仕事術の本を集めた書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

仕事術の本を集めた書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。ビジネス書や経済書の売れゆきは好調で、新刊の実務書などもよく売れているという。そんな中、書店員が注目するのは、何をやらないかを見極め、仕事の効率を上げる「捨てる仕事術」を説く、コンサルタント兼起業家の本だった。

「仕事に追われている人」に意識改革促す

その本は後藤勇人『仕事が速い人がやっている 捨てる仕事術』(あさ出版)。著者の後藤氏は、本書によれば、ホテル業、ヘアサロン、コンサルティング、不動産賃貸など10業種の事業を手がけるコンサルタント兼起業家だ。ビジネス書の著作も14冊に及び、講演活動も精力的に行っている。

一見多忙にみえる同氏の仕事を支えているのが「捨てる仕事術」だ。自身の実践に加え、これまで出会った「仕事の速い人」がやっている仕事術を「捨てる仕事術」という視点から整理して紹介したのが本書だ。

働き方改革が進展し、Chat(チャット)GPTのような人工知能(AI)ツールの活用が進んでも、意外なほど「仕事に追われている」とこぼす人が少なくない。そんな状況から抜け出すには「仕事との対峙の仕方において、あなた自身の意識改革が必要」と説く。

「目の前の仕事の8割は捨ててよい」とまで言う。「新しい仕事に取りかかるたびに、捨てられることはないか、まず考えます」というのが著者の姿勢だ。決して仕事の手を抜くとかやりたくないことはやらないというのではなく、結果につながらない仕事を合理的にはしょったり、自分じゃなくてもよい仕事を他人に振ったりして価値ある仕事に集中することが「捨てる仕事術」なのだ。

「もらった名刺」も「大きな目標」もいらない!?

全体は6章構成。1章で捨てる仕事術の効用と考え方を押さえた後、2章「捨てる仕事術」では仕事の基本姿勢で捨てるべきことを紹介し、3〜6章では時間、人付き合い、メンタル、習慣にそれぞれ焦点を当てて、捨てるべき仕事を指摘していく。

「細かすぎる報告・連絡・相談」「デザイン性の高い資料(資料作成)」など、常識的なムダ仕事の指摘も少なくないが、「いつものチェック」「もらった名刺」といった、本当に捨てていいのと思うようなこともやり玉に挙げているのは、捨てる仕事術の達人を自認する人ならではの指摘だろう。

著者によれば、慣習的に続いているチェックの中には過剰なものが潜んでいるという。名刺に関しては、付き合いが続いている人とはメールやSNS(交流サイト)などでつながっていて、名刺を見返すことは皆無だそうだ。必要でない名刺は感謝と共に処分しようとすすめる。

人付き合いやメンタル、習慣といった側面からは、心をすり減らすようなものが捨てる対象として、いろいろと言及されている。「大きな目標」「理想」といった、むしろ持つべきと思えることも、著者によれば捨てる対象だ。

大きな目標よりも小さな目標の積み重ねを、と著者は言う。理想に縛られて身動きがとれなくなるよりも、理想は目安くらいに考えて、完璧主義に陥ることをやめようと呼びかける。捨てることで負担を抱え込まず、より自由な働き方を目指して人生をゆたかに生きようというのが著者が本書に込めたメッセージだ。

「入荷して4〜5日ほどだが、店頭での反応がよく、ランキング上位に入ってきた」と店長の瓜生春子さんは話す。仕事術の本は様々な切り口で幾度となく刊行されている。ビジネスパーソンにとっては常に気になるテーマのようだ。

『契約書作成の実務と書式(第3版)』が3位に

それでは、先週のランキングを見ていこう。

(1)GPT時代の企業革新野村昌弘著(ダイヤモンド社)(2)ビジネスパーソンに必要な3つの力山本哲郎著(BOW&PARTNERS)(3)契約書作成の実務と書式 第3版阿部・井窪・片山法律事務所編(有斐閣)(4)仕事が速い人がやっている 捨てる仕事術後藤勇人著(あさ出版)(5)【改訂版】本当の自由を手に入れる お金の大学両@リベ大学長著(朝日新聞出版)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2025年8月25~31日)

1位はAI時代の企業変革が向かう方向を見定めながら、そこで競争優位に立つ企業像を提示した本。富士通系のデジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティング会社、リッジラインズ上席執行役員が著者だ。本欄5月の記事〈ビジネスパーソンに必要な3つの力とは やらされ感とは無縁で人生を生きる方法論〉で紹介した本が2位に入った。

3位はランキング上位に来ることが珍しい実務書。最近の法改正などを踏まえた契約書のひな型を多数掲載した内容の最新版が出たことで売り上げが伸びた。今回紹介した『仕事が速い人がやっている 捨てる仕事術』は4位だった。5位には、2024年刊のマネー指南のベストセラーが入った。

(水柿武志)

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