米テレビ界で最高の栄誉とされるエミー賞で今年、多くの賞を獲得したのが「ザ・スタジオ」だ。同作品で俳優セス・ローゲンは、岐路に立たされた映画会社コンチネンタル・スタジオの代表を演じる。さまざまな窮地に奮闘するその役柄とは対照的に、ローゲン演じる人物の装いは洗練されている。

  特にカジュアルに着こなすダブルのジャケットは「クリエイティブな力」を象徴し、独特の存在感を与える。さらにローゲン自身も、主演男優賞を受賞した式典でベルベット製のダブルのタキシードを選んだ。

  ダブルジャケットの人気は再び高まりつつある。従来の古めかしい印象を脱し、あえて言えば「クール」な装いとしてファッション界に広がりつつある。意外に着こなしやすい点も人気を後押ししている。

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「ザ・スタジオ」でダブルのジャケットを着る俳優セス・ローゲン

Source: Apple TV+

  「ダブルのスーツは多くの男性の体型を最も引き立てる」と語るのは、スタイリストのシェイズ・デニス氏だ。同氏のクライアントの1人、俳優トラメル・ティルマンは今春のカンヌ国際映画祭で出演作「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」が上映された際、ドルチェ&ガッバーナのクリーム色のダブルジャケットを羽織ってレッドカーペットを歩いた。

  カンヌ映画祭では、サンローランのダブルスーツに身を包んだラップ歌手A$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)の姿もあった。俳優ジョシュ・オコナーはプラダのダブルジャケットの襟にピンクの花を飾って登場した。

  2026年春夏のメンズコレクションでも、デザイナーたちはこの潮流を取り入れている。ジョルジオ・アルマーニ、ザ・ロウ、ラルフ・ローレン、ドリス・ヴァン・ノッテン、プラダ、ディオール、ブルネロ・クチネリなどのブランドが、さりげなく前を開けたダブルのジャケットを披露し、メンズファッションの変化を印象づけた。

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ドルチェ&ガッバーナのスーツを着た俳優トラメル・ティルマン

Photographer: Rocco Spaziani/Getty Images

  スタイリストのデニス氏は「私はスーツスタイルを堅苦しいものにしたくない」と語る。着想を得る対象として、ミュージシャンのブライアン・フェリーやデヴィッド・バーン、セルジュ・ゲンスブールに加え、1970年代の黒人映画のヒーロー像を挙げた。「彼らはダブルのジャケットを多様な場面で着こなしてきた。昼から夜まで通用する本物のスタイルだ」と述べた。

  ロサンゼルスでは古着店でもダブルジャケットが人気を集めている。若い男性は前を開けて羽織り、着慣れたジーンズと合わせるのが定番になりつつあるという。「このスタイルに挑戦するなら、ジャケットに主役を任せることだ」とデニス氏はアドバイスする。

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プラダのダブルジャケットを着た俳優ジョシュ・オコナー

Photographer: Stephane Cardinale/Getty Images

  ニューヨークでオーダーメード紳士服店「J. Mueser」を営むジェイク・ミューザー氏は、メンズファッション全体に広がるシルエットの変化を自然な流れとみている。

  現在のダブルジャケットは、かつて儀礼的とされたスタイルに、新型コロナ禍で人々が慣れ親しんだ快適さを融合させている。人々は再び着飾りたいと望む一方で、窮屈さは避けたい。「これはポスト・コロナの日常の一部だ」とミューザー氏は述べ、職場だけでなく、パーティーやデートで着られるスーツを求めて相談に訪れる顧客が増えていると付け加えた。

  この潮流はジェンダーの壁を超えても広がりつつある。今季のウィメンズコレクションでは、ステラ・マッカートニー、ボッテガ・ヴェネタ、ロロ・ピアーナ、グッチなどがダブルを取り入れた。

  女性向けスーツブランド「クレメンティナ」を立ち上げたコンテンツクリエイターのエミリー・ホーティン氏は「ダブルのジャケットは時代を超えて自信を感じさせる装いであり、いわば『メンズライク』な魅力を持つ。格調がありながらも寛容さを兼ね備えている」と語った。

原題:Double Breasted Suits Are Making a Comeback (With a Cool Twist)(抜粋)

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