「沖縄出身ではない僕らが沖縄の物語を当事者として“生きてみる”過程に価値があった」(窪田)基地襲撃の夜に、突然姿を消したオン。彼が手にした“予定にない戦果”とは?基地襲撃の夜に、突然姿を消したオン。彼が手にした“予定にない戦果”とは?[c]真藤順丈/講談社 [c]2025「宝島」製作委員会

――この映画は1952年から約20年、アメリカ統治下の沖縄を舞台に長いスパンで物語が展開します。不在のヒーローとなった“オンちゃん”の幻影を追いかけていく3人、グスク、ヤマコ、レイをそれぞれ役として生きるうえで、あるいは生きてみながら、皆さんが大切にしていた想いや強く芽生えた感情はどういったものでしたか。

妻夫木「まず沖縄を知る、コザを知るってどういうことなんだろう?って考えた時、リサーチをしたり、歴史的背景を勉強するだけでは全然届いていない気がしたんですね。僕の中で大きかったのは撮影の前、沖縄の親友から『お前に見てほしい』と言われて、宜野湾市の佐喜眞美術館に連れて行ってもらった時のことです。そこで出会ったのが丸木位里さん、俊さんご夫妻による連作絵画『沖縄戦の図』でした。特に集団自決の凄惨な現実を描いた『チビチリガマ』や『シムクガマ』を目にした時、涙が止まらなくなりました。米軍に捕まると殺されると信じた人たちがガマ(洞窟)に逃げ込んで、愛する家族を自分の手にかけた…こんな酷い戦争がつい80年前まで起こっていた。初めて沖縄の方々の“声にならない声”を聞いた気がしたんです。沖縄のことを学んでいくうえで、いつしか“感じる”ことを忘れていた自分がいた。頭でわかっているつもりになっちゃいけない。この体験がグスクを演じている間、自分の根底の支えになっていたように思います」

警察とヤクザになり、ずっとすれ違ってきたグスクとレイ。2人の運命は?警察とヤクザになり、ずっとすれ違ってきたグスクとレイ。2人の運命は?[c]真藤順丈/講談社 [c]2025「宝島」製作委員会

窪田「妻夫木さんがおっしゃったように、僕も肝に銘じていたのは“頭で理解した気にならない”ことでした。もちろん戦争で負った深い怒りや悲しみ、戦後もアメリカに統治され続けていた事実はあるんだけど、僕はレイを演じながら、それでもその時代に生きて幸せだったことにフォーカスしたかったんです。特に“戦果アギヤー”としてレイがグスクやオンちゃんと行動を共にしていたころは、それが彼らの青春ですからね。みんなで一生懸命走って、お宝をぶんどって。それのなにが悪いんだ、生きていかなきゃしょうがないんだから、っていう彼らのなかの正義とリスキーな冒険の中で起きる高揚や感動。そこがこの物語の中で起きる一番重要なことだと僕は思っていて。少なくともレイは、あの時に仲間たちと味わった幸福感をずっと追い求めている人間だと思うんです」

妻夫木「よくわかる。映画のハイライトシーンになるコザ暴動(1970年12月20日にコザ市で発生した事件。米施政下での圧制と人権侵害に対する沖縄人の不満が爆発した)にしても、あの混沌とした渦中にいる時は誰もが単一の感情じゃないんだよね。刑事という立場になったグスクにとっても、祭りのような高揚も、言葉にならない怒りも同時にある。だからその場に放り込まれて“生きてみる”しかない」

「私自身も現場で感じ取ったものがすべての答えだったような気がしている」(広瀬)アメリカ統治下の沖縄では、自分たちではなにもできない現実に腹を立てながらも、受け入れるしかなかったアメリカ統治下の沖縄では、自分たちではなにもできない現実に腹を立てながらも、受け入れるしかなかった[c]真藤順丈/講談社 [c]2025「宝島」製作委員会

窪田「はい。いくら資料を漁ろうが、やっぱり感覚で得ていくしかなくて。特に今回は方言も含めて、沖縄出身ではない僕らが沖縄の物語を当事者として“生きてみる”過程に価値があったと思っています。例えばヤマコが教師として勤めている小学校に米軍の飛行機が墜落してしまう…これは歴史上の悲惨な大事故をもとにしたエピソードですけど、ただ一方で小学校の教壇に立つ彼女の目はすごく輝いていたと思うんです。ヤマコは彼女なりの自己実現を着々と進めていくなかで、いま幸福なんだろうな、という瞬間を何度も見せる。その点、レイは混迷しながら状況をかき混ぜる役回りなので、僕はどこかヤマコのことを羨ましく見ていました」

広瀬「登場人物に男性が多いので、ヤマコは“戦果アギヤー”の活動の時もちょっと外にいる存在なんです。もちろんヤマコも自分の意思で教師の道を選択し、平和のための政治運動にも身を投じていくわけですが、『宝島』の軸としては“男の子”たちが自分の好奇心と価値観をぶつけ合ってそれぞれの生き様を見せていく物語だと思います。大友監督には『ヤマコは太陽でいてほしい』と言われたんですね。私としては、恋人だったオンちゃんのことをずっと意識しながら、夢を見たくて切実に生きようとしている女性の物語でもあるのかなって思っていました。おばあたちであったり、バーを切り盛りして自分の居場所を確保しているチバナさん(瀧内公美)だったり、この映画の女性たちは男性たちをどっしり支える存在ですよね。オンちゃんもそうなんだけど、彼女たちがいるから男性たちは冒険にも繰り出せるのかなって」

努力の末、夢をかなえて教師になったヤマコ。オンの帰りを待ちながら、基地反対・祖国復帰運動に参加していく努力の末、夢をかなえて教師になったヤマコ。オンの帰りを待ちながら、基地反対・祖国復帰運動に参加していく[c]真藤順丈/講談社 [c]2025「宝島」製作委員会

――なるほど。

広瀬「私自身も現場で感じ取ったものがすべての答えだったような気がしているんですが、登場人物の多い映画なので、きっと役や立場によっていろんな捉え方ができるんじゃないかなと思います。ちなみにレイとヤマコが衝突するシーンがあるんですけど、身体的なパワーは男性のほうがずっと強いはずなのに、ヤマコの反撃にレイは尻込みするんです」

窪田「女性にはやっぱり勝てないんですよ」

広瀬「あそこはヤマコとして生きる道しるべができたシーンでしたね」

 映画の完成を「夢のよう」と語った妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝が作品に秘めた想いを明かす 映画の完成を「夢のよう」と語った妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝が作品に秘めた想いを明かす撮影/興梠真穂

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