さんどう思いますか?」と聞くと、一人ひとり全く違う答えが返ってくる。
20代の頃の自分だったら、きっと悩んでしまっていました。でも今は「分からない方が面白いな」と心から思えるんです。
今回、岡田さんが演じた主人公・小村は、流されるように生きる男。「ラーメンでいい?」と言われれば、自分が食べたいものを言えない。その捉えどころのなさに、岡田さん自身も「この人は何なんだろう?」と興味をそそられたという。
その言葉を象徴するのが、撮影前に行われたユニークなリハーサルだ。井上剛監督から「台本にあるセリフを一度すべて無くして演じてみてほしい」と、驚きの指示が飛んだ。
岡田さん
これが、本当に面白くて。セリフなしでやってみたら、ちゃんと役柄として成立したんです。共演者同士が気を遣う瞬間も、視線だけで伝わってくる。言葉がなくても伝わるものがあると実感できましたし、同時に、言葉がいかに大切かというありがたみも分かりました。
監督と共に、あらゆる可能性を探る。一つの正解に向かって最短距離で走るのではなく、皆で悩み、遠回りしながら多様な解釈を見つけていく。その過程こそが、岡田さんにとって何より刺激的だった。
岡田さん
限られた時間の中でも、俳優を信じて、いろんな可能性を探ってくださる。その監督の姿勢が本当に素晴らしくて、大好きになりました。ずっと一緒に悩んでいたいな、と思える方でしたね。
かつては一つの答えを渇望していた彼が、今では多様な解釈を受け入れる「器」になることを選ぶ。それは、一見遠回りに見える道のりの豊かさを知ったからだろう。
岡田さん
確実に20代の時より、この仕事がより好きになりました。いろんな生き方があるんだな、と。
それが正しいかどうかは分からないけれど、その「分からなさ」を一緒に楽しんで作れる人たちが周りにいる。それがすごく楽しいんです。
ずっと守り続けた「先輩たちの教え」
20代で捨てた「単一の答えを求める」という固定観念。一方で、彼がどんな時も守り続けた仕事の信条とは何だったのか。
岡田さん
俳優は、やはり「どれだけ準備できるか」。それがまず一番にあると思います。楽器やスポーツのように物理的な練習もあれば、今回の僕のように頭の中で思考を巡らせる準備もある。
今回は特に、いかに自分を柔らかくしておくか、という頭の中の準備が大切でした。どんなかたちであれ、できる限りの準備をして現場に入ることが大前提。それが、自分にとっての「いい仕事」に繋がっている気がします。
その揺るぎない信念は、多くの先人たちから受け継いできた「心のお守り」だ。
岡田さん
そう思えるようになったのは、これまでたくさんの先輩俳優の方々が教えてくださったから。中でも僕が一番尊敬しているのは、中井貴一さん。
仕事への姿勢や準備の大切さなど、本当にたくさんのことを教えていただきました。そうやって先輩に教えていただいたことを、今度は僕が下の世代に伝えていきたいと思っています。
そしてキャリアを重ねる中で、自身の役割についての考え方にも変化が訪れた。
岡田さん
最近は、自分がより「映画の一部」になれることが嬉しいと思うようになったんです。かつては、自分がどう見えるか、どう評価されるかを気にしていたかもしれない。でも今は、自分が出過ぎてはいけない、と。
大きな物語の中で、自分という歯車がどう機能するかに喜びを感じます。まあ、いい方向に行ったんではないかな、と思います。
かつて「答え」を探し、自分の存在価値を証明しようともがいていた青年は、今、大きな物語の一部であることに誇りを見出している。
答えのない不安を抱えながらも、目の前の仕事に誠実に向き合うこと。岡田さんの生き方は、そんな遠回りに思えた道のりの先にこそ、まだ見ぬ景色が広がっているのだと教えてくれる。
映画『アフター・ザ・クエイク』10月3日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー!
現実と幻想、恐怖と滑稽を飛び越えながら、だれもが抱く孤独とその先の希望を描き出す。これは、先の見えない世界で“からっぽ”になってしまった私たちが、自分を取り戻すための物語。
世界的作家・村上春樹の傑作短編連作『神の子どもたちはみな踊る』にオリジナル設定を交え映像化!一流の製作陣が集結し、新しい村上ワールドを創造する。
キャスト:岡田将生 鳴海 唯 渡辺大知 / 佐藤浩市
橋本 愛 唐田えりか 吹越 満 黒崎煌代 黒川想矢 津田寛治
井川 遥 渋川清彦 のん 錦戸 亮 / 堤 真一
監督:井上 剛
脚本:大江崇允 音楽:大友良英
プロデューサー:山本晃久 訓覇 圭 アソシエイトプロデューサー:京田光広 中川聡子
原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)より
製作:キアロスクロ、NHK、NHKエンタープライズ 制作会社:キアロスクロ
配給・宣伝:ビターズ・エンド
©2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ
公式HP:https://www.bitters.co.jp/ATQ/
公式X:https://x.com/ATQ_movie