ー    はじめに    ー
 

私、桑折 現は長年京都市で演出家・俳優として活動してきましたが、2022年に富山県氷見市に移住しました。

地方に住みながら俳優として活動を続ける中で、文化芸術の発信元である都市圏との物理的な距離、芸術文化に関わる機会の減少、支援の乏しさなど、多くの課題を実感しました。

 

そこで思い至ったのが、「俳優1人のみの上演で、舞台設備も最小限しか使わない少数精鋭のカンパニーでツアーを行う」という形での挑戦です。これは単なる公演ではありません。従来の「待つ」俳優から「創る」俳優への転換。40代の今だからこそ実現したい、舞台芸術の新たな可能性を探る挑戦です。

 

 

ー プロジェクト概要 ー

 

俳優・桑折 現が5人の演出家と1年かけて5つの新作を創作し、京都・松本・富山・東京で計50回上演するプロジェクトです。

 

期間 : 2025年3月~2026年3月(1年間)

作品数 : 5作品

総公演回数 : 50回(1作品あたり4都市で計10回公演 × 5作品)

 

ーーーこのプロジェクトで上演する作品の条件ーーー

   ・新作であること

   ・俳優1人のみが出演

   ・舞台照明と音響は基本的に使用しない(俳優が自分で操作できる範囲内で行う)

   ・上演時間は50分〜60分程度

 

この条件のもとで作品をつくり、各地で公演を行なっております。

 

 

ー なぜ今、この挑戦なのか ー

 

地方と都市の文化格差富山に移住して気づいたのは、文化芸術への支援の乏しさ、舞台芸術に関わる身近な人々の数の少なさでした。しかし、この状況を嘆くのではなく、地方からでも質の高い舞台芸術を創造し、発信できることを証明したいのです。

 

◯ 俳優の新しい働き方

地方に住み、先方から仕事が来ない時にどうすべきか。俳優として「働く」とはどういうことか。この企画を通して、俳優が自らプロデュースし、継続的に創作活動を行う新しいモデルを提示したいと考えています。

 

◯ 今しかできない挑戦

年齢、体力、気力を考えると、この企画は今しか実現できません。5人の演出家とのスケジュール、あらゆる条件の歯車が奇跡的にかみ合い、この連続上演が動き出しました。

 
ー 俳優・桑折 現 プロフィール ー

 

京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科卒業。

卒業制作にて太田省吾の戯曲を解体し再構成した舞台作品『10の地点』を構成・演出し、京都造形芸術大学学長賞を受賞。

在学中にパフォーミング・アーツカンパニー<dots>を結成。2001~2015年までの活動中、主宰及び全作品の構成・演出を担当。

近年は演出から俳優としての活動に比重を移し、多視点的に舞台芸術を探究している。2022年に京都から富山に移住し、多拠点で活動を行いながら俳優として様々な演出家・団体のクリエーションに参加。近年の出演作にakakilike『希望の家』など。2024年、小高 知子劇作による一人芝居『夜を剥ぐ』にて、2024年上半期・関西ベストアクト作品賞に選出。

 

 

ー 5人の演出家 ー

 

西田 悠哉(にしだ ゆうや)劇団不労社代表 劇作家・演出家

1993年東京都生まれ富山県育ち京都府在住。劇作家・演出家。2015年に大阪大学を母体に代表として劇団不労社を旗揚げ。以後、殆どの作品で作・演出を務める。ハイカルチャーとローカルチャー、恐怖と笑いをハイブリッドに掛け合わせながら、現代社会に潜む歪な人間模様を滑稽かつグロテスクに描く作劇を特徴とする。京都大学大学院人間・環境研究科在学。主な受賞歴として、関西演劇祭2021ベスト演出賞、若手演出家コンクール2022優秀賞、演劇人コンクール2024最優秀演出家賞・観客賞など。セゾン文化財団2025年度セゾン・フェロー。

 

メッセージ:

