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かわぐちかいじの大ヒット漫画の映画化第2弾
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』吉野耕平監督インタビュー
大沢たかお主演で贈る、
かわぐちかいじの大ヒット漫画の映画化第2弾
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』吉野耕平監督インタビュー
かわぐちかいじの人気漫画『沈黙の艦隊』を、大沢たかおを主演・プロデューサーに迎え実写映画化したシリーズ第2弾『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が、9月26日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。
海江田四郎率いる原子力潜水艦〈やまと〉が、アメリカの最新鋭原子力潜水艦に狙われ窮地に陥る様を描く。邦画で初めて海上自衛隊と潜水艦部隊の協力を得て、実物の潜水艦を撮影した話題作だ。
主演とプロデューサーを務めた大沢たかおをはじめ、上戸彩、夏川結衣、江口洋介ら前作のキャストが続投し、本作から津田健次郎が加わっている。そんな本作の公開に合わせ、監督を務める吉野耕平が作品について語った。
──『沈黙の艦隊』の実写映画化と聞くだけで、すごくハードルが高いように感じますが、元々、監督は原作をお好きだったのでしょうか。
大学時代に友人から借りて読んだんですが、気がつけば夢中で最後まで読んでいました。それまでに読んだことのないタイプのお話で、当時、タブーとされていたことに切り込んでいて。今、僕が作り手になって思うのは、作るために膨大な取材や踏ん切りが必要な作品なので、ものすごくエネルギーを注ぎ込んで作られたんだろうな、と。きっと、大学時代もそういうところに刺激を受けたんだと思います。それを形にすることにご縁やチャンスがあるなら、やった方がいいと思って監督を引き受けました。
──熱量やスケール感が違うというか、覚悟がないと描けない作品だと思います。本作は映画という形で公開されますが、映画での公開とお聞きになった時はどのように感じられましたか。
やはり、映画館での上映というのは作り手としてはすごく幸せなことですから。音も映像表現も1番良い環境で作らせてもらえるので、すごく嬉しかったです。でも、その一方で、ぎゅっと中身が詰まったパートを2時間で作ることにハードルの高さを感じました。映画でもドラマシリーズでも、幸いなことに、かわぐち先生にすごく励ましていただいたので、本作も先生がいいというなら、きっと大丈夫だろうと思いながら頑張らせていただきました。
──すごくスケールが大きい作品なので、映画館で観てほしい作品だと感じました。特に、映像描写にはこだわられたと思いますが、北極海と東京の空撮を重ねていたり、他にもいくつかの風景を重ねてらっしゃいました。そこにはどのような意図があったのでしょうか。
本作では、潜水艦の戦いが日本の選挙の行方を決める一方で、選挙の行方が潜水艦の運命を決めることもあって。それぞれが別々の場所で戦っていますが、ひとつの船に乗っているというか、運命を紡いでいることを意識してほしいと思っていたので、あのような描写にしました。
──北極海と日本なので、確かに場所はすごく離れています。
そうなんです。場所が全く違うだけでなく、顔を合わせてもいないし、電話もしてないので。ともすればバラバラに見えるかもしれませんが、お互いにすごく意識し合っている。政治とバトルが組み合わさってこその『沈黙の艦隊』だと思うんです。まるで、海苔で巻かれた玉子のお寿司のように海苔が接着剤のような役割を果たす感覚で、ところどころシームレスに繋がる場面が欲しいと思って、意識的にそういう描写を入れました。
──潜水艦のバトルや潜水艦の中の描写がメインですが、選挙や政治のドラマも描かれています。海江田も、もちろん感情を出さないですが、政治家も感情表現があまりないので、そういう意味では両方ともドラマを演出する上ではすごく難しかったのではないでしょうか。
そうですね。立場のある大人の人は感情をあまり出さないものですが、上に立つ者として引っ張っていく以上、内心にすごく熱いものを持っていると思うんです。演出家としては非常に厄介でしたが、あの手この手で彼らから垣間見える揺らぎや焦りを引き出したいと思いながらやっていました。とは言うものの、本当に皆さん表情を崩さないので、演じる側も難しかったと思います。
──そうですよね。1番は大沢さんだと思いますが(笑)。
そこは、〈やまと〉のブリッジ自体をひとりの人物だと考えていました。艦長は感情を出さずに立っていても、副長の山中が焦ったり、声をあげることによって、ブリッジ全体でドラマが語られているんだと。まるで野球のバッテリーのように、山中が焦った顔で振り向いて、それを冷静に受け止める海江田がいて、ひとつの芝居だと考えていました。演出側は1セットで考えてやっていましたが、演じ手側はもっとやりたいことがあっても、ぐっとこらえているので、すごくエネルギーが必要だったと思います。
──そうですよね。山中もすごく大事な存在というか、山中がいないと成立しなかったかもしれません。
そうですね。今回は山中が大活躍です(笑)。海江田から飛んできたどんなボールでも受けるキャッチャーでした。
