2025年9月30日更新

2025年10月3日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

P.T.A.の最新作はオスカー最有力。息つく間もない展開で魅せまくる

ポール・トーマス・アンダーソンの最新作は彼がポスト・モダン文学の旗手、トーマス・ピンチョンの原作「ヴァインランド」(1990年発刊)を読み、魅了されて以来、難航を極めたという。その理由は、アンダーソンの原作愛があまりにも強すぎて脚本がなかなか脱稿しなかったことと、これを映画化した場合、間違いなくP.T.A史上稀に見る娯楽バイオレンス・アクションになる気配があったからだ。つまり、大胆なシフトチェンジである。結論から言うと、この挑戦は大成功であった。

メキシコ国境の移民収容所付近。レジスタンスの活動部隊がアメリカの軍施設を襲撃し、捕えられた移民たちを次々と解放に導いている。冴えない革命家のボブは部隊を率いるペルフィディアのカリスマ性に魅了されていた。一方、ペルフィディアは敵対する米軍大佐、ロックジョーの隠れた性的嗜好を見抜き、物語の未来を決定づける想定外の“行為”に至る。結果的に、その“行為”がボブと娘のウィラ、そして、ロックジョーの運命を左右することになるのだが。

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16年の時を飛び越え描かれる父と娘の関係性が、炸裂するバイオレンスショットを背景に暴かれる本作は、「ワン・バトル・アフター・アナザー(次々と戦いが連続する)」と銘打つ通り、展開はハイテンポで息つく間もない。P.T.A.にこんなセンスがあったのかと驚くばかりだが、さらに驚くのは、不吉な米政府vs不屈のレジスタンス戦士の攻防の過程で、アメリカという国家を黒く覆う差別思想と排他主義の深層がさりげなく、しかし戦慄と共に暴かれること。それが、現トランプ政権が当たり前のように実践する移民排斥政策を示唆していることは言うまでもない。

要するに、P.T.A.の最新作は娯楽映画としてめちゃめちゃ面白くて、かなり病んでいて、社会性にも目配りした、贅沢な逸品。早くも先走ってオスカー確実を明言するメディアの気持ちはよく理解できるのだ。

早すぎることを承知でオスカーの可能性を深掘りすると、奇怪で、やがて悲しいロックジョーの末路を、いつもの表情演技に狂気を交えて怪演するショーン・ペンは、現段階で助演男優賞確実と断言してもいいほど。また、最初は全然パッとしないボブが父性によって変容していく様子をレオナルド・ディカプリオが演じて、こっちも主演男優賞候補入りは濃厚かと思われる。これは数ヶ月後に始まるアワードシーズンに先駆けて観るべき作品だ。

(清藤秀人)

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