キャサリン・ボーテル= 「パール オクトパシー」創業者兼デザイナー
ノルウェー発のアクセサリーブランド「パール オクトパシー(PEARL OCTOPUSS.Y)」は、8月25〜27日に開催された「オスロ・ランウエイ2026年春夏」で、過去1年間でノルウェーのファッション産業に顕著な貢献を果たしたブランドに授与される「トリュビュート・アワード」を受賞した。同アワードは、ノルウェーのデザイン産業の発展を促進する政府機関「イノベーション ノルウェー」がスポンサードし、受賞者には賞金5万クローナ(約74万円)が授与されるほか、グローバル市場での成長のためのメンターシッププログラムなどが提供される。
2020年にデザイナーのキャサリン・ボーテル (Cathrine Børter)が立ち上げた同ブランドは、有機的な曲線を用いた装飾性の高いデザインが特徴だ。パールやクリスタル、リサイクルシルバーやゴールドなどの素材を用いて、イヤリングやネックレス、チェーンアクセサリーなどをそろえる。価格帯はイヤリングは150ユーロ(約2万4000円)、ネックレスは190ユーロ(約3万円)など。スカンジナビアを主要マーケットとしながら、イギリスのセルフリッジやアメリカのバーグドルフ・グッドマンなどでも取り扱い実績がある。ファッション新興都市のオスロで期待を集めるキャサリン・ボーテルとはどんな人物なのか話を聞いた。
「ファッションがお金を稼ぐ手段になるとは想像できなかった」
WWD:オスロのファッション文化は発展し始めたばかり。幼少期はどのようにファッションに触れ、デザイナーを目指すに至ったのか?
キャサリン・ボーテル(以下、ボーテル):小さい頃から自分の手を使って何かを作ることが好きでした。アートや美しいもが大好きだったけど当時は、デザイナーになりたいとは思っていませんでした。むしろ、なれるものではないと思っていました。有名なブランドはみんな別の場所を拠点としていて、自分にとっては遠い存在でしたから。ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)やヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)、リック・オウエンス(Rick Owens)といったデザイナーが大好きでしたが、地元にあるのは、ファストファッションのチェーン店ばかり。ファッションがお金を稼ぐ手段になるとは想像できなかったんです。ただ、10年ほど前からファッションに関する情報にはアクセスできるようになりました。「ヴォーグ(VOGUE)」のオンライン版やSNSなども誕生し、ノルウェーのクリエイティブな人々の世界が一気に広がったんです。私自身最初は、不動産業に進んでいましたが、ファッションを通して自己表現したいという衝動は抑えられず、エスモード オスロで、ファッションを学び直しました。
WWD:ブランドを立ち上げた経緯は?
ボーテル:エスモード卒業後は、ノルウェーのウィメンズウエアブランド「フォールウィンタースプリングサマー(FALL WINTER SPRING SUMMER)」のデザイナーとして6年間働きました。その時期に自分のミニマルなワードローブに合わせるために、ジュエリーを作り始めたのが最初です。例えば、ネックレスでもチョーカーにできたり、バックにつけられたり、ブレスレットにできたり、いろんなアレンジができるものが欲しかったんです。それらのジュエリーをインスタグラムに投稿すると、予想外にも多くの反響があった。今の仕事を続けるべきか迷った末、もっと私の作品を見たいと言ってくださる人たちの声に背中を押され、独立を決意をしました。
WWD:ブランド名「パール オクトパシー」の由来は?
シグネチャーの渦巻き模様
ボーテル:最初に自宅でパールを使った渦巻きのイヤリングを作ったら、まるでタコみたいに見えたんです。そのとき偶然『007 オクトパシー』を観ていて、インスタグラムに「#pearlOctopussy」とハッシュタグをつけたのが始まりでした。最初は遊び半分で、ブランド名にするつもりはありませんでした。でも周りが自然にそう呼び始めて、名前が独り歩きしてしまったんです(笑)。振り返ってみれば、良いネーミングだったと思います。大胆不敵で他とは違うジュエリーを作りたいと思っていたので、名前もそれ相応のインパクトが必要。結果、迷った時や立ち止まりそうになった時、この名前が「怖がらないで好きなことをやる」という初心を思い出させてくれますから。
ムンクの作品から着想を得た最新コレクション
ジュエリーとウエアの境界線を越えて
「パール オクトパシー」2026年春夏コレクション
「パール オクトパシー」2026年春夏コレクション
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WWD:「ムンク美術館」で発表した2026年コレクションについて教えてほしい。
ボーテル:出発点は、エドヴァルド・ムンクの作品「太陽」です。太陽は光と闇、生と死、硬さと柔らかさをあわせ持つ存在です。その二面性を服に落とし込もうと考えました。例えば、生地に広がり持たせたシルエットや、フリンジで太陽の光を光を表現したり、構築的なテーラードルックにジュエリーの輝きを重ねたりしました。
WWD:ジュエリーとウエアの境界線を飛び越えるようなクリエイションがユニークだった。
ボーテル:意識しているのは、服とジュエリーの異なる素材感が生み出す対話。渦巻きの模様のビジューをあしらったジャケットは、ウエアが持つマスキュリンな強さの中にジュエリーの輝きとシェイプによって柔らかさが生まれます。透ける繊細なメッシュ素材のドレスは、クリスタルなどの硬質な装飾と組み合わせました。一見すると相反する要素ですが、柔らかい生地と重みのあるメタルが共存すると、とても美しく、独特の表情を生み出しています。
WWD:ジェンダーニュートラルな感覚も特徴だと感じた。
ボーテル:モデルも性別を横断して起用していますが、それはジュエリー自体が本質的にフレキシブルだから。アイテムも何通りにもスタイリングでき着ける人に自由を与える構造を意識しています。だからこそ、男性にも女性にもよくなじむのだと思います。
WWD:北欧はミニマルなデザインが多い中で、あなたのようなマキシマリズムのアプローチをするデザイナーは珍しいのでは?
ボーテル:そうかもしれません。でも、ミニマリズムとの対比や「謙虚さ」にはノルウェー的な気質があると思います。私はノルウェー人だから、私が作るものには自然とノルウェー性が宿っていると思いますね。
WWD:今後のビジョンを教えてほしい。
ボーテル:ジュエリーを基盤としつつ、小規模なレディ・トゥ・ウエアコレクションを持つのが理想です。服は大量に店に並べるではなく、あくまでアート的な表現として。ジュエリーでビジネスを成り立たせ、ランウェイではより自由な表現で世界観を伝えるイメージです。パリで発表することも目指したいですが、オスロに残ることも大切。ブランドが少し大きくなるとすぐ海外に出てしまうようでは、街のクリエイティブシーンは育ちません。だから両方を行き来しながら続けていきたいですね。