掲載日

2025年9月21日

​今週日曜のロンドン・ファッション・ウィークは、過激に実験的な一日となった。エルデム(Erdem)のシュルレアリスティックなクチュール、シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)の“不満げなデビュタント”たち、ケント&カーウェン(Kent & Curwen)のコンセプチュアルな“ピクニック”、そしてヨハンナ・パルヴ(Johanna Parv)の人間工学発想のスポーティ・シックが全開で揃った。 

エルデム:シュルレアリスム・シック

エルデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)ほど、これほど意外なミューズを誇れるデザイナーはいないだろう。今季のインスピレーション源は、徹底して無名のシュルレアリスト、エレーヌ・スミスという女性だった。

コレクションを見るErdem - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンErdem – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

しかし、その無名ぶりこそがエルデムにまたしても名作をもたらした。ブルームズベリー的クチュールの精華である。

カトリーヌ=エリーゼ・ミュラー、通称エレーヌ・スミスは、100年以上前、初期シュルレアリストから「自動筆記のミューズ」と称された人物。彼女の自動筆記の写しは、布の花びらやフラワーで密に飾ったレースの“チェスの駒”さながらのシースドレスや、糊付けしたチュールの見事なコルセット・カクテルドレス、成形ビスチェドレスに刺繍として落とし込まれていた。

スミスは自らを霊媒と信じ、故ヴィクトル・ユーゴーやカリオストロと交信できると主張したことでも知られる。さらに恍惚状態の中で、ヴェルサイユ宮廷やラジャスタン、さらには火星にまで旅したと信じていた。

コレクションを見るErdem - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンErdem – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

“ヴェルサイユ”の章は、高いレース襟のガウンやシャツ、マリー・アントワネットを想起させる構築的なパニエで表現。一方、インドへの空想の旅は宇宙行きの妄想とないまぜになり、ネオンカラーのクラッシュ刺繍を施したリネンのスカルプテッドドレスに結晶。モデルたちはコーティザン風のリボン付きシューズを履いて行進した。

また、心理学者テオドール・フルノワから着想を得たマニッシュなブレザーやストライプのダブルブレストのジャケットも登場。フルノワは彼女の“旅”を『From India to the Planet Mars』にまとめている。

やがてスミスは完全な無名のうちにこの世を去ったが、この日曜、大英博物館の列柱の下で行われた壮麗なショーの中で、彼女はファッションに鮮烈な栄光の瞬間をもたらした。

シモーネ・ロシャ:不満げなデビュタントたち

午後はロンドンのシティにあるマンション・ハウスへ。ロシャのコレクションのテーマに、彼女基準でも際立って実験的な今季にふさわしい舞台だった。

コレクションを見るSimone Rocha - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンSimone Rocha – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

ロンドン基準では長尺の52ルック。多くの装いが時代や様式を大胆に混交し、時に当惑させつつも、しばしば美しく結実していた。

来春に向け、ロシャはサテンジョーゼット、フローラルジャカード、シルクオーガンジーをクリノリンやベネチアン・テールコート、フープスカートへと仕立てる。そして、その多くをコンフェッティ柄の透明なプラスチックのコートやトレンチでさっと覆った。

「不満げなデビュタントたち……母親の服を着ることを余儀なくされた若い女性」。それが、このアイルランド人デザイナーによる2026年春夏コレクションの定義だ。

オープニングからそれは明白だった。小花刺繍の上品なオーガンザのクリノリンに、黒レースの縁取りが施されたシルバーのスパンコールブラを反抗的に組み合わせる。続いて、オーバーサイズのトラペーズドレスに大ぶりのファブリックフラワーを貼り付けたルックが現れた。

コレクションを見るSimone Rocha - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンSimone Rocha – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

「自分の根幹のコードを押し進めたかった」とシモーネ。セミシースルーのオーガンザ越しにクリノリンの構造を露わにし、多くのドレスにミニコルセットを重ねて、ほんのり倒錯味を添えた。

母親のワードローブについては、靴を引き立てるためにスカートを高く引き上げ、ドレスのように着ていたことも明かす。シモーネ・ロシャにとって重要カテゴリーであるシューズは、今季、ジョージアン風モールディングを施した厚底プラットフォームや、パースペックス製のパンプスが登場。

ウィメンズはあえてレディライクに寄せすぎず、下着の露出を多用。一方メンズは徹底して洒落者風で、緋色のジャカードのマントにトランペット・リリーを合わせたり、フリル付きのスータンに、フリルの付いたサテンの枕を抱えるモデルが登場したりと、徹底して気障に振り切ってみせた。