桑折さんと出会ったのは、昨年三重県で行われたワークショップに、共に講師として参加した時のことでした。関西風に言えば「シュッとした」という言葉が正に似合うようなイメージの方で、当初はやや近寄りがたい雰囲気があったのですが、自分の実家がある富山県に住んでいることを知り、初対面にも関わらず妙な親近感を感じたことを覚えています。その後、東京でakakilikeの作品を観劇した際、初めて舞台上の桑折さんを見たのですが、シアタートラム内を颯爽とローラースケートで駆け抜ける姿が、不思議とユーモラスに映りました。それはもう今にも観客席に突っ込んできそうな、危なっかしいまでの凄まじいスピードだったのですが、物ともしない飄々とした表情で、シュッとした状態を(恐らく無意識に)キープし続けてしまっているギャップが、どこか可笑しく見えたのでしょう。さて、そのような経緯ともつかぬ経緯を挟みつつ、縁あって今回の企画にお声がけいただきました。5人の演出家の中でも一番の若輩者に先鋒を任せてもらったということで、ここは一丁、先輩たちの胸を借り、切り込み隊長の意気込みで臨む所存です。1年かけて桑折さんのイメージがどう変貌するか、はたまた依然としてシュッとし続けているのか。是非見届けていただけたらと思います。

 

「マッチョと亡霊」富山公演 2025年春 会場:旧宮島村役場 撮影:永原  圭介

西田 悠哉作品「マッチョと亡霊」は2025年5月〜6月に無事4都市ツアーを自己資金のみで終えました。

 

 

前田 耕平(まえだ こうへい)アーティスト

1991年和歌山県生まれ。自身のルーツとなる紀伊半島での風土や体験、同郷の博物学者である南方熊楠の哲学を根幹に「自然と人の関係や距離」をテーマに活動。国内外の自然地形や生態系、文化や信仰に目を向け、フィールドワークから、写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションなどの作品を制作。近年は「高瀬川モニタリング部」や、「動物園の未来ラボ」プロジェクトなど多様な活動を行う。主な展覧会に、個展「点る山、麓の座」(国際芸術センター青森)、「あわいの島」(アドベンチャーワールド、和歌山)、「タイランドビエンナーレ2023」(チェンライ)、「紀南アートウィーク2021」(南方熊楠顕彰館、和歌山)など。

 

メッセージ:

桑折さんとは、とあるダンス公演の出演者としてご一緒しました。桑折さんのわかりそうでまたわからなくなる人となりに、惹きつけられています。きっと俳優・桑折 現が持っている魅力の一つなんだろうなと思っています。今回の企画は「1人の俳優のための5人の演出家」たちによって構成されていますが、僕にとっては「1人のアーティストと5人の舞台関係者たち」とも言える構図でもあって。自分の立ち位置や、いまだよくわからない「演出」という役割について1年通して考えられる機会になりそうで、自分のためにも楽しんでみようと思っています!

 

「Before boiling」京都公演 2025年夏 会場:THEATER E9 KYOTO  撮影:金 サジ

前田 耕平作品「Before boiling」は2025年8月に無事4都市ツアーを自己資金のみで終えました。

 

 

倉田 翠(くらた みどり)演出家・ダンサー akakilike主宰

1987年三重県生まれ。京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科卒業。3歳よりクラシックバレエ、モダンバレエを始める。京都を拠点に、演出家・振付家・ダンサーとして活動。作品ごとに自身や他者と向かい合い、そこに生じる事象を舞台構造を使ってフィクションとして立ち上がらせることで「ダンス」の可能性を探求している。2016年より、倉田翠とテクニカルスタッフのみの団体、akakilike(アカキライク)の主宰を務め、アクターとスタッフが対等な立ち位置で作品に関わる事を目指し活動している。令和5年度京都市芸術新人賞。2024年4月より、まつもと市民芸術館芸術監督(舞踊部門)。

 

メッセージ:

桑折さんから初めてこの企画の構想を聞いた時、「うわ!若手みたいに破天荒なことするやん!」と思い、非常にテンションが上がりました。しかし、今改めて冷静に考えると、若手でもこんなリスキーなことしないだろう、と正直ヒヤヒヤしています。今、後先考えずとりあえずやってやる、みたいなことが非常にやりづらくなっているように感じます。私自身は若い頃から結構そうして勢いでここまでやってきたので、そのような有り余るエネルギーは一体どこに収納されているんだろうか、と考えることがあります。たぶん、お金のこととか、意味とか、搾取とか、売れなきゃとか、様々な問題が切実にのしかかっているんだろうと思います。自由なようで、全然自由じゃない、みたいな。桑折さんの企画は、そんなことわかってるよ、わかってるけど、そのような問題を遥かに超える切実な「やらざるを得ない」という衝動が突き動かしているもののように感じます。自由なんてどこまで行ってもないよ、を見てきた上で。ジェットコースターとかホラー映画とか、怖いのにやりたい、見たい、みたいな欲望が人間にあるように(私は両方嫌いですけど)、こういう危なっかしいものには加担したくなりますね。また、演出家としましても、具材 : 桑折 現 以上それで料理してください。みたいなオーダーは、非常に技量を問われると思いますし、各演出家が腕を鳴らして待機しているのかと思うと、ハラハラします。そして、具材 : 桑折 現は大変でしょうね。煮るか焼くか、フライパンで行くか直火で行くか、切るか丸ままか、格闘する日々を楽しみに待機しております。

