「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」が9月20日、神戸市立博物館で開幕しました。フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の偉大な画業を2回に分けて紹介する展覧会の第1期です。本展では草創期のオランダ時代から、印象派と出会ったパリ時代を経て、南仏のアルルで傑作《夜のカフェテラス(フォルム広場)》を描くまでの前半生に焦点を当てています。 

今回の展示作品は全て、ゴッホのコレクションではファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)に次ぐ質と量を誇るオランダのクレラー=ミュラー美術館の所蔵です。ゴッホの作品57点と、ゴッホに影響を与えた同時代の画家の17点の作品で構成されています。

ゴッホは1870年代に画商の社員として、パリやロンドンなどの海外芸術に早くから親しんでいました。1880年以降、本格的に画家を目指すなかで、農村生活を主題としたバルビゾン派の巨匠、ジャン=フランソワ・ミレーを最高の画家として尊敬するようになりました。また、ヨーゼフ・イスラエルスら、重厚な明暗対比によるドラマチックな表現を得意とするハーグ派の画家からも刺激を受けました。

画商を解雇されるなど経済的な苦境や、周囲との軋轢に苦しみながらも、両親の住むオランダ南部のニューネンに戻り、農村や貧しいながらも実直な農民を描きながら、画家としての技量を育みました。《じゃがいもを食べる人々》はリトグラフによるオランダ時代の傑作です。《白い帽子をかぶった女の頭部》では、ガーゼの帽子がほかの衣服よりも、かなり詳しく描かれています。 

1886年、ゴッホは弟のテオを頼って、オランダを出てパリに向かいました。
当時、「花の都」では鮮やかな色彩と、明るい光の表現を持ち味とする印象派の作品が注目を集めていました。ゴッホは、モネやピサロの作品を実際に目にして、新しい表現に魅入られました。

パリでは、まだ無名でモデルを雇う経済的な余裕もなく、自画像や花瓶に生けた花を題材に、色彩を組み合わせる表現を追い求めました。
そんななかでも、絵の具の厚塗りや大胆な色の使い方といった特徴は、後の作品に色濃く反映されました。
また筆使いが闊達で大胆になり、理想とする速い筆裁きにも近づいていきました。

 印象派の影響を受けて、大きく作風を進化させたゴッホでしたが、大都会の生活にストレスも感じ、1888年2月に南仏のアルルに拠点を移しました。素朴で明るい風景は、浮世絵を通じて知った日本や、近代以前の農村社会を思わせる理想の地でした。わずか15か月足らずの期間に200点の油彩と100点以上の素描、水彩を残しました。 

その年の9月に、アルル時代の代表作《夜のカフェテラス》を描き上げました。これまで西洋絵画では、黒か灰色でしか描いていない夜空を青で描き、カフェの黄色い灯りと対比させる斬新な表現でした。

ゴッホは、『女の一生』で知られるモーパッサンの『ベラミ』を愛読していましたが、この長編小説の中に登場する壮麗な星空の表現に刺激され、絵画化しようとしたとも言われています。神戸市立博物館の塚原晃・学芸員は「ゴッホの最も幸福な時期を象徴する作品」と表現します。 

2026年2月1日までの神戸会場の後は、福島県立美術館、上野の森美術館(東京)に巡回します。第2期は2027年2月から神戸市立博物館で始まり、《アルルの跳ね橋(ラングロワ橋)》などが展示される予定です。

 今年、神戸は阪神・淡路大震災から30年を迎え、来年開催される福島は東日本大震災から15年の節目となります。同館の油井洋明館長は「ゴッホは色んな困難に直面しながらも、絵画芸術のなかに幸福と希望を追求していました。この展覧会を見て、ゴッホの人生に想いをはせていただければ」と話します。(美術展ナビ編集班・若水浩)

阪神・淡路大震災30年 大ゴッホ展 夜のカフェテラス

会期:2025年9月20日(土)~ 2026年2月1日(日)

会場:神戸市立博物館(兵庫県神戸市中央区京町24)

入場料金(当日券):一般2,500円、大学生1,250円(高校生以下無料)。

主   催:神戸市立博物館、神戸新聞社、産経新聞社、関西テレビ放送、博報堂

お問合せ:078-391-0035(神戸市立博物館)
神戸展サイト:https://www.ktv.jp/event/vangogh/

■会期・巡回情報
第1期(2025年~)
・福島県立美術館 2026年2月21日(土)~5月10日(日)
・上野の森美術館(東京) 2026年5月29日(金)~8月12日(水)

第2期(2027年~)
・神戸市立博物館2027年2月6日(土)~5月30日(日)
・福島県立美術館2027年6月19日(土)~9月26日(日)
・上野の森美術館(東京) 2027年10月~2028年1月

◆プレビュー記事はこちら

◆「大ゴッホ展」の記者発表会

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