ヴォーグジャパン アーカイブス

そんな最先端モードとハイブランド消費で沸き立つ世界の周縁にひっそりと生息するファッション凡夫の私は、昨年から15年ぶりに和服を着るようになった。和服もまた贅を尽くせば青天井の世界であり、富裕層と中間層では消費の仕方が異なる。私のように20年以上前に数枚あつらえたなけなしの着物を地道に着まわすのは、代わり映えもインスタ映えもしないが、しかしそれが可能なほど、いいものは非常にコスパがいい。着物も帯も形が決まっているので、きちんと手入れしていれば何十年も何世代も着られるのだ。着物は解いて繋げば元の一枚の布(巻いて反物になっているあの状態)に戻るので、寸法や色を調整して同じ生地を何度でも仕立て直すことができる。しかしそれをやってくれる腕のいい職人さんがどんどん減っている。糸の生産者や織り手など、さまざまな匠たちの高齢化と後継者不足で、丁寧に作られるいいものは年々希少化し、値上がりしているのだ。そして夏の酷暑化で、季節によって着る生地を変える古いしきたりも変わりつつある。「ほかに代わるものがなく、時間をかけて誰にも追いつけない価値を生み出したもの」であり、「ブランドの存在価値は同じ時代を生きる私たちの誇り」という元編集長の言葉を借りれば、まさに和服はそれである。変化に適応しつつ変わらぬ価値を持つブランドを育てるには、人々が何を誇りとするかが問われている。洋の東西を問わず、私たちは今大きな潮目に立っているのだろう。

Photos: Shinsuke Kojima (magazine) Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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「トレンド」という時間の制限から解放され、音楽もファッションも、より自由なものに

今回取り上げるのは音楽とファッションの関係性を特集した2011年10月号。あふれんばかりの情報量と消耗されるスピードで、ファッションにはトレンドがなくなったと言われることが多くなった現代。だが視点を変えてみれば、一過性の流行という時間の制限を超え、好きなものを好きなときに楽しむことができるようになった時代なのかもしれない。

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