 

 

和田 ながら(わだ ながら)演出家 したため主宰

京都造形芸術大学芸術学部映像・舞台芸術学科卒業、同大学大学院芸術研究科修士課程修了。2011年2月に自身のユニット「したため」を立ち上げ、京都を拠点に演出家として活動を始める。主な作品に、作家・多和田 葉子の初期作を舞台化した『文字移植』、妊娠・出産を未経験者たちが演じる『擬娩』など。美術、写真、音楽、建築など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2018年より多角的アートスペース・UrBANGUILDのブッキングスタッフとして俳優によるパフォーマンスシリーズ「3CASTS」を企画。2024年よりKYOTO EXPERIMENTのショーケースプログラム「Echoes Now」キュレーター。NPO法人京都舞台芸術協会理事長。

 

メッセージ:

俳優をやりたい、というのは、いったいどういうことなのだろう。長らく俳優というひとびとと一緒に作品をつくってきたけれども、かれらの欲望についてはまだわからないことが多い。かれらが繰り返す、演技という行為の奇妙さと切実さへの関心が、わたしを演出という仕事に駆り立ててきたのだと思う。とくに、一人芝居の演出をみずから演出家に要請するような俳優には、どこか並ならぬ情熱がある。しかもこの人は一度に五人もの演出家に注文を出した。最初に話を聞いたときはさすがに笑ってしまった。これがほだされずにいられようか。やるならばとびきりの、俳優の欲望に殉じたひとり芝居をつくるのだ。燃えてきた。

 

 

あごう さとし 劇作家・演出家

THEATRE E9 KYOTO芸術監督・アーツシード京都代表理事。

「複製」「純粋言語」を主題に、有人、無人の演劇作品を創作している。2019年より新劇場「THEATRE E9 KYOTO」を設立、運営する。21年に演出した、太田 真紀&山田 岳オペラ『ロミオがジュリエット』は、文化庁芸術祭大賞、サントリー芸術財団佐治敬三賞の両賞を受賞した。22年は大阪中之島美術館開館記念公演森村 泰昌×桐竹 勘十郎人間浄瑠璃「新・鏡影奇譚」を演出するなど、多分野との共作も多数。令和2年度京都府文化賞奨励賞。2021年度これからの1000年を紡ぐ企業認定。

 

メッセージ:

1人の俳優が5人の演出家と5つの新作をつくり、4つの地域で一年以内に上演する、という前代未聞のクレイジーな企画。齢40を超えて、妻子もいて、このようなことを思いつき、実行に至れる桑折 現さんは、非凡であり、自然であり、痛快だ。同時に私は、希望ともいうべき大きな力を与えられている。間も無く30年になる、桑折さんとの不思議な縁も感じつつ、作品でもってお返しせねばと、心を躍らせている。

 

 

ー 4都市ツアーの意味 ー

 

京都 <THEATER E9 KYOTO>



「マッチョと亡霊」富山公演 2025年春 会場: THEATER E9 KYOTO  撮影:金 サジ

学生時代から長く創作活動を行い、自分の拠点としてきた京都。この地で関西を代表する小劇場<THEATER E9 KYOTO>に、共催として企画に助力をいただけることになりました。自分の出発点である京都が、5つの作品の幕開けの地となります。京都は私に、多様な文化的刺激を与えてくれます。

 

 

松本 

<まつもと市民芸術館>



「マッチョと亡霊」松本公演 2025年春 会場:まつもと市民劇場小ホール 設営および舞台上での稽古風景

<マツモトアートセンターGALLERY>

「Before boiling」松本公演 2025年夏 会場:マツモトアートセンターGALLERY 
   左:会場風景 右:演出家との公演本番前後の制作風景

古くから日本の文化・芸術における重要な場所であった長野県松本市。2024年、倉田翠との創作のために松本に滞在し、自分の作品もこの街で上演したいと考えました。この地では、国内でも高い水準の設備や機構を誇る公共劇場「まつもと市民芸術館」の小ホールと、スタイリッシュなホワイトキューブ「マツモトアートセンターGALLERY」にて公演を行います。

 

 

富山 <旧宮島村役場>

「マッチョと亡霊」富山公演 2025年春 会場:旧宮島村役場 撮影:永原 圭介

 