フレデリック・サンチェスによる優れたサウンドトラックは、マリアンヌ・フェイスフルとプラハ・フィルハーモニーの楽曲の断片に、Salemの「King Night」の悪魔的サウンドを差し込んだ構成。

このパフォーマンスでリスクを取らなかったと彼女を責める者はいないだろう。シモーネが笑顔で一礼すると、会場は大歓声と長い拍手に包まれた。

ケント&カーウェン:ロンドンのユナイテッド・パークス

ケント&カーウェン(Kent & Curwen)では、デザイナーのダニエル・カーンズ(Daniel Kearns)が、ブランドの“三匹のライオン”ロゴとDNAへの鋭いフォーカスは崩さずに、ムードと素材を軽やかにし、ギアとトーンを一変させた。

コレクションを見るKent & Curwen - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンKent & Curwen – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

プロデューサーのロビン・スコット=ローソンが手掛けた演出も見事。10×20フィートのLEDスクリーン10台に、ロンドン各地の公園で遊ぶ子どもたち、フットボールの試合、ボート遊び、堂々たるプラタナスの大木などの映像が映し出される。来場者にはスマートなストライプのブランケットも配られ、日差しに恵まれた英国の首都での日曜のピクニックにうってつけだった。

このセットは、服のための理想的な背景に。ジャカードやシフォンといったオートクチュール級の生地にテック系ナイロンをブレンドし、服を多層的に機能させる。由緒あるケント&カーウェンというブランドを、心地よくコンセプチュアルに読み替えてみせた。

ショート丈のテニスドレスの美しいドレーピング、ブレザーとプリセシフォンのスカートが融合した見事なアイボリーのコートドレス。コエドのショーらしく、女性には白い多弁花のようなスイムスーツを、男性にはシャツを提案。シフォンのミニにフェザーのブラトップを合わせ、日本的なムードも漂わせた。

コレクションを見るKent & Curwen - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンKent & Curwen – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

その後は、ピンクやブルーのトレンチコートに落とし込んだ、大胆でグラフィカルなラグビーカラーでブランドのルーツへ回帰。さらに、布のバラ刺繍を施した見事なセーターや、イングリッシュ・フローラルを“フォトショップ的”に操ったパンツ&トップスの華やかなフィナーレへ。カーンズにとって、このハウスで最も実験精神に富むコレクションとなった。

ヨハンナ・パルヴ:スポーツ、ファッション、アクション

ヨハンナ・パルヴでは、行動派の女性たちがキャットウォークを駆け巡り、変身するスポーティ・シックという彼女の大胆にして鮮やかなヴィジョンを体現した。

コレクションを見るJohanna Parv - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンJohanna Parv – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

ハイテク素材を駆使し、スポーティでありながらプロフェッショナル、守備的でありながらシック。天候の変化にも実用的に対応しつつ、スマートでスタイリッシュ。自転車移動から役員会議室まで難なく通用する服を、パルヴは作り上げる。

ショーは“ジム帰り”の装いからスタート。張りのあるシャツやトップスを、彼女の“アクションバッグ”で巧みに分節。続いて、スポーティなジャーキン(ベスト)や、足首を斜めにカットしてスピード感を示唆するパンツが登場。角度をつけたジップやタイの巧みな使い方で、見た目にも機能にも多面性を持たせた。

結果として、ファッションを通じて女性の自立を後押しするコレクションに。アンスラサイトのアップデート版“シェリフ・ダスター”、チャコールのナイロントラックジャケット、ブルゾン、キュロットまでを網羅。さらにハイブリッドバッグも登場し、時にはバックパック、また時には人間工学に基づいたファニーパック、さらには腰に巻くメッセンジャーバッグとしても使え、自転車のフレームにも装着可能——その名も「フレーム」。どれもクールだった。

「Johanna Parvは、私たちの内なるLimeライダーを引き出してくれます」と、BFC(英国ファッション協議会)CEOのローラ・ウィアーは洞察に富むコメント。

コレクションを見るJohanna Parv - 2026年春夏 - ウィメンズ - 英国 - ロンドンJohanna Parv – 2026年春夏 – ウィメンズ – 英国 – ロンドン – ©Launchmetrics/spotlight

プログラムノートで、エストニア生まれのデザイナーは、デボラ・L・パーソンズの『Streetwalking the Metropolis』——女性作家たちが都市空間を行き交う際の経験と認識を論じた名高い研究——を読んだことに言及。このコレクションは、現代のアーバン・ジャングルにまさにうってつけだ。

Leave A Reply