沖縄を描くそれぞれの「覚悟」
米国統治下の沖縄に、米軍基地から物資を奪う「戦果アギヤー」という英雄たちがいた──。圧倒的熱量で戦後の沖縄を描いた真藤順丈さんによる小説『宝島』。2018年に発売された本作は、第9回山田風太郎賞、第160回直木賞、第5回沖縄書店大賞の三冠を達成、沖縄をはじめ全国各地で大きな話題となった。

その長編小説がこのたび実写映画になって、9月19日に全国公開となる。監督は『るろうに剣心』シリーズやNHK大河ドラマ『龍馬伝』の大友啓史さん。主演に妻夫木聡さんを迎え、広瀬すずさん、窪田正孝さん、永山瑛太さんら日本を代表する俳優たちが集結。191分という大長編で原作に負けない熱量の映画になった。
さらに真藤さんは『宝島』につづく物語として、『英雄の輪 -HERO’S ISLAND Another Story-』を発表。新しい物語からも『宝島』の世界を広げている。『小説現代』に掲載されている記事から抜粋して、妻夫木さん、大友監督、真藤さんの鼎談を紹介する。
写真左から真藤順丈さん、妻夫木聡さん、大友啓史さん 撮影/森清
文/なかのかおり 写真/森清
ヘアメイク(妻夫木さんのみ)/勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト(妻夫木さんのみ)/片貝俊(辻事務所)
沖縄と向き合う時
――7月の暑い日、大友監督、真藤さん、妻夫木さんによる鼎談が実現し、映画化の過程や作品に込められた思いについて語った。取材のテーブルにつくと、妻夫木さんは、嬉しそうに鮮やかなブルーの名刺を差し出した。「配って、大喜びしているんですよ」。肩書は「宝島宣伝アンバサダー」で、自ら全国キャラバンに飛び回っているという。
北海道のイベントでも名刺を!©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
こちらが妻夫木さんの名刺!
大友監督は、演出した連続ドラマ『ちゅらさん』で描き切れなかった、「戦後沖縄の歴史」に向き合うべく映画化を決意したという。当初は5時間の構想だったが、台本を練りに練り、さらに編集を重ねて劇場公開版の191分になった。
大友啓史(以下、大友):『宝島』には熱量とともに、怒りも込められていると思うんです。『宝島』から現代に目を移すと、いまの日本は「怒り」を忘れてしまっているのではないかとすら思う。ただ「怒り」もときには必要だけど、怒るばかりでは届かないこともある。コロナ禍という怒りをぶつける先もない災禍で、怒りとは何かを改めて考えました。そして、それまで作ってきた脚本を全部捨てて、また書き直すことを繰り返し、少しずつ出来上がっていった感じでしたね。
大森啓史監督 撮影/森清うっかり沖縄を背負ってしまった男
――原作を書いた真藤さんは、主人公・グスクを妻夫木さんが演じると聞いたとき、どう思ったのだろうか。
真藤順丈(以下、真藤):小説では登場人物たちの視点を超越した「沖縄の声」のようなものが語り部なんですが、映画ではそうもいかない。だからグスク役の妻夫木さんが「語り部」もやられています。これは小説と映画の大きな違いだと思っていて、複雑で多面的な人物を演じて、しかもナレーションも担うというのは負担が大きすぎるのではと心配した。だけど妻夫木さんの包容力のある沖縄言葉の語りが、すごく良いんです。
妻夫木さん演じるグスクは映画で「語り部」の役も担っている ©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
とにかくグスクは、戦果アギヤーであり警官でもあり、ヤマコと付かず離れずのニイニイであり、レイの写し鏡であり、オンちゃんの魂を継ぐ男でもあり、沖縄の変化を見守る立場になっていく。「うっかり沖縄を背負ってしまった男」なんです。
大友:いいですね。「うっかり沖縄を背負ってしまった男」。