現在の自分自身の居住地。3年目にして、ようやくこの北陸の地で創作を行います。県内には、利賀芸術公園と富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)という大きな創作拠点はありますが、小劇場やミニシアター文化が浸透しているとは言い難いと感じています。しかし工芸や民藝など、生活に根ざした文化の成熟度には見事なものがあります。そのような土壌の上で<旧宮島村役場>という文化財指定されている建物での上演に取り組むことになりました。実演芸術は、この地においてどのように捉えられるのか。この公演が、その新たな試金石になることを願っています。

 

 

東京 <水性>

「マッチョと亡霊」東京公演 2025年春 会場:水性(suisei) 撮影:前澤 秀登

 

上演を行う中野の地には思い出があります。20代の頃に初めて招かれ、緊張と高揚に苛まれつつ参加した海外アーティストとの共同製作。その折に、2週間ほど滞在したのです。そんな中野の商店街に佇む、元クリーニング店を改装したオルタナティブスペース<水性>が会場となります。小さくカジュアルで、非常に個性的なスペースです。

 

 

ー なぜ支援が必要なのか ー

 

助成金申請の限界

俳優の立場で応募できる助成は限られています。多くの助成には実績要件があり、それらは「作品」そのものや、作家や演出家に対して付加されることが多いのが現状です。また、年齢によって助成対象から外れることも増えていきます。

 

直接支援の意義

クラウドファンディングは、作品や表現と同様に、この企画への支持を直接示していただける手段です。身近な方々からは「勇気をもらえる」という声をいただいています。同じように感じてくださる方からの支持が、1年間を走り抜く力になります。

 

俳優を「仕事」にすること

この企画は、一つの公演を行って終わりではありません。1年間、創作と上演を繰り返し、結果を積み重ねていく。覚悟とリスクを背負って企画を立ち上げ、自身で制作(マネジメント・プロデュース)も行い、1年間のツアーを行う。これを、俳優として「仕事」をする一つの事例としたいのです。

 

「マッチョと亡霊」演出家とのクリエイション 京都のスタジオにて

「マッチョと亡霊」公演前 左:旧宮島村役場 ( 富山 ) 右:まつもと市民劇場小ホール ( 松本 ) 

「マッチョと亡霊」上演中 旧宮島村役場 ( 富山 ) 

「マッチョと亡霊」富山公演終了後 左:アフタートーク 右:演出家とのツーショット

 

 

 

ー スケジュール ー

 

2025年3月 : 広報開始

2025年4月 : 第1作品・西田 悠哉作品「マッチョと亡霊」のクリエーション

2025年5月 : 西田 悠哉作品4都市ツアー

2025年7月 : 第2作品・前田 耕平作品「Before boiling  ビフォア ボイリング」のクリエーション

2025年8月 : 前田 耕平作品4都市ツアー

2025年9月 : 第3作品・倉田 翠作品「桑折 現 / ダンス _ 中継 」のクリエーション開始

2025年10月クラウドファンディング開始

2025年11月 : 倉田 翠作品4都市ツアー クラウドファンディング終了

2025年12月 : 第4作品・和田 ながら作品クリエーション開始予定

2026年1月 : 和田 ながら作品4都市ツアー

2026年2月 : 第5作品・あごう さとし作品クリエーション開始予定
2026年3月 : あごう さとし作品4都市ツアー

 

 

ー 資金の使い道 ー

 

・4都市巡回のための交通費

・宿泊費各地での劇場

・ギャラリー使用料

・各作品の創作期間中の稽古場費

・演出家/スタッフへの対価

・衣装・小道具

・広報宣伝費

・プロジェクト全体の記録保存費

・クラウドファンディング手数料

 

 

ー   おわりに   ー

 

 

舞台芸術は目の前の生きている人を見続ける時間を体験することでもあります。

5つの作品、そのどれか一つの上演でも、観た方にとって「生きること」への肯定になればいい。そして、このプロジェクトが証明したいのは、俳優が住む場所に限定されずとも、限られた条件の中でも、情熱と工夫次第で新しい創作の形を生み出せるということです。

 

 

これは単なる個人の挑戦ではなく、舞台芸術の可能性を拡張し、俳優という職業の新しいあり方を提示する試みでもあります。

 







この挑戦が成功すれば、同じような状況にある全国の表現者たちにとって、一つの道筋を示すことができるでしょう。

そして何より、舞台芸術が地域を超えて人々の心に届き、新たな文化の架け橋となることを信じています。1人の俳優と5人の演出家の大きな挑戦に、後押しをいただければ幸いです。

 

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