昨年6月に東京・NHKホールで開催された「JAZZ NOT ONLY JAZZ」のライブ映像が19日から劇場公開される。
実はこのライブはWOWOWで今年3月に放送されていて、録画で繰り返し見る「愛蔵盤」になっている。音響設備の整った劇場での鑑賞が楽しみだ。
注目のジャズドラマー石若駿がこのために結成したバンドに、そうそうたるゲストを迎えた一夜限りのライブである。
ゲストの6人は、BiSHの元メンバー、アイナ・ジ・エンド、ジャズ・ピアニスト上原ひろみ、シンガー・ソングライター大橋トリオ、Original Love田島貴男、ヒップホップのPUNPEE、元キリンジの堀込泰行と年齢もジャンルも幅広い。
上原をのぞいて異ジャンルからの参加であり、石若バンドの方がそれぞれに寄せるパフォーマンスとなっているが、随所でゲスト側がジャズ心をのぞかせる。
幼少時からジャズに触れ、東京芸大で打楽器を専攻した石若はジャズ・エリートと言えるが、ゲストがインタビューで明かす交友関係や演奏中の笑顔から人柄がにじむ。バンドやゲストの表情と相まって誰もがセッションを楽しんでいる様子が伝わってくる。
そもそもさまざまなスタイルを許容しながら発展してきたジャズの懐の深さを改めて実感させられる。
古い話になるが、70年に「ジャズの帝王」マイルス・デイビスがロックの殿堂フィルモア・イーストに出演した時の話を評論家の植草甚一さんの本で読んだことがある。
旧来のファンにとってはあり得ない場所や共演者。電子音楽の導入やロックミュージシャンとの共演に批判的な論評も少なくなかったようだが、そんな線引きを鼻で笑うマイルスは「(ジャンルの違う)ほかの人たちのものを、フィーリングだけを大切にする」と話している。彼のバンドにいたハービー・ハンコックは「ミュージシャン同士のコミュニケーションのほかにロック・コンサートならではの聴衆のヴァイブレーションもマイルスにとっては、音楽を生み出すたいせつな要素だったんだね」と明かしていた。
70年代のフィルモア・イーストの激アツとは違い、かなり洗練された空気が漂う会場だが、いかにも音楽好きの聴衆のほどよい反応も加わって一夜限りのパフォーマンスには見どころが多い。
ゲスト全員が顔をそろえるラストには田島貴男が93年に発表した「接吻」を選曲。やはり、ここが1番盛り上がる。会場をわかせる前奏から、口火を切って歌うアイナ・ジ・エンドの入りも、大橋トリオのさりげない鍵盤ハーモニカ演奏もしっかりと決まっている。そして上原ひろみの熱いソロ…会場が一体となった文字通りのヴァイブレーションが伝わってくる。その場限りのアドリブのはずが、まるで計ったように決まっている。
映画公開を前に第2弾「JAZZ NOT ONLY JAZZ2」も18日、東京国際フォーラムで開催されるという。ゲストはアイナ・ジ・エンドが引き続き出演する他、ロバート・グラスパー、岡村靖幸、KID FRESINO、椎名林檎、中村佳穗と今回もそうそうたるメンバーがそろう。【相原斎】