2025年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
本能寺の変に至る信長と光秀の心境や人物像、紫式部が道長の愛人だったかどうか、赤穂浪士の仇討は実は次の仕官への布石のつもりだったかどうか、等、等・・・。さまざまな歴史的事件に対して後世の作家がいろいろ解釈をつけて脚色し、それに触れた読者や観客が、ああ、そういうこともあったのかとそれぞれに納得して楽しんでも構わない、それが『歴史の風化』ということかと思いますが、太平洋戦争もいよいよそういう段階に入ったのかなと感じました。
この映画のストーリーは史実に基づくとなっていますが、制作者のメッセージをより強調するために多くの史実を故意に無視しているのではないでしょうか。これほど“駆逐艦愛”の強い脚本ですから、緒戦期に撃沈した英艦の漂流者を救助して連合国の病院船に引き渡した駆逐艦「雷」の工藤俊作艦長の話とか、沖縄突入作戦でも「雪風」の他にも「初霜」と「冬月」もほぼ無傷の小破状態で生き残り、それぞれ多数の漂流者を拾い上げて帰投した話などを、作家がご存知ないはずはない。そういうことを敢えて観客に意識させず、「雪風」だけが主役に見えるように制作し、それを多くの観客が気づかずに鑑賞している、それが歴史の風化の第一歩かと私は考えます。
ちなみに「雪風」と共に「大和」を護衛した駆逐艦「冬月」も敵機の跳梁下、短艇を下して双眼鏡で確認できる限りの漂流者を救い上げ、航行不能になった駆逐艦「霞」に横付けして生存者を移乗させ、帰投中も大破して後進で避退中の僚艦「涼月」に対して敵に傍受される恐れもあるのに所在確認の無電を発し続けたといいます。「冬月」の山名寛雄艦長は戦後は海上保安庁の巡視船「あつみ」の船長として船が60度以上も傾く波浪に突っ込んで台風観測に従事しましたが、こういう国と国民を守る海の男たちのエピソードも、「雪風」だけに脚光が当てられたためにさらに霞んでしまった。それが“歴史”の宿命ですから、良いとか悪いとか言えませんし、「雷」や「冬月」のエピソードまで1本の映画に盛り込むことは絶対に不可能ですが、私は何となく悲しい。
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雪風 YUKIKAZE