© 松井良彦/ Yoshihiko Matsui

 登壇者:前田旺志郎、窪塚愛流、井浦 新、柏原収史、松井良彦監督

 松井良彦監督の18年ぶりの新作となる映画『こんな事があった』公開初日舞台挨拶が都内で行われ、主演の前田旺志郎、共演の窪塚愛流、井浦 新、柏原収史と松井監督が出席して作品についてクロストークを行った。

 本作は、東日本大震災から10年後の福島県を舞台に、震災と原発事故をきっかけに離散した家族と青春を奪われた人たちをモノクロの映像で描いたオリジナル・ストーリー。震災後1年たって、福島を訪れた松井監督が現場を見て、すぐに映画化を決意し13年かけて作品が完成した。

 まず、松井監督が「ようやく公開を迎えることができました。皆さまの前でご挨拶ができて、作品を作った監督として、とても嬉しく思います」と感慨深げな様子で挨拶の言葉を述べた。

 松井監督は震災前から福島を訪れることが多く、「人がおおらかで、優しくてすごく居心地のいい風光明媚な場所。食べるものも美味しい。でも、東日本大震災と原発事故の後、風景がすっかり変わってしまいました。友人に誘われて参加した国会前のデモで、当事者の方たちの話を数多く聞きました。家族の離散や崩壊という辛い話をたくさん聞き、怒りを感じて必ず映画にしたいと思いました」と映画化への道のりを話した。

 主人公の広瀬アキラを演じた前田は、満員の観客を前に「初日にこんなにたくさんの方に観ていただけて、嬉しいです!」と挨拶。震災当時、小学4年生だった。撮影前に福島を訪問した前田は「この作品に参加するっていうことは、『怒りとか憤りを代弁しなきゃいけない』っていうプレッシャーもありました。震災後の福島は今も復興が続いており、現地の方々から被害や悲しみ、怒りについてお話を伺いました。僕が演じて代弁することで、まさに“こんな事があった”と伝えることができたら、そんな俳優冥利に尽きることはないと思います」と話した。

 アキラの友人・山本真一役を演じた窪塚は、震災当時は小学1年生で横須賀に住んでいたという。震災直後のことを「鮮明に覚えています」と、学校で避難した状況について詳しく話す。作品については「白黒映画と言うところが響きました。それぞれの感情で彩って自分の中で落とし込む映画だと思ったので、そんな映画に携われて嬉しかった。多くの方に『伝えたい』と思いました」と力を込める。

 アキラの面倒を見ることになった小池ミツオ役を演じた柏原は、松井監督の前作『どこに行くの?』(2007)で主演している。「監督から『映画を撮るよ』とお話をいただいた時、飛び上がるほど嬉しかった」と話す。「この作品をきっかけに皆さんがまたそれぞれの(震災への)思いが生まれるきっかけになれば……」と思いを伝えた。

 真一の父・篤人役を演じた井浦は『追悼のざわめき』(1988年)を観てからの松井監督の大ファンであることを明かし、松井監督作品への初参加を「夢が叶ってしまって怖かった」と話す。「単なる原発(事故の後に)頑張っていますというだけの作品ではなく、弱者をちゃんと描いてる作品だった」と作品への参加は「内容に強く惹かれてのことだった。この作品で松井監督の映画に参加できたことは本当に嬉しかった」と笑顔で話した。

 本作は福島で撮影を敢行。震災から12年がたっていた。
 福島で震災現場に立った前田は「独特の空気感があって衝撃を受けました。自分の目と体で感じるものは写真とは全く別物でした」と話す。

 そして、井浦も福島の撮影で「やはり当事者ではない俳優にできるのは、ちゃんと知るということしかできない。現地で空気や海を感じて、しっかり考えることくらいしかできない。この映画を当事者の方、そして知らない世代に届けて、観ていただいて、残すということは本当に価値があることだと僕は信じています」と願った。

 映画の構想から13年、制作費集めなどに奔走し、悪戦苦闘しながら脚本を書き上げという松井監督は「この日を迎えられて良かった。希薄になっている、原発の問題に意識を持ってもらえたら……」と心からの願いを伝えた。

 松井監督の社会への痛烈な怒りと切なる祈りを込めた渾身の一作。心揺さぶる魂の映画を完成させた。

 (取材・文・写真:福住佐知子)

公開表記

 配給:イーチタイム
 新宿K’s cinemaほか全国順次公開中

(オフィシャル素材提供)

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