記事のポイント

NYFW2026春夏はグレーやモノクロが増加し、無難で均質な傾向が強まった。

パトボは「ラテンソウル」を掲げ、鮮やかな色彩で表現とレジリエンスを示した。

クックレリ・シャヒーンは翡翠や金を多用し、D2Cモデルで大胆なデザインを実現した。

ニューヨーク・ファッションウィーク2026年春夏(2025年9月6日〜14日)が、かつてないほど視覚的に落ち着いた印象だったのは、気のせいではない。

「もちろん今シーズンのランウェイにも鮮やかな色彩がところどころ見られたが、より多く目にしたのはモノクロームのルックや重たいダークファブリック、そしてニュートラルカラーだった。そのモノクロームの「均質さ」は、ワシントン・ポスト紙にレイチェル・タシュジアン氏が「ニューヨーク・ファッションウィークはいつからこんなに退屈になったのか?」と題した挑発的な論説記事を寄稿するきっかけになるほどだった。

タシュジアン氏は、ディオティマ(Diotima)、プロエンザ・スクーラー(Proenza Schouler)、アルトゥザラ(Altuzzara)、ティビ(Tibi)といったブランドが、似たようなシルエットやカラーパレットに傾いていることを指摘した。ヴォーグ・ビジネス米国版編集長で、かつてGlossy編集者だったヒラリー・ミルネス氏も、自身のInstagramストーリーで同様の傾向に触れた。Glossyの取材班もまた、大手のケイト(Khaite)から、ウェストビレッジで開催されたヴェニュー・コレクティブ(Venue Collective)のショーに出展した小規模ブランドまで、同じ動きを確認していた。

ファッションデータ分析企業のタグウォーク(Tagwalk)は、今シーズンのランウェイでグレーのルックが241%増加すると予測していた。今年初めに関税が導入されて以降、不確実な市場環境に直面するブランドは「シーズンレス」なコア商品の強化を安全策と見なし、市場が安定するまで「無難で同質的」な方向に傾いているのだ。

「色を避けなかったブランド」パトボとラテンソウル

しかし、すべてのブランドが色を避けたわけではない。9月16日にショーを開催したのは、20年以上前にデザイナーのパトリシア・ボナウディ氏が立ち上げたブラジル発のブランド、パトボ(Patbo)だ。テーマは「ラテン・ソウル」で、鮮やかな色彩とニュートラルが混ざり合うバリエーション豊かなコレクションを披露した。ボナウディ氏はGlossyに対し、色は常に自らのデザインに不可欠だと語った。

「私はラテンの女性、ラテンの魂について語っているの。色を排除することはできない。ブラジルで活動を始めた当時、シックでいる唯一の方法は黒か白を着ることだった。でもそれは私が考えるファッションの姿ではなかった。私にとってファッションとは表現であり、色はその手段。私にとって、それが唯一のやり方だ」。

パトボの鮮やかな色彩は、同ブランドが大きな成長を見据えるビジネスであることとも合致している。近年、パトボは米国に初の店舗をオープンし、昨秋にはマイアミにブティックを構えた。直販ビジネスも急拡大し、売上の半分を占めるまでに成長している。今シーズンのショーでは、新たに加わったカテゴリーであるフットウェアも初披露された。シューズはオンラインと直営店のみで販売され、年内にリテーラーに展開される予定だ。

ボナウディ氏にとって鮮やかな色彩は、ラテンアメリカ出身の数少ないNYFW参加デザイナーとしてのメッセージでもある。米国での移民取り締まりの強化により観光客が急減し、韓国との摩擦など国際的な緊張も頻発するなか、NYFWを避ける理由は増えている。ラテン系デザイナーのウィリー・チャバリア氏がパリに拠点を移す一方、ボナウディ氏は2021年の初ショー以来、NYFWでの発表を続けている。

「私は服を通じてメッセージを届けたい。ラティーナとして米国で発表できることを誇りに思っている。多くの困難があってもそれは変わらない。大変な時期だけれど、私は8年間ここでビジネスを築いてきた。米国にもパトボのために働いてくれているチームがあり、多くのアメリカ人スタッフがブラジルのチームとも深くつながっている。我々はグローバルブランドであり、伝えたいのはレジリエンス(困難に立ち向かうしなやかな強さ)だ」。

クックレリ・シャヒーンの大胆な色彩

色彩で攻めたもうひとつのブランドはクックレリ・シャヒーン(Cucculelli Shaheen)だ。デザイナー夫妻のアンナ・シャヒーン氏とアンソニー・クックレリ氏が手がけるこのブランドは、9月15日夕方、ピア40でサンセットショーを開催。翡翠のようなグリーンや黄金の装飾が目を引くコレクションを発表した。

「我々は常に文化的な体験からインスピレーションを得ている」と、ショーを控えたシャヒーン氏はGlossyに語った。フリック美術館のオープニングに行った時、色彩が美しく、深みがあり、質感を感じさせるものだった。創業当初は派手でカラフルだったが、コロナ禍以降は少し抑えめにしていた。今はもっと色を使い、より過剰に、マキシマリズムへ振り戻している」。

同ブランドと並んで、ザンコフ(Zankov)、リバティーン(Libertine)、メルケ(Melke)といったデザイナーたちも色彩を大きく取り入れた。

カスタムメイド中心のクックレリ・シャヒーンは、より大胆なデザインに挑戦できる立場にある。だが、シャヒーン氏は同時に、小規模ブランドだからこそ、ショーを最大限に活用する必要があると述べた。たとえばランウェイに登場する作品はすべて販売される予定であり、これは多くのブランドがショーで披露するコンセプチュアルな作品では必ずしも当てはまらない。

「売れない8万ドル(約1200万円)のドレスをつくるわけにはいかない。投資する以上、価値がなければならない」。

カスタムへの注力は、クックレリ・シャヒーン(Cucculelli Shaheen)が事業の大部分をダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)へと移行することも意味している。ただし「発見」のために少数のホールセール契約も維持している。シャヒーン氏によれば、顧客はまずリテーラーを通じてブランドを知り、その後、より高いレベルのサービスを求めて直接購入するケースが多いという。しかし、多くのブランドと同様、クックレリ・シャヒーンも、現在の卸売のファッション小売の厳しい環境を乗り越えなければならなかった。

「本当に厳しい状況だ」とシャヒーン氏は語った。「支払いを受けるまで1年、あるいは1年半も待つ余裕はないため、いくつかのリテーラーとは取引をやめた。ただし、前金を支払い、その後1カ月以内に残金を払ってくれる一部のリテーラーとは良好な関係を築いている。我々が維持したいのは、そうした取引先だ」。

[原文:Fashion Briefing: Where was all the color at New York Fashion Week?]

Danny Parisi(翻訳・編集:戸田美子)

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