Photo: Charlie Clift/Getty Images
アカデミー史上唯一、3度の主演男優賞を手にしているダニエル・デイ=ルイス。2017年に公開されたポール・トーマス・アンダーソン監督作『ファントム・スレッド』を最後に俳優業からの引退を表明していたが、息子ローナン・デイ=ルイスの監督デビュー作『Anemone(原題)』で、8年ぶりにスクリーン復帰した。その決断の裏側を『Rolling Stone』のインタビューで、彼は次のように語った。
「私は映画の世界を離れたわけですが、ローナンがこれからも映画を作り続けていくだろうと思ったとき、何とも言えない悲しみを覚えたんです。そこで、一緒に何かを作り、この感情を制御できたら素敵じゃないか。必ずしも大作映画のような大掛かりなものにしなくても良いんじゃないかと思ったんです」
ローナンとともに同作の構想と脚本にも携わったが、「再び公の場に復帰することに不安もあった」という。「演技はずっと好きでしたし、嫌気が差したことなど一度もありません」と話すが、「仕事を始めたときから今日まで、ずっと受け入れられないこともあった」そうだ。撮影のたび、最後には空虚感に襲われ、徐々に自分を取り戻せるとわかっていたものの、『ファントム・スレッド』を撮り終える頃には、もう元に戻れないと強く感じるようになっていた。「仕事から離れたほうがいいかもしれない。もう提供できるものが何もない」と感じたそうだ。「でも、今振り返ってみると、黙っていればよかったと思います」
当時、代理人を通じて「ダニエル・デイ=ルイスは今後、俳優として活動することはありません」と明らかにしたが、実は引退を表明したのはこれが2度目だった。ジム・シェリダン監督の『ボクサー』(1997)に出演した後、イタリアで靴職人になると宣言したが、2002年公開のマーティン・スコセッシ監督作『ギャング・オブ・ニューヨーク』で復帰している。「大げさでした。本当に引退する気はなかったんです。ただ、他の仕事もできるように、特定の仕事を中断しただけでした。2回も引退したと揶揄されているようですが、何からも引退するつもりはなかった!」
ダニエルは年を重ねるにつれて、情熱を取り戻すのに時間がかかるようになったそうだが、息子のローナンとともに仕事をして、「最初から最後まで純粋な喜びでした」と明かしている。『Anemone』は10月3日よりアメリカで限定公開される。
Text: Tae Terai