──そのように、感情を出す人物が少ない中、本作から新たに登場する政治家の大滝は唯一、笑顔を見せる人物でした。その大滝を津田健次郎さんが演じてらっしゃいますが、異質なキャラクターである大滝に声優も俳優もやってらっしゃる津田さんをキャスティングされたのは憎いなと思いました。
僕もいいなと思いましたし、僕自身も、大滝が次に何をするんだろうと気になりました。役作りの上では、いい意味で浮いてる人というのを少し意識していただいて、外から見るとすごく面白いんだけど、友達だったらちょっと厄介そうという絶妙なところを上手く表現してくださってました。声優としても、ものすごく場数を踏まれている方なので、声の表情ひとつにしても、チューニングがすごくお上手でした。目が離せないキャラクターですよね。
──すごく魅力的なキャラクターでした。少し話は逸れますが、大滝がクジラの標本を見上げるシーンがありましたが、あれは大阪市の自然史博物館でしょうか。
そうです。大阪に住んでいた時は行ったことがなかったんですが、面白いクジラの標本を調べていたら、あそこが出てきたんです。あんなに綺麗にクジラの標本を撮れるところはなかなかないんです。あれに匹敵するのは、イギリスのロンドン自然史博物館ぐらいです。日本だとここだ!と思って大阪で撮影しました。
──やっぱり、そうだったんですね!以前、見たことがあったので、これは大阪のはず!と思ってました。
あのスケール感はなかなかないんです。どうしても、日本の建物の中で標本を吊ってしまうと、いろんなものが視界に入ってしまって、スケール感が出ないので。あそこで大滝が登場するのも、何かあるぞと感じていただけるんじゃないかと思います。
──ちなみに、監督は元々、潜水艦映画はお好きだったのでしょうか。
実は、あまり多くは観たことがなかったので、これを機にいろいろ観直しましたが、やっぱり面白いなと。密室の中、皆で汗をたらしながら耳を澄ませているのは映像ならではの表現だと思いました。各作品で潜水艦の切り取り方に、この映画の潜水艦はこれでいきますと宣言するようなトーンがあるので、そこも非常に参考になりました。
──それは映し方や色合いということでしょうか。
色合いもそうですね。例えば、青と赤を効果的に使う作品もあれば、黄色ベースで黄色と青を多用していたり、もっとナチュラルな光を使っている作品もあります。実際の潜水艦をそのまま映そうとすると、映像作品としては非常に撮りづらいものなので、何か工夫をしないと成立しないんです。広くてちょっと煙が漂っている潜水艦もあったり、危険な時の安全対策が違うこともあって。映画によって違うのが面白かったです。
──潜水艦映画の違いを意識して観るのも面白そうですね。映像としての工夫が必要ということは、潜水艦内の空間をどう見せるかというのが1番難しかったのでしょうか。
例えば、登場人物たちが会話する時にどういうライトの下にいるといいかなど、そういうことを設計しながら、ライティングを決めています。位置関係もすごく重要で、ソナーマンと艦長と副長の全員が1アングルで収まる場所や、あるいはパスワークのように、カメラを振ると収まる場所を考えながら決めています。実際の潜水艦も参考にしながらも、例えば、リアルでは通信室と艦長の部屋は別なので、本当は顔を合わせないけど、今回は同じ部屋にいることにしよう、と。いろいろな条件を鑑みて、あの部屋を作っています。
──そう考えると、シーズン1の〈たつなみ〉と〈やまと〉の内部は全く違いました。〈やまと〉は最新鋭というか、システマチックな感じで、〈たつなみ〉の方はアナログ感があるというか。それぞれの潜水艦の色というか、艦長の色を意識して作られているんですね。
まさに、そうですね。特に潜水艦は窓がないから部屋の中しか見るものがないので。その中に〈たつなみ〉の哲学みたいなものがあって。古い潜水艦だから、増築、改築して機械を入れ替えてきたから、だんだん手狭になってきた、というような歴史を考えて作りました。一方、〈やまと〉はまだ作りたてなので、人間の居心地の良さも考えられていて。段差がある足元にダウンライト気味の照明があって、転ばないようになっていたり。
──隅々にまで配慮が行き届いてるんですね。
例えば、我々が普段目にしているような、古い電車と最新の電車でもそうですよね。最新の電車には気の利いたところにライトがあったり。そういうことを考えながら、美術チームが作ってくれました。
──すごく細かいところまで考えて作ってらっしゃるんですね。ちなみに、シーズン1の時と本作でも〈やまと〉の内部は変わっている部分もあるのでしょうか。
シーズン1の時は出来立てで、塵ひとつなかったんですけど、続編となると、数ヶ月といえど時間も経っているので、少しずつ生活感が出てきていると思います。シーズン1の時は〈たつなみ〉の方が、生活感があったので、〈やまと〉はできるだけ出さなかったんですが、今回は登場人物たちのキャラクターも見えてきているし、少し疲れてきているというか、ずっと戦っているので。
──ずっと緊迫感の中にいますから。
例えるとすると、新品だった携帯にいくつか擦り傷ができてきているような。アプリのデータも少し溜まってきて、使い始めはすいすい動いていたけど、動きも少し遅くなっていて。でも、その方が感情は出しやすいんですよね。その辺りの汚し方やピンチの作り方は、現場のスタッフがいろいろ考えてくれました。
──そんな〈やまと〉のピンチやバトルは本作の見せ場でもありますが、バトルの描写に難しさは感じられましたか?
