イスラエル軍に殺害されたパレスチナ人の少女の実話を基にした映画「The Voice of Hind Rajab」(ヒンド・ラジャブの声)が、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された。

映画が初公開された後、観客たちは約24分間にわたってスタンディングオベーションをし、「パレスチナ解放」の掛け声を響かせた。

この映画は、チュニジア人のカウテール・ベン・ハニアさんが脚本と監督を務めた。ガザで2024年、6歳の少女ヒンド・ラジャブさんがイスラエル軍に殺害された事件を再現している。

ラジャブさんは、いとこら親族と車でガザ市内から避難していたところ、イスラエル軍の砲撃を受けた。

生き残ったラジャブさんは、車内からパレスチナ赤新月社に電話で助けを求めた。だがその12日後、ラジャブさんは親族たちと共に遺体で発見された。

NBCなどによると、ラジャブさんを救出するために救急車で向かった救急隊員2人もイスラエル軍に殺害された。

ロンドンを拠点とする研究団体「Forensic Architecture」は、アルジャジーラと共同で行った調査の結果、ラジャブさんが乗っていた車の外装から335個の銃弾痕が見つかったと報告している。

映画が上映された会場で、観客たちの拍手が響く中、俳優のモタズ・マルヒースさんがパレスチナの旗を広げた。マルヒースさんは、ヨルダン川西岸の町ジェニン生まれ。映画では、ラジャブさんから最初の通報を受ける赤新月社のボランティアを演じている。

米誌Varietyによると、映画の出演者は全員パレスチナ人だという。

3日に開かれた記者会見では、出演俳優のサジャ・キラーニさんが製作チームを代表し、声明を読み上げた。

キラーニさんは「大量殺りく、飢餓、破壊、非人間化、そして今も続く占領はもうたくさんです」と訴え、こう続けた。

「ヒンドの物語は、彼女だけのものではなく、ひとつの民族全体の重みを背負っています。彼女の声は、過去2年間だけでガザで命を落とした1万9000人の子どもたちのうちの一つにすぎません。

それは、全ての母親、父親、医師、教師、芸術家、ジャーナリスト、ボランティア、救急隊員の声です。一人ひとりが生きる権利、夢を見る権利、尊厳を持って生きる権利を持っていたにも関わらず、瞬く間にその全てを奪われました。

そして、これらは私たちが知っている声にすぎず、数字の向こうには、語られることのなかった物語があるのです」

キラーニさんは「ヒンドの物語は、『助けて』と叫ぶ子どもの物語」だと言い、「私たちはどうして命を懇願する子どもの声を聞かずにいられたのか」と問いかけた。

「たとえ一人でも子どもが生きるための懇願を強いられている限り、誰も平和に暮らすことはできません。ヒンド・ラジャブの声をあらゆる劇場に響かせましょう。世界がガザの周囲に築いた沈黙を思い起こさせましょう。その沈黙が守っている虐殺に名を与え、『もうたくさんだ』という言葉を突きつけましょう。明日でも、いつかでもない。今です。正義のために、人間性のために、全ての子どもたちの未来のために」

モタズ・マルヒースさんは「ヒンドの声を聞いた時、一気に自分の子ども時代に引き戻されました。何千回も死んだような気持ちになりました。これは演技ではなく、私の人生そのものでした」と述べた。

ベン・ハニア監督は「正義はとても重要ですが、私たちはまだそこに到達していません」と語った。

「私たちは『ジェノサイドはもうたくさんだ』と言っています。理想の世界では、ヒンドや殺された全ての人々に正義がもたらされることを望みます。でも、私たちはそこからはるかに遠いのです」

ラジャブさんの母ウィサム・ハマダさんは、「世界中が何もしないまま、私たちを死なせ、飢えさせ、恐怖の中で暮らし、強制的に避難させています」と話し、この映画が戦争終結の助けとなることを願っているとAFP通信に語った。

『The Voice of Hind Rajab』の製作総指揮には、俳優のブラッド・ピットさんとホアキン・フェニックスさん、ルーニー・マーラさんのほか、『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督、『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督なども名を連ねている。

フェニックスさんとマーラさんは、ヴェネツィア国際映画祭にも参加し、プレミア上映後にキャスト陣と抱きしめ合った。

映画祭の期間中である8月30日には、パレスチナに連帯し、イスラエルによるガザ攻撃に抗議する数百人規模のデモがリド島で行われた。

【動画】出演者にハグするホアキン・フェニックスや、「パレスチナ解放」の声が響く会場

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