9月10日の「あさイチ」出演も話題の坂口涼太郎さん。俳優、そしてダンサー兼振付師として、またシンガーソングライターなどさまざまな分野で活動し、8月に出版された初のエッセイ「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」も大好評。すでに2刷目の重版も決定している。ますます目が離せない注目の人物である。
彼は父親が40代後半、母親が20代後半のときに生まれ、一人っ子として親の愛を一身に浴び「やりたい」「見たい」「行きたい」を丸ごと叶えてもらいながら育った。どんな時期もどんな要望にも反対することなく、坂口さんを受け入れたご両親の下で育ったことは、彼の人格形成に深く関わっているのではないだろうか。好奇心と可能性に前向きであり続けたことが、多岐にわたる分野で活躍する現在へと繋がっているように感じられてならない。
俳優・坂口涼太郎さん
坂口涼太郎(さかぐちりょうたろう)
1990年8月15日生まれ。兵庫県出身。特技はダンス、ピアノ弾き語り、英語、短歌。連続テレビ小説「おちょやん」「らんまん」(NHK)、映画「ちはやふる」シリーズ、映画「アンダーニンジャ」、ドラマ「罠の戦争」(カンテレ・フジテレビ系)、海外ドラマ「サニー」(Apple TV+)、など話題作に多数出演。他、「あさイチ」(NHK)では唯一無二のキャラクターで暴れ回り、「ソノリオの音楽隊」(NHK Eテレ)では主演兼振付師として活躍するかたわら、シンガーソングライターとしても活動。独創的なファッションやメイクも話題を呼ぶ。2025年8月6日、ウェブマガジン「mi-mollet」の連載をまとめた自身初のエッセイ『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』が書籍化される。
webマガジン「ミモレ」の連載をまとめた初のエッセイ『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』には、日常生活のなかで感じる喜びや苦悩、「あきらめ」を通じて得られる気づき、そして普通の日々のなかにあるそこはかとないおかしみがつづられる。読み終わったあと「よし、明日も頑張ろう」と思える、心に元気をもらえる一冊だ。
刊行を記念したインタビューの前編では「坂口涼太郎ができるまで」についてを伺った。祖母や両親にどのように愛されてきたのか。「自分らしさ」を大切にされることの大切さが伝わる。
インタビューの第2回は人生のプライオリティを聞く。
【前編】癌が判明し「ごめんね」と謝る祖母。家族愛もすごかった、クセメン俳優坂口涼太郎ができるまで
読んだ人が「なんか私も大丈夫かも」と思える本に
「これまで恥ずかしい失敗をたくさんしてきました」と笑う坂口さん。本書を通して、「こんなに失敗しても生きてる人がいるのだから大丈夫」というメッセージを伝えたいという。
撮影/杉山和行
「生まれてからずっと成功してる人なんてこの世に一人もいないと思いますが、実際のところ人が失敗してる姿はなかなか見られません。本にしても成功論を綴ったものはあっても、失敗談をまとめたものはないですもんね。
なので今回本を出すにあたっては、『こうすればこう成功します』じゃなく、『こんなに失敗しても生きてる人がいるんですよ。恥ずかしい失敗をいっぱいしてるのに、今日ものんびりちゃぶ台の前でお茶飲んでる人もいるんです。安心してください!』という、読んだ人が『なんか私も大丈夫かも』と思えるようなものにしたいと考えていました。
今、世間には効率やお得感を重視する『タイパ』『コスパ』という言葉が溢れています。そうやって自分が損をしないように行動できるのは素晴らしいことですが、ムダのプライオリティと言いますか、ムダこそが大切という部分が実はあるんじゃないかと私は思っていて。
私自身はむしろムダに生かされてきた、ムダなことからいろいろなことを得てきた人間です(笑)。ムダってすごくオシャレだし、やらなくていいことをやるのってすごく贅沢じゃないですか。技術が発達してAIみたいなものもできて、それに助けられて楽になるのは素晴らしいことだけれど、だからこそ逆にムダの価値が上がっていくと言いますか」
たとえば、自身初のエッセイ本『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』には自身が入院したときのエピソードが綴られている。
私の病室には私を含めて四人の患者さんがいて、私は扉を開けて右奥にあるベッドにいて、ベッドの横には大きな窓があり、ずーっと空が見えていた。それがどれだけ心の支えになったかわからないほど私はずーっと空を見ていて、次第に短歌を思いつくようになり、入院している間じゅうずっと歌を詠んでいた。(中略)
退院したのは七日後だった。
たったの七日間だったとは思えないほど、これが永遠なのかと思うほど、えーえんとくちから「永遠解く力を下さい」と唱え続けたくなるようなほど、永くて深い七日間だった。
〜『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』〜「永遠を解く力」より抜粋〜
「生歌や舞台でのお芝居などがいい例ですが、どれだけ科学や技術が発展していっても、生身の人間のプリミティブな部分の価値はなくならないはず。AIで作った完璧なものに、どれだけムダを込められるか。そここそが、人間が目にしたときに『面白い』と感じる部分なんじゃないかと私は思っています。そういう意味でこの本は、私流の『ムダのススメ』と言えるのかもしれないです」