戦いは避けて通れないことですが、原作でも、お互いに戦いたくて戦ってるわけではないんです。お互いに軍人でもあり、国のために仕事として戦うことを選んでいる人たちなので、戦うしかないんですよね。『沈黙の艦隊』自体のテーマも、どうやったら戦いをなくせるかというのが最終的なゴールなので、戦いによる犠牲も、この作品を描く上では最終的な結論にたどり着くまでに避けては通れないと思っていました。
──潜水艦が傾くところを映像で表現されていたことで、実際に自分もそこに居合わせているかのような臨場感がありました。
これは難しいところで、実際の潜水艦はそこまで角度がつかないんです。でも、お客さんに車を運転している時や、ジェットコースターに乗っている時のように体感してほしいと思ってそうしました。そうでもしないと、潜水艦は窓の外の景色がないので、CGと内部の一体感をなかなか感じてもらえないんです。だから、こう感じてるんだと表現するために、思い切って傾けている部分はあります。
──船の場合は船室に窓があるから外の景色で表現できますもんね。
そうですね。窓の外の景色でどう傾いているかわかりますから。
──お客さんも一緒に、潜水艦に乗っている感覚を味わってもらいたいと。
アトラクション寄りというか、映画館で座りながら体感してもらうことを本作では意識していました。
──シーズン1から、自由に海を泳ぐクジラと〈やまと〉が重なるシーンもいくつかありましたが、クジラにはどのような意味を持たせていたのでしょうか。
クジラは潜水艦のモチーフでもありますし、ベネットが口にする「リヴァイアサン」という海の中の怪物も、クジラのように描かれているものもあります。陸から少し離れた海の中で、見えたり見えなかったりする大いなる存在のようなイメージが、海江田や〈やまと〉という存在に重なる一方で、決して冷たいだけ、怖いだけじゃない、深い海にいる、畏怖するべき存在をイメージしています。
──それが〈やまと〉に通じるところがあるということなんですね。
怖くも見えるし、優しくも見えるクジラという存在が大事でした。原作ではクジラの存在をそこまで立てていませんが、クジラという補助線があると少し整理しやすいところがあるんじゃないかと。皆が「やまと」に感じている恐怖や神聖さをクジラのイメージと重ねると、くっきり見えてくるんじゃないかと思っています。
──原作にないというと、中村倫也さんが演じられた入江は原作にはない人物ですが、本作でも入江の存在は、どこかしらに影を落としているように感じました。やはり、中村倫也さんが演じてらっしゃったからこそだと思いますが、ここまでの存在になるとわかっていたからこそ、入江役は中村さんだったんでしょうか。
正直、最初はそこまでは考えてなかったですね。ただ、入江は海江田と深町とのわだかまりの原因でもあるので、海江田という人物に光を当てるための懐中電灯のひとつとして入江という存在がいることで、人物像を浮かびあがらせられると思いました。
──ある意味では、唯一、海江田の感情を感じられる部分かもしれません。
政治がどうとか、国がどうという話ではない部分で、海江田という人物そのものを照らすことができる光だと思います。海江田は頭もいいし、度胸もある。その一方で、〈やまと〉のクルーが海江田についていく魅力がどこにあるのか、入江の弟も探ってると思うんです。それは観客も知りたいと思うので。原作よりも海江田が寡黙になっている分、いろんな人がいろんな角度から海江田にライトを当てて、海江田の人物像を描こうと思いました。
──重層的に浮かび上がらせるというか。
そういう意味では、入江の弟も非常に大きな存在なんです。彼が1番、〈やまと〉の中では新人っぽいというか、恐怖や驚きを感じたりできるので。観客が共感できる人物だと思います。
──確かに。山中はその次元じゃないですから(笑)。
そうですね(笑)。入江は唯一、怖がったりしていいんです。〈やまと〉の乗組員は皆ポーカーフェイスなので、入江ぐらいは汗をかいたり、恐怖を感じてもいいと伝えています。でも、彼も「やまと」の乗組員に選ばれているぐらいなので、百戦錬磨なはずですが。
──ちなみに、深町はもう出てこないんでしょうか。深町と海江田のドラマの続きを観たいのですが…。
それは、またのお楽しみですね。深町がいると海江田もちょっと楽しそうですよね。
──わかります!全然、笑ってないんですけど(笑)。
深町をおちょくってる時の海江田が1番楽しそうですよね。そういうところを僕も見てみたいです。
取材・文/華崎陽子
(2025年9月24日更新)
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