建築家の永山祐子の個展『確かにありそうなもの』が、10月12日まで東京・新宿のAWASE galleryで開催中だ。2025年大阪・関西万博、2020年ドバイ国際博覧会 日本館の万博パビリオンに関する展示をはじめ、ジュエリーや高層ビルに至るまで、スケールや領域を横断し続ける永山のデザインプロジェクトを紹介するものだ。
Room1では永山の建築のアイデアのかけらが展示されている。照明やソファなどの家具も永山がデザインしたもの。
不確かな存在を空間に取り入れる
永山が建築を考える時の基盤は、単に床、壁、天井といった要素にとどまらない。「触れられる形で存在しないけれど、確かにそこに在る“現象”を取り入れることで、三次元物質世界の建築の枠を超えられるのではないか」という発想こそ、彼女の建築を導く鍵だ。その好例がLOUIS VITTON大丸京都店と豊島横尾館である。前者では、光学フィルムの偏光板を使って、実際には存在しない縦格子を“現象”としてつくり出した。後者では、赤いガラスによって横尾忠則作品の特徴である色を消してみせた。見えているものから情報を差し引くことで、在ることの不確かさをつくり出すのが“現象”だ。
豊島横尾館では、入り口から見える庭の赤い石を赤いガラスで消し、モノクロームの景色をつくり出した。
本展覧会はふたつの部屋で構成されている。Room1には発想のきっかけや思いがけないブレイクスルーをもたらしたモノが並び、永山の頭の中をそのまま形にしたような空間となっている。Room2は「動く建築」がテーマ。印象的な組子ファサードを使ったふたつの万博から27年に横浜で開催される国際園芸博覧会まで、一連のリユースプロジェクトを実物のモックアップや映像を通して、形を変えながら未来へとつながっていく建築の姿として提示した。
新宿の東急歌舞伎町タワーのファサードでは、湧き上がる噴水をイメージ。
会場では、永山自身による音声ガイドを無料配信。さらには永山が出がけたジュエリーや家具、出版本なども購入できる。展示写真として使用しているタペストリーやTシャツは、会期終了後に予定されているチャリティーオークションにて、廃棄されることなく活かされる予定だ(プロジェクトの概要はhttps://cacl.jp/topics/20250901_project/)。
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大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」で、不確かな形に挑戦したバタフライモチーフの模型。
「自分がいる空間」と「自分がいない空間」が近づいたり離れたりする状況をつくり出す永山建築。鑑賞者は決して大きくはないこの展示室に身を置くことで、永山が部屋で素材を眺めながらあれこれと発想を巡らせている瞬間に立ち会っているような感覚に包まれる。予感や余韻、感情を揺さぶる作品を生み出す唯一無二の建築家の頭の中をのぞいてみてはいかがだろう。
永山祐子個展『確かにありそうなもの』
開催日時:開催中〜2025年10月12日(日)
開催場所:AWASE gallery
東京都新宿区新宿3-32-10 松井ビル8F
問い合わせ先:iinfo@awasegallery.com