米政府の圧力で深夜テレビ番組が放送休止に追い込まれるという米メディア界に波紋を広げている問題を巡り、英国を国賓訪問したトランプ米大統領と英首相の2人が18日の記者会見で言及するという異例の場面があった。

  米ウォルト・ディズニー傘下のABCネットワークは17日夜、ジミー・キンメル氏の番組を無期限の放送休止とした。同氏は15日、共和党活動家チャーリー・カーク氏の暗殺に対するトランプ大統領とその支持者の反応を批判。これを受けて連邦通信委員会(FCC)のカー委員長が公に非難していた。

  ABCの判断について記者団に問われたスターマー英首相は、言論の自由は英国のアイデンティティーの一部だとあらためて発言。第2次世界大戦で米国と共に戦った理由の一つでもあると述べた。

US President Donald Trump's UK Visit Shifts From Pomp to Politics and Investment

トランプ米大統領(左)とスターマー英首相の共同記者会見(9月18日)

Photographer:Neil Hall/EPA/Bloomberg

  一方、隣に並んだトランプ氏は異なる見解を示した。「ジミー・キンメル氏は才能のない人物だ。視聴率も悪く、もっと前に解雇されるべきだった」とし、「これが言論の自由と呼ぶかどうかはともかく、彼は才能不足で解雇された」と述べた。

  米国の歴代大統領は報道機関と対立することもあったが、ここ数カ月のトランプ氏のようにメディアへの圧力を強めた大統領はいない。トランプ氏は政権の規制権限や訴訟を実際に利用、もしくは使うと脅すことにより、世界有数の報道機関に譲歩を迫ってきた。

  コロンビア大学ジャーナリズムスクールのフアン・マヌエル・ベニテス教授は、メディア企業や学術機関、米企業のいずれもトランプ政権の「意向に屈している」と指摘。「左派・右派・中道の問題ではない。ビジネス上の判断だ」と付け加えた。

  複数のメディア関係者や識者によれば、トランプ氏のこうした戦略はおおむね成功しており、米国の報道機関が今や国営メディアのような様相を呈しているという。

  ABCにとって政権との衝突は初めてではない。昨年12月、ABCニュースの司会者ジョージ・ステファノプロス氏の発言を巡り、トランプ氏が提起した名誉毀損(きそん)訴訟で同ネットワークは1500万ドル(約22億円)を支払って和解した。

  パラマウント・グローバルも傘下のCBSニュースが、2024年大統領選の民主党候補のカマラ・ハリス氏に有利な形でインタビューを編集したとするトランプ氏の訴訟に関し、7月に1600万ドルを支払って和解した。これはスカイダンス・メディアとの合併をFCCに承認してもらう過程での動きで、同ネットワークはその後、トランプ氏をたびたび批判していたスティーブン・コルベア氏の番組終了を発表。6日後にFCCは合併を承認した。

  米政府は多様な手段でメディアに影響力を行使できる。FCCはテレビ局の放送免許を取り消す権限を持つが、歴史的に見ればそのような事例はまれであり、コンテンツの決定と結びつくことはあまりない。

  カーFCC委員長は17日、保守系ポッドキャストに出演し、キンメル氏を批判するとともにABCの親会社への処分の可能性を示唆。「今のディズニーにとって極めて深刻な問題だ。簡単に済ませる方法もあるが、厳しく対応することもできる」と述べた。

  直後に、ABC系列局を保有するネクスター・メディア・グループは、キンメル氏の番組の放送休止を発表。ネクスターは現在、放送局テグナの買収計画(総額62億ドル)においてFCCの承認を必要としている。

  ネクスターの広報担当者は「番組の休止は経営陣が独自に決定したものであり、FCCやその他の政府機関とは事前にやり取りはなかった」と説明している。

  キンメル氏の番組休止を巡っては、多くの政治家や文化関係者が抗議の声を上げている。民主党の連邦議員は、カー委員長の辞任を求める動きを強めている。

  「キンメル氏の番組が打ち切られたことは、米国における言論の自由の危機的転機だ」と、ニューヨーク大学でコメディー脚本を教えるソール・オースターリッツ教授は指摘。「軽いジョークでも放送休止になり得るなら、テレビで許容される発言の幅は大きく狭まり、保守的な発言以外が排除される構図になる」と警鐘を鳴らした。

  世論の反発にもかかわらず、トランプ氏は方針転換の姿勢を見せていない。キンメル氏の番組休止が報じられた直後、同氏はABCの決定を称賛し、NBCにもジミー・ファロン氏やセス・マイヤーズ氏の解雇を求めた。

  さらに、大統領専用機エアフォースワンで記者団に対し、「放送免許を持つネットワークの夜の番組が連日トランプ攻撃ばかりだ。それは許されない。彼らは民主党の手先だ」と述べた。

原題:Trump’s War on Media Reaches New Extreme With Kimmel Suspension (抜粋)

Leave A Reply