9月第1週の動員ランキングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が週末3日間で動員50万1000人、興収8億400万円をあげて8週連続1位。9月7日までの公開から52日間の累計動員は2200万7400人、累計興収は314億2600万円となっている。続く2位の『8番出口』、3位の『国宝』も前週と変わらず。先週末は期待の新作の公開が重なったが、東宝配給による不動のトップ3を脅かすことはなかった。

 初登場作品で最上位の4位となったのは羽住英一郎監督、橋本環奈主演によるサバイバルホラー小説の実写化作品『カラダ探し THE LAST NIGHT』。オープニング3日間の動員は11万7000人、興収は1億4800万円。この成績は、2022年10月に公開されて興収11.8億円を記録した前作『カラダ探し』の同期間の71%という数字。今年は『ドールハウス』のようなオリジナル作品から『8番出口』のようなインディーズゲーム原作まで、ホラーコンテンツの映画化作品の当たり年となっているが、ジャンルをクロスオーバーしたホラー映画の先駆けの一つとなったシリーズながら、今回の続編では少々失速気味となっている。

 『銀魂』シリーズや『キングダム』シリーズをはじめ主演にこだわることなく多くの「ヒロイン」役で数々の映画に出演してきた橋本環奈だが、単独主演作、及び本作のようにトップにクレジットされる作品に限ればこれまで大ヒット作に恵まれていない。しかし、これはなにも橋本環奈に限った話ではなく、現在、日本映画界においては「出演しただけで無条件に作品をヒットさせる女性俳優」という存在自体がほとんど見当たらないというのが現実だ。

 同年代の人気女優の筆頭格といえる広瀬すずの主演作も、先週はカンヌ映画祭の「ある視点」部門に正式出品されるなど期待を集めていた石川慶監督の『遠い山なみの光』が8位に初登場と、かなり厳しい出足となった。観客に劇場に足を運ばせるには、広告や宣伝では大いに影響する知名度や好感度だけでなくファンダムの力が必要で、そのファンダムの形成においてはどうしても一部の若手男性俳優に比べて女性の俳優は弱いという状況が長年続いている。かつて、女優は銀幕を通して崇める特別な存在だった。メディア環境的に「映画女優」という職業がなかなか成り立たない現在、その時代に戻るのは無理だとしても、女優の興行的価値を底上げするためには何らかの戦略が必要なのではないか。

■公開情報
『カラダ探し THE LAST NIGHT』
全国公開中
出演:橋本環奈、眞栄田郷敦、櫻井海音、安斉星来、鈴木福、本田真凜、吉田剛明、木村佳乃
原作(小説):ウェルザード(エブリスタ)
関連書籍(漫画):ウェルザード(原作)/村瀬克俊(漫画)(集英社/少年ジャンプ+) 
監督:羽住英一郎
脚本:土城温美、原祐樹
音楽:菅野祐悟
主題歌:Stray Kids「Parade」(Sony Music Labels Inc.)
挿入歌:ヤバイTシャツ屋さん「Searching for Tank-top」(ユニバーサルシグマ/BADASS)
制作プロダクション:ROBOT
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025「カラダ探し THE LAST NIGHT」製作委員会
公式サイト:karadasagashi.jp
公式X(旧Twitter):@karadasagashi_m
公式Instagram:@karadasagashi_movie
公式TikTok:@karadasagashi_movie

宇野維正

宇野維正
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映画・音楽ジャーナリスト。米ゴールデン・グローブ賞国際投票者。映画誌やファッション誌での連載のほか、YouTube「MOVIE DRIVER」、Podcast、主催イベントなどでも精力的に活動。著書に『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、『くるりのこと』(くるりとの共著、新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(レジーとの共著、ソル・メディア)、『2010s』(田中宗一郎との共著、新潮社)、『ハリウッド映画の終焉』(集英社新書)。最新刊『映画興行分析』(blueprint)2024年7月刊行。

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