「大人になると、新しい音楽を聴かなくならない?」

中高生の頃 仲良くなった友人たちに久しぶりに会った日、そんな話になった。

「確かに。わたしもこの仕事じゃなかったら、新しい音楽をわざわざ聴こうって思わないのかも」

その日も、何か曲を流そうよという話になったとき、選んだのはわたしたちが共通して昔聴いていた曲たちだった。

わたしたちには共通点がない。傍から見れば。

この友人たちと仲良くなり始めた頃、あまりにも共通点の見えないわたしたちだったからなのか、わたしたちが一緒にいるところをほかの友人たちに街中で偶然見かけられたとき、目を見開かれたことさえある。

当時は深く考えずに一緒にいたわたしたちだけれど、その共通点は音楽だったのだと、いまになって思う。

わたしの友人は全員と言ってもいいほど、音楽が好きな人が多い。その日会った友人たちとは特に、会うたびに必ず、そしてごく自然に音楽の話になるのだ。

中高生のころのわたしたちが当時何を話していたのか、事細かには覚えていないけれど、音楽の話はいつでもしていたと思う。新曲がラジオで流れるから聴こうよとか、あのライブに行かない?とか、この前のあのバンドのライブの演出がすごかっただとか、あのバンドの最近の曲はあんまりだとか。

例に漏れず、その日も音楽の話をした。

でも確かに、あのころと比べたら新しい音楽の話は少なかったのかもしれない。

それまで特に気にしたことは無かったけれど、どこか自分が過去に縋って前に進めていないような気がして、すこし怖くなった。

8月16日、<SUMMER SONIC 2025>東京。

出演権をかけたオーディションの二次審査で敗退してから5年後の今年、わたしたちSOMOSOMOはオファーをいただいてClub Que Será Seráというステージに出演させていただいた。

わたしたちのようなまだ名の知れていない、まだまだちいさなアイドルグループが、<サマソニ>と言えば音楽ファンはもちろん、音楽ファン以外にも耳馴染みのあるであろう夏フェスに出演させてもらえるなんて。

この機会を逃すわけにはいかない、と思った。

それは、いち演者としても、いち音楽ファンとしても。

わたしが好きな音楽のほとんどは日本の音楽だ。

海外のアーティストで聴いたことがあるのは、母親が愛してやまないカーペンターズ、好きなバンドがコラボしていたOWL CITY、わたしが愛してやまないSEKAI NO OWARIの海外名義のEnd of the Worldとしての楽曲、くらいだろうか。

海外アーティストの曲を避けてきたわけではない。誰を聴いていいか分からない、そしてどう楽しんでいいか分からない、というのが本音だった。

ただわたしは、音楽が好きです!と言いながらも、海外アーティストの音楽にあまり触れていないということに、どこか後ろめたさを感じていた。

日本を代表する3大夏フェスのうち、<SUMMER SONIC>は一番海外アーティストの出演が多いイメージがある。

だからこそわたしは、この機会を逃すわけにはいかない、と思ったのかもしれない。

わたしはこの日自分の出演が終わったら、元々観たかったアーティストはもちろん、知らないアーティストも観ようと決めていた。せっかくなら、本当に何にも知らないアーティストに出会おう、と。

直感で足が向いたのは、17:25からのSONIC STAGE、BLOC PARTYだった。

前述した通り、わたしは海外アーティストに詳しくない。

難しいことはよく分からない。語れるほどの知識もない。

だから、いまだけは安直な言葉で書かせてほしい。

すごく、格好良かったし、楽しかったのだ。

何が?どうして?と聞かれると難しい。

曲も知らない、その曲がどんなことを歌っているのかも分からない、MCで何を話してくれているのかも分からない。

流れてきた音楽に、目の前にいる人々が自由に体を動かして、自由に手を挙げて、自由に声をあげていた。

その空間がわたしは、訳もなく、すごく好きだと思った。

その夜、耳に残っていた音を頼りに、BLOC PARTYの曲を聴きながら帰路に着いた。

わたしにとっての新しい音楽がまたひとつ、始まった日だった。

過去に縋る、という恐ろしい言葉があるけれど、過去を大切に思う、と言い換えることができるのなら、それは悪いことではないと思う。

あの日会った友人に、「何か曲を流そうよ」と言われて「何がいい?」と返したら、答えは「このメンバーと言ったらやっぱり、BUMPの『アリア』でしょ」だった。

わたしはその瞬間、言葉に表せないような嬉しさと驚きでいっぱいになった。

その曲は、むかしわたしたちが一緒に聴いた曲だった。

地元のお祭りの人混みに疲れ果てて、お祭りを抜け出して、コンビニの駐車場でアイスを食べながらスマホでラジオを流して、その曲のラジオ初フルオンエアを聴いた。

大したことはしていないはずだ。それなのに、あの夜がすごく楽しかったといつまでも思い続けるなんて変なの、と思って、誰にも言わずにこっそり心の中で大切にしている思い出だった。

あれから何年も経って、あの夜は、わたしだけが覚えている思い出では無かったことを、やっと知ることができた瞬間だった。

いつかきっとわたしは、BLOC PARTYに出会った日のことも、あの夜と同じように大切にするだろう。

むかし出会った音楽を、いまも変わらず大切にしているように、いま出会った音楽が、いつか過去になったとき、大切に思える音楽になったらいい。

それが日本だろうと海外だろうと、バンドだろうとシンガーソングライターだろうと、そしてアイドルだろうと。

ツクヨミケイコ

1月13日生まれ、東京都出身。2019年5月に結成、同年7月1日にデビューした、7人組アイドルグループ・SOMOSOMOのメンバー。「全身全霊ではしゃぎ倒す」をコンセプトに掲げ、ロックを軸とした楽曲でエネルギッシュなライブパフォーマンスを行なっている。SOMOSOMOでは楽曲の多くの作詞も担当している。

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